忍者ブログ
カレンダー
05 2019/06 07
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30
フリーエリア
最新コメント
プロフィール
HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
35
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
     ★を@に変えてください
バーコード
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析
* Admin * Write * Comment *

*忍者ブログ*[PR]
*
このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      

 


 


 


探偵・陳黙思と推理小説マニア・陸宇コンビのシリーズ第3作に当たる。前作『鐘塔殺人事件』に続き、「中国では『殺人事件』ってフレーズが入ったタイトルの本は出版できないんだよ」という風説を引っくり返す強気なタイトルだ。


  





殺害された有名な推理小説家・界楠の遺品にあった招待状に興味を惹かれた陸宇と陳黙思は、彼に代わって日月山荘へ行く。円柱形の2階建ての日館、五芒星の形を構成する5本の柱、月形の池を持つこの場所では、10年前に天体愛好家の集まりのときに死亡事件が起きており、そして今回集められたのは当時の関係者たちだった。外界から孤立した別荘で殺人事件が次々に起こり、陸宇たちは何者かが10年前の事件の復讐をしているのではないかと疑う。





  


 

 日月山荘の全体図
 

  


本書では『日月星殺人事件』と『時間の灰燼』の2つのストーリーが交互に展開する。前者は日館の2階で陸宇や陳黙思たちが殺人事件に巻き込まれるパートで、後者は日館の1階で天文愛好家たちがペダンティックな天文学知識を話し合うというパートだ。天文愛好家たちは、ジュピターやマーズなどの惑星の名前を名乗り、本名を伏せられている。2つのパートを交互に読んでいくと各人の名前を予想できるようになっているが、この予想というのが曲者で、作者側から確固とした言及がないのに勝手に姿を想像した時点ですでに作者の罠にハマっている。


 


 


 陸宇たちが住む日館2階


 


 


 天文愛好家たちが住む日館1階



何しろ『時間の灰燼』のパートは、古今東西の天文学知識の羅列であり、その知識は本編とほとんど関係がない。古代中国で宇宙はどのように考えられていたかとかいう知識を披露されたところで読者は退屈なだけであり、そのパート自体は本編の『日月星殺人事件』パートを補完するだけのサブストーリーにしか見えない。この点はいくら好意的に見ても、やはり水増しの感が否めない。しかし、物語の舞台が2つに分かれているという物語構造の妙は、最後の最後で効果を発揮する。
 
 2つの世界の軸は、実は最初から2つの世界を貫いていたのである。


 


 


・剛腕の力技トリック


雪に囲まれた山荘で起きた殺人事件なのだから、雪上や死体の近くに足跡がないのは言わばお約束だ。そのトリックに対して陸宇が出した推理は、物理学を利用した机上の空論にしか見えない方法。対する陳黙思は実際に行動することで、誰にでも実行可能な方法を提示する。


最初に複雑でほとんど実現不可能なトリックを紹介してから、心理的盲点を利用した単純な方法を見せるというやり方は、ミステリー小説ではもうほとんど珍しくない。提示されたトリックの是非の判断は料理漫画と同様で、複雑で凝っていればいるほど正解から遠く、シンプルな方が好まれ、先に出てきた推理は後に出てきた推理に負けるのだ。


陸宇と陳黙思を経て、分かりやすく簡素化した本書のトリックは最後に、ダイナミズムを備えてコロンブスの卵を思い出させるこれ以上ない簡単な方法で読者に提示される。


謎解き部分を読んだ時、呆れたのか感心したのか自分でも分からないが、とにかく笑ってしまった。あまりにも大胆過ぎるので、現実にはというか、普通の人間が登場する小説では不可能なトリックだと思ったが、ミステリー小説のトリックで再現性などあまり重要ではないだろう。


 


・リアリティを排除


本書は中国を舞台にして本格ミステリー小説の体裁をなぞっているがゆえに、不自然な点が多々ある。中国で日月山荘という館を建てることは可能なのか、という根本的な問題は置いておいても、世界観の設定が現在の中国とだいぶ食い違っているのだ。


まず、殺害された界楠は有名な推理小説家だったようだが、現在の中国に有名な推理小説家がいるという世界観がとても奇妙だ。界楠は知る人ぞ知るというレベルではなく、一般的に認知された推理小説家だったようだが、トリックメインのミステリーなんか書いて一般受けしている有名推理小説家なんて中国にはまだいない。


 


さらに、推理小説をたくさん読んでいる陸宇が、外界と孤立した山荘に閉じ込められた際に、「まるで吹雪の山荘ものじゃないか」とツッコミを入れるシーンがある。しかしそういう視点を持てるのであれば、疑心暗鬼になって誰も信じられなくなり一人で自室にこもる人間や、恐怖のあまり発狂する人間に対して、「それは死亡フラグだぞ」と警告することもできたし、次の被害者を予想することも可能だろう。陸宇は作者と同等の視点を持っているくせに、深刻な事態になれば、本格ミステリーなんて言葉すらを忘れてしまったかのような態度を取る。


現代中国とは異なる架空の中国、もっとはっきり言えば、本格ミステリーが一般常識になった中国を舞台にしているのだから、よりメタ的な描写を入れたとしても、これ以上作品世界を壊すことはないだろう。


 


中国ミステリーの「本土化(ローカライズ)」を目指す意気込みは、最近とんと聞かなくなったが、やっぱりこういう意識は大事だなと再確認させてくれた一作だった。ミステリーがメジャージャンルになっている架空の中国を舞台にするなら、もっと徹底的にメタ的要素を入れるか、キャラクターをもう少し人間的に描くかをしてほしかった。トリックの衝撃はともかくとして、内容に対する評価は、現代中国に生きる20代の作家が数十年前の日本の本格ミステリーを中国で再現してみた、程度だった


 


中国の作家たちは中国ミステリーというジャンルで、中国の実情を背景にしたミステリーを書くことと、トリックに凝ったミステリーを書くことを、割合に若干の偏りがあるとは言え、双方の要素を作品に反映させていると思う。その中で、本書の作者・青稞は、後者を特に重視し、トリックのためにリアリティを捨てるという尖り方を見せている(ちなみに前作『鐘塔殺人事件』では、中国の山奥の館に暮らす日本人科学者一家が登場した)。しかし将来的には、中国ミステリー界隈の実情を取り入れた、中国でしか書けないようなゴリゴリの館ミステリーを書いてくれるかもしれない。

PR

 


 


『ゴジラ対メカゴジラ』的なタイトル。推理小説好きな文学少女陸秋槎が書いた推理小説の謎を、孤高の天才数学少女韓采芦が数学的手法を使って解いていくという短編集だ。 


 





高校の校内誌に自作の推理小説を載せ、生徒に犯人当てをさせた陸秋槎は、送られてきた数々の解答が自身の設定した解答と全然違うことにショックを受ける。しかし、推理に穴があったり、結論が牽強付会だったりする解答を読んでいくうちに彼女は、自分が設定した解答も唯一絶対ではないことに気付く。陸秋槎は友人の陳姝琳から、完全な推理小説を書くために数学の天才・韓采芦に意見を貰えば良いと薦められる。そこで韓采芦に次回の校内誌に載せる小説の添削を依頼したところ、彼女は「消去法」を使っていとも簡単に犯人を当てたばかりか、作者の陸秋槎でも想定していない犯人を次々挙げるのだった。(『連続体仮説』から)





 


 


・「真相」は重要ではない


 


本書では、高校生の陸秋槎が書いた推理小説を、読者を含む韓采芦らが読んで、犯人を当てるという「作中作」のスタイルが使われている。


『連続体仮説』では、本来なら作者である陸秋槎が設定した人物以外に犯人がいないはずが、作品に瑕疵があるせいで2人目、3人目の犯人の存在を許してしまうことになり、作品を破棄するかどうかの瀬戸際に立たされる。『フェルマーの最後の事件』では旅行先のフランスでちょっとした事件が起きるが、本筋はタイトルと同名の短編小説の解決にある。『不動点定理』では韓采芦の後輩の黄夏籠が書いた推理小説を読み、彼女が抱えている問題に迫るカウンセリング的な内容。今年書き下ろした『グランディ級数』では、喫茶店で韓采芦を含む数人のクラスメイトと小説内で起きた密室殺人事件の「最も面白い」解決案を討論しているところ、店内で本当に密室殺人事件が起きるというもの。


 


 


作中では言及していないが、後書きで元北京大学ミステリー研究会員の葉新章も指摘しているように、本書が扱っているのは「後期クイーン的問題」だ。この問題とは、「小説で導き出された真実が本当に真実なのか、小説の中では証明できない」という提起である。日本のミステリー読者には知名度が高い問題だが、中国ではまだマイナーらしく、この問題を組み込んだ作品も非常に少ないらしい。そのせいか、後書きを担当した葉新章もこの問題に対し、数々の引用をもって説明しようとしている。


 


小説では、ミステリー小説の作者であり、その中に登場する謎を解決する探偵でもあるはずの陸秋槎が、韓采芦に探偵役を任せたところ、限られた真実の中から作品の創造主である陸秋槎でも思い付かなかった犯人が登場する。新作の『グランディ級数』において、陸秋槎は犯人当てを半ば放棄し、一番面白い推理をした人間を勝者とする。2014年発表の1作目から2018年作の4作目までで作中時間が経過しており、陸秋槎の心の動きも変化しているが、一方でそれはこの本の作者である陸秋槎自身の考えの変化を表しているのかもしれない。


 


 


 


・百合のために推理を犠牲


 


『文学少女対数学少女』というタイトルを見て、『文学少女和数学少女』(和は「と」「アンド」という意味)にしなかったのは何故だろうかと考えた。なぜ対立やVSを表す「対」という言葉を使って、2人の少女の間に線を引いたのだろうか。


 


作者の意図は終盤ではっきりする。本書は陸秋槎と韓采芦の「ガール・ミーツ・ガール」のストーリーであるのだが、その出会いをより喜んでいるのは実は韓采芦の方なのだ。韓采芦にとって、陸秋槎は初めての友達であり、自分が取り組んでいる数学に初めて理解を持った仲間だった。だが一つ大きな問題があった。それは、韓采芦の数学能力と推理能力が陸秋槎では相手にならないほど強力だったことだ。「対」と書いておきながら、実際は陸秋槎のボロ負けだった。


 


では勝負は数学少女の勝ちなのかというとそれは違い、本当の勝者は『グランディ級数』で明らかになる。文学少女が一体誰と「和(アンド)」の関係を成立させるのかは、この作品が陸秋槎と韓采芦の話だと思い込んで読者にとってそもそも興味の範疇外にあっただろうだが表紙で、数学少女が右下に視線を落としているのに対し、文学少女がその視線に全く気付いていないばかりか数学少女を見ないように顔を背けているように、彼女らはペアになりえない。


 


『グランディ級数』では陸秋槎が自作ミステリーの解決編を完全に他者に委ね、彼女の受け身の姿勢がより強調されるが、彼女は推理小説のみならず、人間関係においても他者に決定権がある存在だった。つまり本書は、陸秋槎総受け本だったわけである。


 


作者の陸秋槎は前作『元年春之祭』や『当且僅当雪是白的』で百合的な犯行動機を持つ少女を書いてきたが、本書ではとうとう、目的のためには推理すらも犠牲にする少女を登場させた。「百合ミステリー」と「アンチミステリー」を両立させた本書は、中国では出版されることが特に少ない中国ミステリー小説短編集も、構成を丁寧に考えて長編小説と同様の一貫性を持たせていれば、市場で十分に通用するということを証明した。


 


・余談


本書、特に『グランディ級数』では中国人っぽくない名前のキャラが数多く登場するが、実はそこに作者・陸秋槎の遊び心が込められている。該当作では喫茶店の店長、各友人全員に日本の芸能界にちなんだ名前が付けられている。これは日中両言語に詳しく、かつ日本のアイドル事情を知っていなければ分からない高度なイタズラだ。登場人物の言動全てを本筋の推理に関係させる無駄のない作風は、創作に対する作者の緊張感を感じさせるが、趣味が垣間見られる「おふざけ」のおかげで読んでいる方はちょっと肩の力が抜けるのである。

 


 


ふざけたタイトルをしているが、現在の台湾の軍事情勢もうかがい知れるスパイ小説風のミステリー小説だ。


 


 





刑事局の暴力団犯罪取締科に所属する老伍は、退職まで12日というところに次々と死亡事件に対応することになる。自殺に見せ掛けた海軍軍人の他殺体、陸軍将校の銃殺死体が発見し、国防部が絡んだ事件を退職前に解決しなければいけなくなった老伍にさらなるプレッシャーが襲う。イタリアのローマで、台湾の政府要人が射殺されたというのである。捜査を進める中で老伍は、台湾政府の軍事機密と台湾に古くから暗躍する秘密組織の存在に迫る。イタリアを含む欧州各地を逃亡する台湾人スナイパーと、台湾で愚直に捜査を進める老刑事が真実に辿り着くまでを描いた、ハードボイルド小説。





 


 


炒飯狙撃手」とは炒飯を武器にして敵を射殺するスナイパーのことではない。台湾軍に所属していたスナイパーで、除隊後にイタリアで炒飯屋を営んでいた小艾(本名・艾礼)はある人物の狙撃を頼まれる。しかし彼がイタリアで射殺したのは、台湾の総統府戦略顧問の周協和であり、彼を暗殺するために差し向けられた刺客は、かつての戦友・陳立志だった。小艾は、自身が何者かにハメられたと考え、欧州を渡り歩きながら手がかりを探す。


 


一方老伍は、自殺に見せ掛けて殺された郭忠為と陳立志の体に、甲骨文字の「家」という入れ墨があることから、2人には何か共通点があると考え、過去を探る。すると、小艾も含む彼らは元孤児で、超法規的な形である人物の養子になっていたことが分かる。実は彼らは台湾に古くから伝わる、疑似家族的秘密結社のメンバーだったのだ。家族のような秘密組織と聞くと、マフィアを連想するが、本作に登場する組織は歴史の影に隠れているが非合法組織というわけではない。孤児の段階から組織の一員に育て上げるから、まるで忍者だ。作中では、「武侠小説に出てくるみたいだ」と形容されている。


 


物語は台湾の老伍とイタリアの小艾の2人を主人公にして進む。しかし、捜査によってどんどん謎が明らかになっていく老伍側と異なり、小艾側は彼自身の経歴すら謎に包まれたかのように曖昧だ。誰が味方なのかも分からず、確信もなく外国を渡り歩く描写はまるで霧の中を歩いているかのように獏としている。そこから徐々に明かされるのが、台湾の軍事利権という現実的な問題もあれば、孤児を引き取って命令に忠実な軍人に育て上げるという仰天の秘密組織まで出てくるのだから、話のスケールは大きく、底が深く、また歴史的長さも感じさせる。


 


本書のメインテーマは「家」だ。小艾たちは、自身の体に文字として刻んでいる「家」を大事にしており、その秘密組織には血の繋がりがないが、一般の家庭や組織以上の掟が存在する。老伍も、家に帰れば家庭の問題に悩まされ、家の一員であることを嫌でも気にしなければならない。被害者にも家族がおり、老伍は捜査に協力させるために彼らの警戒心を解かなければならない。
 冒頭では、親の葬式を挙げずに年金を不正受給する事件が登場する。これは「炒飯狙撃手」の事件と直接関係はないが、「家」というテーマに密接に関係しており、作品のテーマを一つにまとめるために回収するべき伏線になっていた。


 


老伍の退職までのタイムリミットも解決に一役買っていて、カウントダウンが始まる頃になると老伍もなりふり構わなくなり、大学生の息子を事件に巻き込み、台湾軍のシステムにハッキングさせたりする。この凄腕ハッカーの息子が万能過ぎてご都合主義的だったが、重要機関のシステムに入り込めちゃう「緩い」空気感は気に入った。


 


表題に「炒飯」とあるだけあって、出てくる料理まぁまぁ美味そう。具が卵とネギのみの卵炒飯もそうだが、サンドイッチ、豆乳、肉まん、麺など、台湾人の慣れ親しんだ料理の数々が登場する。味に対する描写は特にないが、老伍らが仕事の合間や仕事中にそれらを食べている様子を読むと、刑事モノ小説という雰囲気が感じられて、アイテムを上手に使っている感じがする。


 


軍事利権問題と土着の秘密組織を中心にした本書は、全体的に台湾の湿り気を感じさせてくれた。







 


『天涯双探』のシリーズ2作目。


 


1作目のレビュー。


天涯双探・青衣奇盗


 


1作目を読み終わった時に評価を保留していたが、2作目を読んだ結果、「この本を推理小説というカテゴリに入れて読んではいけない」と再確認した。


 


 





宋代末期。豪商の息子夏乾は、雪に囲まれた小さな山村への停留を余儀なくされる。呉村という名前のその村には、5人の兄弟が次々に死んでいく様子を歌った不吉な童謡が伝わっていた。夏乾らにその童謡を歌った孟婆婆が崖から転落して死に、聾者の絹雲もなにかの獣に食い殺されたかのような死体で見つかる。童謡の内容になぞらえたかのような不審な死が続く中、夏乾は死んだはずの絹雲の姿を見かける。夏乾の窮地を救うために村にやってきた易厢泉は村に隠された秘密を暴く。





 


 


クックロビンめいた童謡が伝わる村で、その童謡をなぞらえた怪死が次々に起こるという、ミステリー小説としてはコテコテの内容だ。5人兄弟の童謡は明らかにアガサクリスティ『そして誰もいなくなった』を意識して創られており、雪で閉ざされた村という舞台設定もよくあるパターンで、しかも双子まで登場する。典型的なミステリー小説を踏襲しようという作者の気持ちがよく出ている作品のはずなのに、どうも上手くハマれなかった。


 


その原因は、本作が時代小説を骨子にした推理小説ではなく、推理小説の要素を入れた時代小説であるためであり、作者が見せたい物が、私の求めている物と違うという点にある。


 


 


ネタバレになるが、本作には「狼男」と呼ばれる知的障害者が出てくる。この「狼男」をかくまっていたのが彼の妹である絹雲であり、彼女は双子という特徴を利用して、村のほかの人間に気付かれないように、片方が家の中で「狼男」の世話をし、もう片方は村人と交流していた。つまり、絹雲を殺したのは「狼男」であり、夏乾が見た死んだはずの絹雲とは彼女の双子の姉妹だったのである。


 


この「狼男」の存在によって、物語の重点は殺人犯を推理することから、「狼男」の恐怖から逃れることに移行する。雪で閉ざされ身動きが取れない村に殺人鬼がいることがミステリー小説における恐怖のはずだが、「狼男」という論理も言葉も通用しない存在が村を徘徊しているというホラームービー的展開になってしまうのだ。そして、「狼男」はなんと今まで物語に登場していない(はずの)侠客に殺されるのである。しかもその侠客の正体は不明だ。


 


前作『青衣奇盗』では、青衣奇盗と呼ばれる盗賊の正体は明かされなかった。また、青衣奇盗が盗みを働く原動力だった野望こそ大きいにせよ、結局達成されないものだから期待外れの展開だった。この作家はおそらく、謎を解いて伏線を回収することよりも、謎を出して風呂敷を広げることが好きなのだろう。それ自体は結構なのだが、本来明かすべき謎を明かさず、終盤に謎をねじ込んでくる姿勢は読者に対して不親切だ。


 


青衣奇盗もこの侠客も3巻以降に出てくるのかもしれないが、もう買わないだろう。


 


中国北宋末期を舞台にしたミステリー小説。池上遼一風の表紙が目印だ。


 




政治が腐敗し、犯罪が多発した北宋末期に「青衣奇盗」と呼ばれる盗賊が暗躍していた。名前の通り、青い服を着た盗賊で、3年間で14回も犯行を行い、かつては400人の兵士が捜査に充られたことがあったが、捕まったことは一度もなかった。そして、どのような警備も掻い潜って盗みを働くわりに、盗む代物が指ぬきとか鼎とかそれほど高価な骨董品ではないということが不思議がられていた。そして、青衣奇盗の次なる犯行予告が届き、揚州の庸城に保管されているサイの角製のお箸が狙われていることが分かる。事件解決の命を受けた易者の易厢泉(表紙で白い服の男)と、事件に興味を持った豪農夏家の放蕩息子の夏乾(表紙で青い服の男)は青衣奇盗の対策を練る。





 


表紙には3ページ読んだらハマる!」と書いてあるが、中盤までかなり冗長な展開で読んでいて飽きた。何しろ、ターゲットとされているお箸は作中でも言われている通り大した価値がないのだ。一応、サイの角製で、細工が施されていて、長年砂糖水に漬け込んでいたため舐めると甘い味がするという伝説があるが、それでも秘宝珍宝の類とは程遠いそうだ。だから、盗まれるかどうかというのは実際はメンツの問題に過ぎないので、読者にはその危機感がいまいち伝わらない。


更に、易厢泉が立てた対策というのが、そのお箸とそっくりのお箸を何百膳も用意するっていうまさかの物量作戦。それに対する青衣奇盗の行動も、大量のアリを使って甘いお箸を探させるとかだから、まるで児童向けのミステリー小説のようだ。このアリを使ったお箸の判別はすぐにフェイクということが明らかにされ、混乱に乗じるのが真の目的だったことが分かるが、一連の流れは単なる子供だましにしか見えない。


 


終盤、青衣奇盗が価値のない骨董品ばかり盗む理由が明かされるが、結局お箸は盗まれていないので青衣奇盗の真の目的は達成されない。犯人側に驚くべき狙いがあるのなら、その狙いを途中で主人公らに知らせることで、読者も彼らの奮闘ぶりを楽しみ、いくらかの満足感を得られるだろう。終盤で「犯人には実はこんな目的があったんだけど、未然に防いでいたぜ」と言われたところで、読者は肩透かしを食らうだけだ。


 


本作はネット小説で、すでに2巻が刊行されている。2巻は童謡の内容に見立てて殺人事件が起きるらしい。出版社から送ってもらったんでとりあえず読もうか。


 


Copyright: 栖鄭 椎(すてい しい)。。All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog / Material By 御伽草子 / Template by カキゴオリ☆