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栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
34
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
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ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      

 

826日(土曜日)、今年も北京国際図書博覧会(北京ブックフェア)に一般参加してきました。

 

2016年:2016年 第23回北京ブックフェア

2015年:2015年の北京ブックフェア.

2014年:3年ぶりに北京ブックフェアに行った話

2011年:北京ブックフェアに行って参りまして

 

今回は、ブースを出展している中国の出版社に勤める友人のガイドがありました。もう何年間も来ているので今更案内など必要ないのですが、出展側の話が聞けて楽しかったです。

 

 

日本ブース

 

去年の安野モヨコ展に続き、今回は手塚治虫展が目玉になっていて多くの参加者が写真を撮っていました。

 

 

講談社ブースはいつも通り日本ブースで一番大きな規模でした。

 

 

 

 

 

そしてその他の出版社ブース及び展示されている本の数々。これらは展示しているだけで読むことしかできません。平日の企業商談日は世界各国の出版社がこれらの版権を売買します。友人の話では展示している本全てに「版権売却済み」シールを貼っていた日本企業もあったみたいで、日本書籍の人気ぶりが伺えました。

 

 

師走の翁の『JKプロレスイラストレーションズ技画』。

 

日本ブースでは毎年必ず中国大陸では到底出版できなさそうな本が展示されている。てっきり日本の出版社の悪ふざけかと思っていたのですが、おそらく台湾や香港などの出版社へ向けた展示なのでしょうね。

 

 

 

 

 

ドイツブース

 

マレーシアブース

 

 

 

韓国ブース

韓国ブースはいつもより小さかったかなという印象を受けました。一般参加日になると撤収するのは相変わらずでほとんどの出版社はいなくなっていました。

 

 

例年通り漫画を推す韓国の出版社。

 

 

北朝鮮ブース

エラい隅っこに出展していた。

 

英語版及び中国語版の対外宣伝雑誌や金一族の偉業を伝える書籍などが置かれていた。

 

毎年出展しているが本を買えることに気付き、せっかくなので雑誌2冊と、動物園に関する本、そして金正恩と子どもたちのエピソードが書かれた本を購入。全部で50元(800円ぐらい)だった。

 

台湾ブース

去年より小さかったような印象を受けた。写真撮ったと思ったがなかった。

 

香港ブース

 

 

この東方の本、今年の上海の同人誌即売会『COMICUP』でも売られていた気がするが、同人誌まで売っているのか

 

 

 

香港の推理小説家・林斯の小説。

 

大陸の推理小説家・王稼駿の小説の繁体字版。

 

今回のブックフェアの一番の収穫品は『神探福邇,字摩斯』(名探偵ホーム、あざ名はモス)[要するにシャーロック・ホームズのパロディ]だった。清朝末期に活躍したという辮髪の探偵「福邇」が遭遇した様々な事件を、その助手の「華笙」(中国語でワトソンは華生という)が記録したという体裁の推理小説。ミステリや武侠小説要素も含まれているという。作者の莫理斯は女優・莫文(カレン・モク)の兄らしい。

 

中国大陸出版社館

 

北京ブックフェアはおそらく東館と西館で分かれていて、それぞれ海外館と大陸館となっている。

 

中国大陸側の出版社ブースでは参観者が購入できる本も売っているので来る側としては楽しい。

 

 

 

 

今年は子供向けのイベントが用意されており、児童書の販売や子供たちができる体験コーナー、そしてプロ?が描いたと思われるイラストが展示されていた。

 

 

中国の地域ごとに集められた出版社。

 

 

 

 

安徽省ブースでは12000元(約20万円)もする超大型サイズの各種「紙」を収めた本が展示されていた。

 

 

会場では連日トークショーなども催されていて、中国外文局が丁丁という絵本作家のトークショーを開いていた。

 

 

この後用事があったので満足に見て回れなかったですが、中国の出版事業はまだまだ元気があるみたいでした。今後はますます中国国外へ向けた事業を展開するでしょう。

 

 

 

 

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 中国歴が長い人間はジャージ(校服)にこそ萌える。

 

本書『昨日青空』(2015年)は2012年に出版された同名タイトルの新装版です。2018年にアニメ映画の上映が決定していて、中国のとあるニュースサイトで「中国版『君の名は』」だと紹介されていました。とは言え、「中国の○○」とはどのジャンルにも見られる常套句で、私は今まで何度「中国の東野圭吾」作品を読んだかわかりません。

 

そして中身を読んでみると……

 

 

自分の好きな女の子が

 

 

クラスの不良に恋していて

 

 

……

 

 

おいコレ、同じ新海誠作品でも『秒速5センチメートル』寄りの作品じゃねぇか。


 おそらくアニメのこと全く知らない記者が中国でも流行った『君の名は』の名前を借りて記事を書いたんでしょうが、わかって書いていたとするならばだいぶ性格悪いですね。

 


1990年代末の中国南部の浙江省南汐(浙江省南渓がモデル)で高校3年生の屠小意はクラス全体が受験に向かっている中でも漫画家になりたいと言う夢を持ち、進学に興味を持っていなかった。教師から同じクラスの女子・姚哲恬と共に黒板係に任命された小意は漫画という共通の趣味の話に花を咲かせ、彼女に心惹かれていく。しかし哲恬は、教育局局長の父親を持つが問題児で1年留年している同じクラスの斎景軒のことが好きだった。ある日、景軒に告白して振られる恬を見た小意は世界から光が消えたようになり、将来の目標を失う。だが友達の花生とゲームセンターで不良に絡まれていたところを景軒に助けられ、3人で野宿をしたことで、小意は景軒の真意を知り、彼と親しくなる。


 

 

この漫画、あらすじを書きづらい内容で、一言で言えばよくある青春漫画なのですが、水彩画的なタッチで描き込まれた背景によってストーリーに丁寧さが増していて、更に作者の口袋巧克力が青春時代を過ごしたであろう90年代の中国の様子が見事に再現されていて、絵から伝わる情報量が豊富です。町並みや家屋の様子などが中国人の郷愁を引き起こすものであるばかりか、小意が読んでいる漫画が「ドラゴンボール」であったり、ゲーセンで不良相手に「キング・オブ・ファイターズ」で連勝したりしていて、1ページごとの情報量が多く、毎ページ隅々まで目を通す価値があります。

 

 

この漫画、上の画像のようにセリフよりも小意の独白が圧倒的に多いのが特徴で、自分の描いた絵にセリフの吹き出しで空白を作りたくないから文字だけを入力しているのかなとも思えます。そう考えてしまうぐらい絵が素晴らしいので、中国語がわからなくても漫画を読めと言いたいです。

 

ストーリーだけを見れば決して厚いとは言えないこの漫画がどう映画化されるのか気になるところです。絵は大変素晴らしかったので、アニメ化してそのクオリティが下がることはないようにしてもらいたいです。

 

 

・新装版だけの(?)特典

 

この本は上下巻と言いながらも下巻の半分は別の短編漫画が収録されています。



 『明月清風』は、スポーツの得意な少女・邱望舒と母親の拘束が厳しい夏軽風が高校の女子寮の同じ部屋に暮らし、互いの立場を理解しながら仲良くなっていくという、ジャンルとしては百合に入る漫画です。中国の学校の寮は1つの部屋を大抵4人以上で使うのが一般的で、この漫画も本来は2人の他にまだルームメイトがいたのですが事情によって一室をたった2人で共有することになります。

 

 

そして上巻には旧版出版時に読者から送られた、ジャージを着た学生たちの写真をイラスト化して収録しています。



 またフランス語版の出版を記念して行われたフランスでのサイン会の様子なども載っており、作者の国際的な活躍を読むことができます。

 

 

 

・ジャージ礼賛

 

作者の口袋巧克力は読者の「なぜキャラクターに日本の高校生のような制服を着させず敢えてダサいジャージにしたのか」という問いにこのように答えています。

 

この物語は1990年代の江南の小さな町を舞台にしているので、そこに日本風の制服を着た学生が登場したらギャグにしかなりません。でも中国の一般的なジャージ(校服)を着せたキャラクターをどう魅力的に描けばいいのかにだいぶ悩みました。

 

 

アニメ『快把我哥帯走(兄に付ける薬はない!)』の日本語版タイトルが企画段階では『中国ジャージ兄妹』だったことからも分かる通り、中国の学園生活にジャージは欠かせないのです。


 
 確かに中国の一部の学校も日本のような制服の着用を指定していますが、大半はジャージ(校服)です。本国でもダサいとか醜いと言われがちなジャージですが、それもまた中国文化の一つとして数えて、今後も漫画やアニメなどに積極的に取り入れられてほしいですね。

 

SCAVENGER 老馬/左手韓

 

中国ではどこでも見かけるゴミ拾い(SCAVENGER)を相手に、一般高校生が差別や偏見を取り払って一人の人間として対峙する社会派漫画。

 

  本作は第十回日本国際漫画賞銀賞および中日漫画「悟空杯」グランプリに輝いた大作であり、おそらく今後なんらかの形で日本語訳が出版されることになるでしょう。だからネタバレは避けます。

 

 


 

 

眼鏡をかけた男性(教師)に「この成績じゃ『老馬』みたいになっちまうぞ」と注意を受けたジャージ姿の少年が本作の主人公・韓巍。

 

老馬とは韓巍の学校を中心にした地域一帯のゴミ箱を漁り、ペットボトルの空き瓶や空き缶など回収し、それをお金に替えている女性で、学校の教師や生徒たちから「老馬(馬オバサン)」の名前で親しまれているが、決して年長者として敬われてはおらず、むしろ見下されている。

 

 

もう20年間ゴミ漁りをしている老馬には夢があった。それは北京の天安門広場に行って、そこで国歌を歌うことである。だがそれは学生たちにとって世迷い言にしか聞こえなかった。

 

 

ある日、韓巍は先生に注意されて机の中のゴミをまとめてゴミ箱に捨てたが、その中にあった祖母の薬の処方箋まで捨てたことに気が付いた。老馬より早くゴミ捨て場に行かなくては、彼女にゴミを荒らされて処方箋がますます見つけづらくなる。

 

だが、老馬は処方箋を見つけても無視せず、なくした人間がきっと困っているだろうと、学校の警備員や教師の制止を振り切り、生徒たちに気持ち悪がられるのを一向に気にせずに持ち主を探していた。

 

 

韓巍は老馬にお礼のお金(学生にとっては決して少なくないお金。おそらく財布にあった全財産)を上げようとするが断られる。

 

 

韓巍は「老馬」を呼び止め、「受け取ってよ」とお金を渡すも「私の仕事はもともと汚いけど、アンタからお金を受け取っちまったらもっと汚くなるよ」と言い、絶対にお礼を受け取ろうとはしない。

 

 

そこで韓巍は次に開けていないペットボトルを彼女に上げて、彼女に飲んでもらおうとする。しかし老馬が今度は校内までやってきて「ペットボトルはもらうが、水代は受け取れない」と言い、クシャクシャの1元札を韓巍に渡す。

 

 

決してブレない老馬の態度に教師や学生は彼女の見方を改めていくが、そんな中、彼女の地盤を狙う別の同業者によって彼女が怪我を負う。代わりにやってきたゴミ拾いによって学校のゴミ箱が汚く荒らされるようになり、韓巍たちは姿を見せなくなった老馬を心配する。

 


 

 

老馬はゴミ漁りという決して他人には自慢できない仕事をしていますが、自分の仕事にプライドを持っており、ゴミ以外はもらわないというポリシーがあります。漫画の中では韓巍に処方箋を渡していましたが、例えばゴミの中から大量のお金を見つけたとしても、彼女はそれを警察に届けるでしょうし、住所がわかれば持ち主まで自分で届けに行くでしょう。彼女は乞食でもホームレスでもなく、他の職業に就く人々と同様に「ゴミ拾い」という仕事を全うしているだけで、ゴミを漁り終えれば、ゴミをちゃんと分別して周囲を綺麗に片付けます。

 

実際、ゴミ拾いは老人がアルバイト感覚であまり抵抗なくできる仕事のようで、私は以前マンション付近にある果物屋のおじさんがペットボトル拾いをしていた姿を見たことがあります。

 

ですので、学校のように大きな収入を見込める地盤は争奪の対象になりますし、また彼らがいなければゴミが分別されることないまま捨てられてしまうことになり、ますますゴミが溢れることになります。

ゴミ拾いの話は北村豊さんの「キタムラレポート」に詳しく載っているのでそれを御覧ください。

 中国のくず拾い、600万人の夢と現実

 

 

本書は左手韓がサイン会を開いた時に余ったサイン本なのですが、120ページ程度の漫画に50元(800円ぐらい)という価格はサイン本ということを考慮してもまだ高いと思い、買うのをためらいました。しかし結局購入してしまったのは老馬らの迫力に押されたためです。

 

『ハッピーピープル』や『勇午』や『ろくでなしBLUES』のような写実的な画風は迫力ありすぎてちょっと不気味ですが、キャラクターのいろんな表情を描きたいという作者の気持ちが伝わってきます。

 

 

 

(チンピラの表情の三変化。3コマもいらんやろ)

 

 

おそらく作者はストーリーの中でキャラクターの顔をできるだけ多く変化させることに深くこだわっています。もちろんストーリーも面白いです。100ページ程度の作品で、敬遠されていた老馬が徐々に韓巍ら学校の仲間になるという少年漫画的な展開は、こうして書いてみると陳腐に見えるのですが、この絵柄がそれを言う隙を与えません。

 

 

 

私が留学していた大学の寮にはゴミ拾いのお爺さんがいました。毎日、大きな袋を持って寮の前に座り、留学生からペットボトルをもらうと必ず「謝謝」と返事する愛嬌のある老人でした。私も他の留学生と同様にこの老人に飲み終わったペットボトル(主にミネラルウォーター)を渡していたわけですが、毎日一本ずつ渡すのも億劫だし、また大量に上げたほうがお爺さんも喜ぶだろうと思い、ゴミ袋いっぱいにつめたものを渡していました。しかしある日、自分にとってゴミでしかないペットボトルをまるでエサを上げるかのようにお爺さんに渡すのは果たして良いことなのか、と考えてしまい、それからは気まずさを感じながら渡していました。

 

この本はそんな私に対して数年越しに一つの答えをくれましたね。賤業だがそのことをあまり気にしていない当人に対して一体どういう風に対応すべきか。結局のところ、相手が喜ぶことをすればいいんです。

  

真相推理師・幸存 著:呼延雲

 

本書は2011年に出版された『不可能幸存』を2017年に改めて再版したものだ。再版版としては2冊目だが、名探偵呼延雲シリーズでは3作目であるらしい。

 

 


別荘地のKTV(カラオケルーム)で健康グッズ会社『健一』の社長を含めた6人の死体が発見された。現場は鍵のかかった密室、犯人を示す有力な手掛かりは何も見つからない。ただ、現場付近を血まみれの服を着てさまよっていた女性が重要参考人として保護されただけだった。だがその女性が前作『真相推理師・嬗変』で恋人との悲惨な別れを経験した警察官の劉思渺だったことで、警察は何としても彼女の存在を隠そうとする。その一方で、心を閉ざし全く喋ろうとしない彼女から真相を聞くために『名茗館』という探偵組織のリーダーの愛新覚羅・凝に頼み、彼女に逆行催眠をかけて記憶を蘇らせようとする。しかし治療の途中、マスコミと『健一』に劉思渺の存在がバレ、事件の容疑者が警察官だと報道されてしまった。そしてその混乱のさなか、治療を受けていた劉思渺が姿を消す。


 

 本作は主に大きなテーマ(社会問題)と小さなテーマ(密室殺人事件)の二つで構成されていて、新聞記者の郭小芬が大きなテーマである健康グッズ会社の詐欺商法を追いかけるとともに、その取材をしながら犯人がいかにして密室殺人をやり遂げたのかという小さなテーマを解明します。

『黄帝的詛語』で一部の警察官も関与する臓器売買を書いたことでお叱りを受けたこともあり、今回も健康グッズ業界にいかに詐欺行為が蔓延し、何故それらがなくならないのかということを入念な調査が感じられる筆致で、郭小芬を通じて描写しています。

 

しかし社会全体の問題である詐欺商法は現実でも解決されていないのですから郭小芬一人で解決できるはずもなく、彼女は今回も社会問題も殺人事件ももどちらも解決できないまま終わります。しかしそれで彼女の行為が無駄だったということはなく、むしろこのシリーズは彼女がいないと全く成立しません。事件に首を突っ込み、警察とも仲の良く、記者の肩書を活かして誰彼構わず話を聞ける彼女がいなければ、まとまりのないストーリーになっていたことでしょう。

名探偵呼延雲は実力がありますが行動力がない安楽椅子タイプの探偵で、本作でも誰かの電話に出る程度で滅多に姿を現しません。よって本作は、というよりも『名探偵呼延雲シリーズ』は実質郭小芬の物語であります。また作者はもと新聞記者でしたので、作者と同名のキャラクターが主人公である一方、作者と同じ職業のキャラクターもまた作者の特徴を濃く受けている分身とも言えます。

 

 

本作から中国四大ミステリ研究会の一つである『名茗館』の愛新覚羅・凝が登場します。この『名茗館』らミステリ研究会は民間の探偵組織であり、彼ら構成員は独自の手法で警察と協力し、または警察に代わり事件を解決するのですが、中国じゃなくてもこれが非現実的な存在ということはわかるでしょう。現代中国の問題を提起する社会派ミステリでありながらリアリティをガン無視したキャラクターが登場するライトノベルミステリの様相を呈する、これが呼延雲シリーズが中国で『中二』(中二病の意味)と言われるゆえんです。

 

この愛新覚羅・凝ですが、これが単なる歯に衣着せぬ言動で呼延雲ら名探偵の噛ませ犬となる「名探偵(笑)」かと思いきや、初登場の今作で作中屈指の人間の屑であることがわかります。

彼女はある手段である人物を陥れようとするのですが、あまりのやり方に、もしやこいつ表の顔は名探偵だが本当は犯罪組織のメンバーでこうした暗躍で警察の力を下げているんじゃないか、と思いきやその動機は完全に私的なものなのでなおさら始末に負えない。結局返り討ちに遭って思惑もバレてしまったのですが、こいつはなんでこんなことやらかしても新刊(5巻)でもいけしゃあしゃあと登場しているんでしょう。

 

 

知識を蓄えることを信条にしている作家だけあって、大筋のストーリーで健康グッズ詐欺という大半の中国人読者の生活に密着した話題を展開し、トリックに興味のない人でも飽きずに読める読み応えのある内容に仕上げています。

 

 

 

人民的名義(人民の名の下に)

 

 

現在の中国が掲げる反腐敗を取り扱った衝撃のテレビドラマ『人民的名義』の原作小説である。このドラマは恐らく2017年最も人気の出た中国ドラマとして語り継がれることになるだろう。私も、本来なら中国人と同様にドラマを見たかったんだが、如何せん150分の話が50話以上あり、そんなもん見られないということで原作小説に手を付けた。

 

 


最高人民検察院反貪汚賄賂総局偵緝処処長の侯亮平は官僚の腐敗を取り締まる役職にいるが、ある時大物政治家の国外逃亡を許してしまう。内部による何者かの密告があったと悟った侯たちは京州(架空の中国の都市)にある工場に疑惑の目を向ける。しかしある晩、その工場が火事になるという一大事件が起きると共に疑わしい人物が次々に浮かび上がってきた。だがそのリストに浮かんだ漢東省(架空の中国の省)の省委員会常務委員の李達康の妻の欧陽菁、侯亮平の大学時代の友人の蔡成功らを追っていくうちに誰もが逮捕するのをためらうような超大物まで現れてしまう。そして腐敗の魔の手は侯亮平にまで忍び寄る。

 


 

中国が、と言うか習近平総書記が反腐敗を掲げてどのくらい経ったかよくわからないが、私はこの反腐敗に関して中国当局はもっと強権を振るえているもんだと勘違いしていた。しかし、本書を読むと汚職官僚一人引っ張るだけでも上の許可を得なければならず、独断専行的な行動や、証拠を捏造して無理やり犯人に仕立てあげる等の、要するに正義のためなら何をしても良いとはならないことがわかる。

(注:本書には拷問や自白強要など、当局側のいわゆる人権を無視した行為は一切書かれていない)

また、上の幹部連中も自身は汚職や腐敗を許さないとは言え、自分の部下から汚職官僚が出るとなると話は別で二の足を踏む。

 その良い例が李達康という書記だ。

 彼自身は腐敗を絶対に許さない高潔な人間なのだが、以前彼の部下が汚職で逮捕されてから省の評価が下がり、省のGDP減少を招いたことでできるだけダメージの少ない解決の仕方を望んでいる。しかし、本書では右腕が逮捕された他、妻も収賄罪で逮捕されてしまい彼自身も大ダメージを負った。だが、部下や妻(逮捕前に離婚)から犯罪者が出たことは自身の評価に影響が出ないようで、彼は特に罰を受けることなく最後まで書記として君臨している。それでも彼が作中でもトップクラスに不幸な人物には違いない。

 

李達康のように、党が掲げる正義という理想と経済発展という現実の間で苦しめられる官僚の本音が読める点も本書の見どころである。

 

本書は400ページほどあるが非常に読みやすい文体であり、また普段の読書では知ることができない知識を多数取り入れられるのであっという間に読み終わったのだが、やはり全く知らない世界の物語のためか、日本人(一般庶民?)には理解できない所も多数あった。

 

中でも「は?」と思ったのが取調室の光景である。

 

 

李達康の妻の欧陽菁が取調べを受けているシーンで、一向に口を割らない彼女に対し侯亮平たちは情で訴える作戦に出る。その日がちょうど彼女の誕生日であったため、彼女と比較的強い信頼関係を結んでいる局員がバースデーケーキを持って来る。局員が「今日は取り調べなんかしないで誕生日をお祝いします」と言うと、欧陽菁は感極まって真相を喋るのである。

 

 

本書に出て来る腐敗関係者は基本的にみんな芯が弱い。追い詰められると「党や人民に対して申し訳ない」と嘆き、「何でこんなことをしてしまったんだ」と後悔する。そこには犯罪者としての矜持が全く感じられない。そして物語が進むに連れて、まさかの人物の腐敗疑惑も出て来て芋づる式に何人もの人間が検挙されることになるわけだが、そこからわかることは腐敗する人間も普通の人間であるという紛れもない事実である。

 

それほど妖しい金の魔力からは抗えないのである。物語中盤、侯亮平は汚職の首魁から懐柔されそうになるが、彼はそれを堂々と拒絶する。しかし彼の周りには、子どもの頃の友人で現在は賄賂で逮捕されてしまった蔡成功や、大学の学友で現在は汚職官僚の一人として侯亮平の邪魔をする祁同偉らがいるのである。

 

腐敗を描いた本書はホラー小説にも似ている。

 腐敗関係者はまるで妖しい魔力で人々を誘い、仲間を増やそうとしている吸血鬼である。しかし侯亮平の立場を通じて彼らを見ると、彼らももとを辿れば吸血鬼に襲われた単なる人間なのである。

 

  

侯亮平は腐敗の誘いに全く応えず、数々の障害を乗り越えて自身の任務を遂行したわけだが、本書に登場する様々な腐敗関係者の姿を見ると、『侯亮平』的生き方を貫けなかった人々が現実の中国には一体何人いるのだろうかと考えてしまい、空恐ろしい気分に襲われる。


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