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プロフィール
HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
40
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      
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推理小説好きとゲームデザイナーによる共著。本書はもともと劇本殺(マーダーミステリーゲーム)店経営者の2人がつくったマーダーミステリーゲームで、それを小説化したもの。突然進化して人間並の知能と文明を持った動物が、人類から独立してついに動物王国を建国、人類と100年以上戦争状態という緊張感のある背景の中で起きた殺「人」事件を描いている。


 


 





2333年。人類から独立して動物王国に住んでいる動物たちは、今まで自分たちを家畜・奴隷扱いしてきた人間に対して複雑な思いを持っていた。一方人間たちも、いくら知能を持っているとは言え、動物たちを自分たちと同じ立場だと認められず、両国は長い間争っていた。


動物王国の首都・動物城(シティ)で探偵をしているロバの不来梅(ブレーメン)とカエルで助手の阿呱(グワワ)は、大戦の英雄であるワニ将軍のネロから捜査の依頼を受ける。和平交渉のために人間の国から動物城に来ていた大使のアリスが、先ほどホテルで死んだのだ。他殺の場合、人間国との戦争が激化すること必至で、動物王国内の主戦派も勢いづく。現場は火事に遭い、遺体も半壊しており、物的証拠を探すのは困難。事件か事故かの真相を確かめるため、ワニ将軍から捜査における絶大な権限を得たブレーメンは、当時ホテルにいた関係者に話を聞く。警察では調べられなかった各動物の行動や思惑が明らかになり、現場の状況が徐々に再現される中、疑惑の目は人間の大使アリスにも向けられる。





 


 


さまざまな種類の動物が人間そっくりの生活をして暮らす都市の中で起きた犯罪を描いた特殊設定ミステリー。推理には人間的な論理思考を使う他に、動物の生理的・外見的特徴まで把握している必要がある。


現場から牛足の動物が目撃された、しかし水牛大臣にはアリバイがある、そうだあの動物はウシ科じゃないが牛の足を持っていた!という具合に、作品に登場する動物たちの、その生物として特有の外見や行動にまで思いを馳せないと謎は解けない。ところどころで動物知識が必要なクイズのような小さな事件がはさまれ、飽きさせない構造になっている。


 


舞台は2333年の未来に設定されているが、これは無視した方がいい。この作品の世界は現実と地続きであり、動物たちも人間が書いた推理小説を読んでいるが、一方でスマホや現代よりさらに進んだ科学技術は全く登場しない。


一回読んだだけだと動物たちが二足歩行か四足歩行か、服は着ているのかどうかすら覚えていないが、その辺りも気にしなくていい。


肝心なのは、この本に描かれる動物王国は人間の国同様、醜いところや隠したい部分があるということ。動物同士で差別があり、保身のために嘘を吐き、派閥争いをする。そのような世界で、冒頭、一介の探偵でしかないブレーメンが、政治家などからではなく戦争で功績を上げた軍人から絶大な捜査権力を与えられるのは、今後の困難を物語っている。関係者たちの嘘を暴けるのは警察ではなく、将軍の力をバックに持ち、逮捕権がない私人のブレーメンだけ。犯罪事件の中で動物たちの本能とも言える行動を描くとともに、人間そっくりな動機も記し、単に登場人物を人間から動物に置き換えたわけではないことがうかがえる。


 


 


本作最大の問題はアリスそのものだ。アリスは冒頭でいきなり死体として登場。現場は火事、遺体の下半身は消失、不可解な事件の中心人物だったアリスは、本当に大使だったのかという根本的な疑問を呈される。彼女の正体は、作中でもヒントが出ていたので、明らかになってもそこまでアンフェアとは思わない。ただ、全体的に人間臭い動物の社会を描いてきたのに、最後の最後で相手の優しいイメージ勝手につくりあげて童話っぽく締めたなと思ってしまった。むしろこの終わり方で、人間国でも動物王国でもない第三勢力との新たな戦争の始まりを、例え収集がつかなくなっても書いてほしかった。


 


中国の擬人化・動物キャラクターの波がついにミステリー小説にまで来た、とも考えられる本作。今後、現実と一線を画した特殊設定ミステリーが増えていくのは、中国ミステリーにとって決して良いことではないだろう。この動向も追っていかなくては。


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 本書の設定が中国のSF・ミステリーの中では異色に見えたので、読んでいる途中でTwitterに、表紙がとっても文学的なのに、まさかゾンビの出現で世界が崩壊し、中国の杭州で生き残っている連中の一部がカルト宗教をつくり、そこで密室殺人が起きるという内容とは想像つかん、みたいなことを書いた。するとそのツイートが思いがけず伸び、現在までに350回以上RTされ、翻訳を希望する声も出た。


 


ツイートが伸びていくのを横目に読書を続けていたんだが、半分ぐらい読んだ段階で、もしTwitterの声を真に受けて日本語訳を考える出版社とかいたらどうしようって思った。そして読み終わった今、最初にツイートした時のような興奮はもう心にない。どうしてゾンビものとして最後まで終わらせてくれなかったんだ。


 





世界中の人々がゾンビ化し、各国政府が機能しなくなった世界。中国の杭州で生き残っていた界暁南は他の生存者の何莫、唐玄、蒙和平とともに物資を探している途中、ゾンビの大群に襲われている荘暁蝶らを助け、ホテルに逃げ込む。そこは四霊教という、世界崩壊後に生まれた邪教(カルト宗教)が根城としており、信者を密室に閉じ込めてゾンビ化させることで神に生贄として捧げるという儀式が定期的に行われていた。教祖の鄭宏穎という男は、もともと詐欺師だったという噂があるばかりか、荘暁蝶の仲間を密室で殺害したという疑いがあった。界暁南らは教団に入って協力する一方、鄭宏穎の殺人の証拠を探るが、彼らの動きはバレており、仲間が次々に生贄に選ばれて死んでしまう。生贄はどうして密室でゾンビになるのか、儀式でわざわざ信者を減らす鄭宏穎の目的は?そして界暁南らはこの世界の衝撃の真実を知ることになる。





 


 


中国では一般人が銃器を所持できないので、ゾンビが津波のように押し寄せてきたとしても銃撃で対応することはできない。本作には欧米のゾンビ映画やゾンビゲームのような展開はないが、そもそもゾンビの中で暮らしているというのに、作品全体の描写はとても静謐としていて、外部に対する緊張感というのもほとんど感じられない。主人公たちは早々にホテルという安寧の地を見つけ、しかもその近くに銭塘湖という大きな湖もあるから食料に困ることもなくなり、生存のチャンスが一気に跳ね上がる。そこで驚異となるのがホテルの内部に潜む殺人鬼というか、意図が分からない教祖の鄭宏穎の存在だ。本作の肝は結局、人間の方が怖いということになる。


 


しかしゾンビは単に行動を制限する障害物なだけではない。ストーリーの途中に挟まれる『ソンビ観察レポート』によってゾンビの生態や習性などが明らかになり、読者に「この設定を生かしてゾンビをトリックに使うんだな」と推測させる。そして、単純にゾンビを殺人に用いるではなく、被害者をゾンビにしてからが本番というトリックは確かに面白かった。しかし本作の本領が発揮されるのはここからだ。


 


詳しくはネタバレになるので言えないが、実はこの本、ゾンビものではなかった。ゾンビだと思われていた連中が実は……というのではなく、存在の足場が揺らぐのは界暁南たちの方だ。 


    


もともと本書の帯に「廃土設定 科幻懸疑(荒廃した世界が舞台のSFサスペンス)」とあり、ゾンビが出ていることが「SF」なのか?と不思議に思っていたのだが、後半の展開を受けて「ああ、ここがSF要素なのね」とひどくガッカリさせられた。もしかしてSF要素を持たせて売り込みたかったのかと邪推すらしてしまう。 


  




確かに唐突に界暁南たちのパラメータが表示される箇所があり、作者としてはフェアに伏線を張ってはいるわけだが、今までそこそこ物語を楽しんできた読者にとっては、後半の展開自体が読者に対する裏切りのように思えてならない。あの散々批判を受けた『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』を見た人たちもおそらくこういう気持ちだったんだろうなぁと悟った。


作者が自分の創作物にどのようなオチをつけるのかは自由だが、この設定や展開を読んだ読者がどのような結末を期待するか、作者はきちんと思いを馳せてほしい。


 

昨年、良質な社会派ミステリー『完美嫌疑人』でデビューした同作者のシリーズ2作目。

 

 


 


 『完美嫌疑人』の主人公・鐘寧が引き続き登場しているが、本作の時間軸は1作目より前に当たり、刑事時代の若い鐘寧が法制度や警察組織の枠組みの中であがく姿が描かれる。ここには、保険金詐欺事件の犯人に同情して証拠を捏造したために、刑事を辞めてしまった鐘寧の原型がある。このシリーズがおそらく、法律に救われなかった社会の犠牲者に徐々に親身になってしまった鐘寧が刑事という職を失うラストに向かっていくのだと分かった。


 


 



星港市内で高齢者を狙った連続殺人事件が発生する。被害者の2人はネット上に、周囲に当たり散らす様子を隠し撮りした動画がアップされており、事件現場には「老人が悪くなった」というメッセージが残されていたことから、なんらかのパニッシャーがマナー知らずの老人を無差別に殺しているのではという疑いが湧く。ネットでは「悪人が老いたのか、老人が悪くなったのか」というタイトルのスレッドが盛り上がり、事態を重く見た警察上層部は一刻も早い事件の解決を現場に命じる。


優秀だが、悪を憎むがあまり容疑者を捕まえるためなら法律や証拠など不要と考える刑事の鐘寧は、陳孟琳という犯罪捜査専門家とともに捜査を開始。現場の遺留品には特殊な結び方をした紐があり、捜査線上に浮かんだ記者の趙清遠が同じ結び方をした荷物を持っていたことで、鐘寧は彼に狙いを定める。しかし秘密裡に行った荷物の確認時、紐は普通の結び方になっていた。まさか感づいた趙清遠が取り替えたとでもいうのだろうか。


そうこうするうちに同一犯による殺人事件がまたしても発生。だが趙清遠は全く尻尾を掴ませないどころか完璧なアリバイを持っており、鐘寧を除き、愛妻家でもある趙清遠を疑う人間は皆無。しかも罠のように現れた怪しい容疑者に他の刑事の目は釘付けになる。果たして鐘寧の推理は正しいのか。


 



 


前作『完美嫌疑人』は叙述ミステリーで、真意こそ隠しているものの作中で犯人だと最初から明言されている廖伯岩と鐘寧の知恵比べが描かれている。本作『無形之刃』の犯人趙清遠は廖伯岩以上に底知れない不気味があり、彼の意志が明らかになればなるほど嫌悪を覚えるキャラクターだ。交通事故に遭って車椅子生活を送る妻の呉静思の身の回りの世話をするだけではなく、併発した合併症の薬代も稼ぐ趙清遠は非の打ち所がない良き夫に見える。


しかし捜査によって呉静思に対する趙清遠の執着心が徐々に明らかになり、やべぇストーカーなんじゃないかと読者も思うようになる。そして進行中の連続殺人事件の被害者が、当時の呉静思の交通事故の関係者だと分かり、いよいよ趙清遠が妻への愛のために復讐をしているという疑惑が確信に変わる。


 


だが前作同様、本作もラスト数十ページにどんでん返しが仕掛けられている。そう、2作続けて叙述トリックだ。実は本作を読んでいる時ずっと、作者は2作目にしてもう「面白い小説の書き方」を身に着けていて、「こう書けば受けるだろう」という一定の確信に基づいて書いているんじゃないかと疑っていた。要するに、手慣れた感じがして中盤ぐらいですっかり冷めてしまっていたのだ。


冒頭に出てきたいわゆる「キレる高齢者」問題は本作のテーマなどではなく、テーマ自体がミスリードとして使われた。だからか、前半と後半でつながりが薄いように感じた。キャッチーなテーマをいたずらに消化しただけに見える。


また、確かにどんでん返し自体は衝撃的だったとは言え、何もネタバレを見ていないのにどんでん返しだと予想付く作品は叙述ミステリーとして失敗じゃないだろうか。


 


このシリーズ、来年に3作目が出るだろうが、それもどんでん返しがあるんじゃないかとすでに恐怖している。


 


 


しかし前作と大きく異なるポイントもあり、アリバイの作り方がとても本格ミステリー的だった。例えば、死体が湖の水でびしょ濡れだからと言って、湖に沈められて死んだとは限らないわけで、湖から汲んできたバケツの水をぶっかければ、湖から上がった死体の出来上がりだ。アリバイトリックの箇所だけ、サスペンス小説ではなく本格ミステリー小説になっていた。もしかしたらこの作者、本格ものもいけるんだろうか。


 


面白かったのは間違いないが、作者に手玉に取られているようで素直に褒める気にはまだなれない。


 

 


 


没有奶奶們査不出的事児(おばあちゃんたちに探し出せないことはない)というタイトルだが、このおばあちゃんたちは元探偵というわけでもなく、どこにでもいる噂好きで世話好きの一般人だ。ストーリーは間違い電話から展開する謎解きだが、「日常の謎」に分類できるわけではなさそう。


 


 


李国珍の携帯電話には以前から間違い電話がかかってくる。どうやら彼女の携帯電話の番号は以前、「龔雪(きょうせつ)」という女性が使用していたものらしい。龔雪宛ての電話やショートメールが何度も来るので、李国珍は龔雪が友人たちに新しい番号も告げずに番号を変えたのではないかと考え、彼女の身に何かが起こったのではと心配する。そこで、高い洞察力を持つ向英と人を見る目がある解徳芳という2人の友達、近所に住む青年の劉振邦、そして失業したばかりの青年史達才と共に龔雪の行方を追うことを決意。


しかし実際に行動するのは3人のおばあちゃんではなく、彼女たちの命を受けた史達才と劉振邦。彼らは電話の向こうにいる龔雪の知人に話を聞きに行く中で、出会ったこともない龔雪の輪郭や彼女を取り巻く状況を徐々に明らかにしていく。


 


暇を持て余した3人のおばあちゃんが会ったこともない女性のことを心配して、彼女の知人から話を聞くというストーリー。しかしおばあちゃんたちは家から一歩も出ない。かと言って安楽椅子探偵のように頭が冴えているわけでもなく、怪しいと思う根拠は「勘」と来ていて、実際の推理は気弱な青年史達才によるものだ。おばあちゃんたちに探し出せないことはないというタイトルはやや羊頭狗肉の感がある。


 


また、この3人のおばあちゃんのキャラクターも書き分けられていないようだった。あらすじでは3人共特徴があるように書かれているが、本を読んでいると見分けがつかない。3人も必要だったのかという疑問以前に、これが病気で外に出られない子どもでも、忙しくて他のことに手が回らないオッサンでも誰でも良かったのではないかと思えてくる。


 


間違い電話から始まる謎というのは生活感に溢れているが、その電話の主にすぐ連絡が取れるというのは推理もへったくれもない。「龔雪」とは誰かという疑問は彼女の知人によってどこにいるのかという疑問にすぐに変わり、あとは関係者に聞き込んでいくだけだ。龔雪がみんなの前から消えた理由はけっこうサスペンス色強めだが、「100人いれば100通りの人生がある」程度にしか思えず、この本を読んでいて驚きというものは感じなかった。


近未来SFミステリー。と言ってもSF小説っぽさは全然なく、現代と特に変わりない現実と地続きの風景が描かれる。これがラストのオチを唐突と思うかどうか、評価が分かれるところだと思う。AIでホームズをつくるぞ、という夢みたいな計画も今の中国ではかなり現実味がある。


 


 


「受限定理」(制限付き定理)というスマート機器に応用する定理の発明によってAI革命が起き、「強いAI」時代が訪れ、AIが事件を捜査するまでになった。しかし「受限定理」は文字通り制限があって、例えば警察が使用するスマート推理機器はスマート機器が関わる事件を捜査することができなかった。


ハイテク企業の研究所で奇妙な死亡事故が起きる。そこではシャーロック・ホームズをAIの力で現実に蘇らせようとするプロジェクトが進んでおり、被害者はその中心人物だった。研究所内のホームズ博物館で亡くなっていた科学者の凌舟は、ナポレオン像で瓶が割れるという自分が設計した仕掛けにより、瓶内の幻覚剤を吸って死んでいた。事件と事故両方の可能性があるが、研究所にホームズ機械化反対協会から脅迫状が届いていたことから他殺の線が強い。関係者からの聞き込みによって、所内に産業スパイがいること、凌舟が生前、「受限定理」の制限を打ち破る新たな定理の証明に心血を注いでいたことが明らかになる。さらに凌舟のパソコンからは、ホームズ機械化計画に関する重要なデータがごっそり削除され、すでに実現化されていたロボットホームズからも大量のデータが失われていた。何者かの影が見え隠れする中、今度は所内で密室殺人事件が起きる。


 


ホームズに実際に事件を捜査してもらったら……とはホームズ好きなら一度は考えた妄想だろう。金も技術力もある中国のハイテク企業がホームズのAIを開発するという話は、現実にありそうだ。


だがこの世界のAIには「受限定理」という制限がついており、それによって社会は発展したわけだが、AI時代なのにAIが関係している事件をスマート推理機器は捜査できないという矛盾があり、それはホームズAIにも当てはまることで、この定理がある限り、ホームズAIができたところで全ての事件を解決できるわけではなかった。だからこそ、「AIに仕事を奪われる」ということは警察では起こり得ない。それに、本作でホームズAIを創るのは警察の捜査に協力するのが目的ではなく、これまでのホームズ学で謎のままになっているホームズにまつわる数々の疑問ーー彼の少年時代、彼の人となり、ワトソンへの思いなど読者が知りたかったことに答えを出すためだ。


 


その定理を覆すために研究していた科学者がどうしてホームズ博物館の中で奇妙な死に方をしていたのか。どうして展示品の瓶の中に本物の幻覚剤が入っていたのか。なぜ捜査をミスリードさせるような証拠の数々が発見されたのか。ホームズAI関係のデータはなぜ削除されたのか、などの一連の疑問を一つにつないだとき、犯人像がかすかに浮かび上がってくる。



 


そこに今度は正真正銘の殺人事件、しかも密室殺人事件が起きる。そしてその事件の犯人はなんとも新時代的だ。確かにAIが捜査をする世界なのだから、「そういう存在」もありだろうがちょっとヒントが少なすぎじゃないかと思った。



 


作中に、シャーロック・ホームズやワトソンは実在の人物だと主張するシャーロキアンが出てくる。ホームズを創るということはワトソンを創るということなのだ、という彼の言葉が印象的だ。ホームズ全集を基に生み出されたAIはその物語に登場するキャラクターになることが可能だ。ホームズと一心同体のワトソンが生まれるのなら、表裏一体の存在もまた出てくるかもしれないのだ。


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