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プロフィール
HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
33
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      

820日は上海ブックフェアで伊坂幸太郎サイン会が行われる日でした。


 
 ホテルからちょっと歩いたところに朝から肉まんやら麺やらを提供してくれる大きなレストランがあるのでそこで朝食を食べました。



 写真に写っているのは葱油拌麺(ネギ油まぜそば)と生煎包(蒸し焼き肉まん)で、これが私にとって上海に来て初めて食べた上海料理でした。この葱油拌麺は見ての通りストレートな細麺でこんな細さの葱油拌麺は今まで食べたことがなかったのですが、味の方も今までで一番美味しかったです。ネギ油や醤油だけをぶっかけた単純で下品な料理なのに何故こんなにも美味さに違いが出るのかわかりません。他にも小籠包タウナギのあんかけ炒めも注文しましたが、小籠包は言うまでもなくタウナギも全く生臭みがなくコリコリしていて美味しく、朝から贅沢な気分を味わえました。



この日はまずは19日にも行った長寧図書館へ行き新星出版社主催の『エラリー・クイーン国名シリーズサロン』を見に行きました。



このサロンのメインは中央にいる劉臻で中国ミステリ読者の間ではellryというペンネームで知られていて、ホームズを始めとした欧米ミステリ小説を研究する大家です。それから19日のトークショーと同じく陸秋槎、時晨、陸燁華(左の女性は新星出版社の編集者・王歓)が座っています。しかし最初の30分は劉臻の独壇場で永遠とクイーンの半生を語り、来場者は「なんで今さらエラリー・クイーンのペンネームの由来なんか聞かされなきゃいけないんだ」とうんざりさせられました。

そんな空気を変えたのが陸秋槎で、彼が日本から持ってきたクイーン関係の書籍を次々に紹介し新情報に餓えていた来場者は息を吹き返します。昨日のトークショーでも北京で行われたサイン会でも思いましたが陸秋槎って喋り慣れているような気がします。

時晨と陸燁華は今回は勉強のために来たと公言し口数は少なかったですが、やはり口を開くたびに来場者を笑わせていました。



12時前にサロンが終わるといよいよ本番の伊坂幸太郎サイン会へ向かい、長寧図書館から上海ブックフェア会場のある静安路までの地下鉄に灯証君と乗りました。車中でブックフェアの入場チケットを持っていなかった我々が会場近くのダフ屋からチケットを購入(定価10元のチケットが20元で売られている)しようかと会話していますと対面にいる家族から話しかけられました。そこの大学生ぐらいの息子さんもこれからサイン会に行くということで、チケットのない我々を不憫に思ったお母さんからタダでチケットをもらいました。


ホントありがたかったですね。多分こういう善意がブックフェア期間中に上海で広がっているのでしょう。



既に会場入りしている友人から現場の状況が送られてきます。時間は12時を回り、伊坂幸太郎の挨拶もそこそこにサイン会は既に始まっていました。


駅に着くと灯証君はもう待ちきれないという感じでどんどん早足になり、地上に出たらもう走っていました。現役大学生の灯証君はデスクワークしかやっていない10歳年上の日本人が急に走ったら体がどうなってしまうのかわからないほど余裕をなくしていたのです。しかし彼を見失えばサイン会に行けないので私も走るしかありません。



酷暑の上海を駆け、ようやくサイン会の会場である友誼会堂へ着きました。




ここは2014年の島田荘司・麻耶雄嵩両先生のサイン会が行われた場所で、中国のミステリ読者にとっては遺恨のある場所です。


(参照:上海ブックフェア 島田荘司・麻耶雄嵩両先生のサイン会について




今回は無事終わるのかこの長蛇の列を見ながら私は心配しましたが会場に入った瞬間安堵しました。



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819日はルームメイト全員で午前中に古北にある『フクゼン』というリサイクルショップへ行きました。



 この店、入ってみると家電や日本製の生活用品が置いてあるだけですが突き当りを左に曲がると書籍や
DVDが置いているコーナーがあります。(漫画コミックは一冊もなかった)


 
 そこで日本語の本を物色することになりましたが値段の安さに驚きした。中国でもネット古書店を通して日本語の本を買うことは可能ですがそれが結構いい値段して場合によっては日本とほぼ同じ価格が表示されていることがあります。しかしこの店は文庫本が15から20元ぐらい、単行本が30元ぐらいという良心的な価格設定になっています。

 
 ここではミステリより時代小説が好きという灯証君が葉室麟を買ったり、中国ユーモアミステリ小説家亮亮の友人である華斯比が東川篤哉の本をしこたま買い漁ったり、各自思い思いに買い物を楽しむ中、私だけ中島らもや椎名誠などブックオフみたいな買い方をしていて申し訳なくなりました。

 ここで購入した本は『しりとりえっせい』、『中国の鳥人』、『凶悪』、『華麗なるギャツビー』です。

 


 その後、長寧図書館の『書謎 黄金時代英美偵探小説珍本書展覧』へ行き各国の貴重な探偵小説の古書を閲覧。





 それから地下鉄に乗り湖浜路のデパートの書店で新星出版社が主催するミステリ座談会を見学しました。


 

 今年の上海ブックフェアには新星出版社の出展ブースはなくブックフェア内の活動は多分820日の伊坂幸太郎サイン会のみですが、上海各地で伊坂幸太郎座談会を含む多様な活動を開いていました。そしてこの日は私のブログでも何度か取り上げた中国人ミステリ小説家の王稼駿(参照:温柔在窓辺綻放 著:王稼駿)、陸秋槎(参照:元年春之祭ー巫女主義殺人事)、時晨(参照:2015年中国懸疑小説精選 編者:華斯)、陸燁華(参照:撸撸姐的超本格事件簿(ルルさんの超本格事件簿))の4名が『這様的推理你一定没見過』(こんなミステリ、きっと読んだことがない)というタイトルでトークショーを行い、後半はサイン会を開きました。


 
 左から王稼駿、陸秋槎、陸燁華、時晨(一番左の女性は司会者)。

 トークショーの前に私は各作家たちに一体なにを話すのか聞きましたが全くのノープランとのことで驚きました。しかし本番では各々のミステリ小説の原体験や好きな作家、中国ミステリに対する意見などをジョークを交えて語り合い、笑いに包まれたトークショーとなりました。


 
 書店には陸秋槎の『元年春之祭』、陸燁華の新作『超能力偵探事務所』、時晨の新作『鏡獄島事件』、王稼駿の『温柔在窓辺綻放』が平積みされていました(どれも新星出版社発行。)。残念なことに王稼駿は新作の印刷が間に合わず旧作が置かれていましたが一応買いました。陸秋槎の本は丁寧な言葉が書かれたサイン本がすでに家に2冊もあるので今回は買いませんでした。




 『阿井幸作老師』と書かれているのが非常に面映ゆい。




 調子に乗って新星出版社のサイン帳に書いたサイン。字が汚くて我ながらうんざり。

 
 そのあとは昔の留学仲間で今は上海在住の日本人と一緒に新疆料理を食べに行き、二次会で日本人向けの立ち飲み屋に行き、12時頃にホテルに戻りました。



 そしてこの日の
19時に上海のある本屋で行われた伊坂幸太郎座談会に出席していた灯証君に当時の様子を聞いてみましたが、座談会とは言いつつほぼ質疑応答に終始していたそうです。


 その模様は参加者の一人がまとめてくれています。ただ、質問とその答えが仙台のおすすめの居酒屋は何ですか居酒屋には行きませんとかお風呂入っているときなにを歌いますか秘密ですとか重要とは思えない内容なので別に許可をもらって日本語に翻訳するまでもないなぁと思ったのでリンクだけ貼っておきます。

狸猫山車 8.19伊坂幸太郎上海見面会 



 あと、ここにも書かれていますが伊坂先生はかなり緊張なさっていて、最初は床を見ながら話していたそうです。



 
 『ゴールデンスランバー』に書かれた当日のサイン。ちゃんと名前まで入っている。


 次回は20日分、とうとう上海ブックフェアで行われた伊坂幸太郎サイン会について書きます。

中国の上海では2016817日から823日まで上海書展(以下、上海ブックフェア)が開かれました。中国全土の出版社が集まり膨大な数の本を展示・販売するこの会では今年も世界各国から有名な作家がトークショーやサイン会をするために訪中し、日本からは吉田修一や伊坂幸太郎が来ました。
 そこで私はブックフェア見学及び今回のサイン会などのために集まる中国人のミステリ小説家や読者と交流を深めるために818日から22日までの間に上海に滞在しました。


 ブログではこの4日間の様子を写真を交えて報告いたします。


 18日朝、北京南駅から時速300キロ以上出る高速鉄道に乗り5時間ほどかけて上海の虹橋駅に着いたのは12時過ぎ。そのままホテルへ直行しました。


 

 ホテルは北新径にある『藍色国際青年旅舎』というユースホステルに泊まれるよう友人に手配して貰っていました。6人部屋を借り、45日で一人500元という格安であるにも関わらず部屋はとても清潔でした。(場所や時期によるが普通のビジネスホテルは一泊200元から300元ぐらいかかる)




 それからしばらく一服して14時に上海の静安路にある上海展覧中心(以下、上海展覧センター)で開催されている上海ブックフェアへ向かいました。チケットは110元(夜の参観料は5元になる)。ブックフェアは入場するまでが非常に難儀で、チケット購入で列に並び、手荷物検査でも列に並ぶためサイン会などのイベントに参加する予定がある人はこれを考慮しなければなりません。慣れた人は事前にチケットを大量購入しています。(会場の周りにはだふ屋もいて120元でチケットを売っている。感覚としては2014年より減った気がする。)

 18日は平日だったのでそれほど長く列に並ばずにすみ、会場入りできました。




 そしてチラチラと各ブースを見て回り、15時には世紀文叡と日本のディスカヴァー・トゥエンティワンの合同イベント『与文野初一起写作-中日虚擬偶像作家写作団中国発布会』(文野はじめと一緒の執筆-日中2次元アイドル作家執筆団体の中国発表会)を見学。



 ディスカヴァー・トゥエンティワンの社長干場弓子さんが
NOVELiDOL文野はじめの中国進出を語り、スクリーンにはPVが映しだされます。(文野はじめについてはここ参照)





 上が日本バージョンの文野はじめで下が中国バージョンなのですが、私はロングヘアーの中国バージョンがタイプですね。というか、中国バージョンの方が幼く見える気が



 その後、中国での文野はじめのパートナー(こういう言い方で良いのか?)となる2人の若手作家・明珠李想が登場し小規模ながらもサイン会が始まりました。私自身、文野はじめなんて知らなかったし、どういう形態の小説なのかよく理解できませんでしたがなんか斬新なことしているなと感動して、10代後半の女の子や小学生ぐらいの少年たちに混ざってどちらの本も購入してサインをもらいました。





 
 


この企画についてわからないことがあります。李想の本は『杉樹種在肺里 我把做成了小提琴』(肺に生えた杉の木 ボクはそれをバイオリンにした)と言い、明珠の本は『少年明珠的奇幻之旅』(少年明珠の不思議な旅)と言うのですが、ネットを検索してみますと李想はこの本と全く同じ内容の作品を2014年に『杉』というタイトルで発表しています。また明珠の方は2012年に発表した『大師作品』が今回の作品と同じようです。

 

 

李想の本。あらすじを見る限り同じ内容のようです。(参照:https://book.douban.com/subject/25819503/

 

 

明珠の本。目次が今回の本と一緒。(参照:https://book.douban.com/subject/19960150/

 

 

私はてっきり未発表の新作が採用されたと思っていたのですがどうも違うようです。このアタリについてはあとでまた調べてみたいです。








 世紀文景出版社のイベント 吉田修一のサイン会のポスター。



 吉田先生の座談会及びサイン会は17日と18日にあったのですが私は時間の関係上参加できませんでした。参加者の話だと吉田先生はツーショット写真もOKしてくれてとても優しかったと言うことです。



 そのあとは友人たちと食事会。何故か上海で中国の東北料理を食べるということになりました。美味しかったのですが違和感が拭えませんでした。ただしさすがは上海、東北料理レストランであってもメニューに紹興酒があったのには驚きました。



 ホテルに戻ってからは部屋でルームメイトと二次会。部屋には机がないので余っているロッカーを倒してそれを机代わりにし酒やツマミを並べました。あるものを使って機転を利かせる行動が貧乏旅行っぽくて楽しかったです。



 今回ルームメイトとなった友人は、このホテルを予約してくれた福建在住の大学生で社交的なミステリ好き・NiaNNNNNNNNNNの数が安定しない)、天津在住の大学生で国内外のミステリ小説家のサイン本をコレクションしている・棄之竹君(日本語ちょっとできる)、北京在住の大学生で819日及び21日にある限定50名の伊坂幸太郎座談会にどちらも行けたラッキーマン・灯証君(日本語勉強中)、編集者兼評論家で武侠小説やミステリ小説に詳しい華斯比4人です。彼らがいたおかげで今回の上海旅行が楽しく充実したものになりました。


 次回は2日目の19日の報告をします。この日はブックフェアには行かずルームメイトと一緒に日本の古本が売っている本屋に寄り、彼らの日本書籍への熱烈な関心を目の当たりにしました。


 

 タイトルの『80後、怎么办?』(文字化けしていないかな)とは日本語に直訳すれば『1980年代生まれよ、どうする?』となる。日本が『昭和』と『平成』の年号で世代を分けているように中国では1980年代生まれ、1990年代生まれというふうに10年単位で世代を区切っている。ただし、主に使われるのは80後と90後、つまり現在の30歳代及び20歳代に対してだけで、50後(1950年代生まれ)とはあまり言わない。

 

本書は自身も80後である北京在住の文学博士の著者が中国の80後が現在抱えている精神的、金銭的、肉体的など多方面に渡る問題について悲観的に現状を書いている。一昔前は若者の代名詞だった80後も今は中国社会の一端を担う大人となっている。しかし、果たして彼らは現在幸せな生活を送っているだろうか。
 本書に記載されている著者・楊慶祥が遭遇した家賃の値上がりや部屋の強制退去は中国で暮らす全ての一般市民(プチブル)が遭遇する問題である。そして大量の出稼ぎ農民工の存在や
2010年に発生したフォックスコン連続自殺事件などプチブルにもなれない市民は更に生活に困窮しているのにその問題は表には現れづらく、多くの80後が社会に計上されていないと指摘する。

 

著者は現在の80後が豊かな時代に生きているように見えるのは仮初であると主張する。それは言論の自由がない国(正確に言うと自由より権力が強い国)に韓寒というペンでのし上がった著名作家が存在する矛盾を指摘していることに表れており、著者は韓寒が持つ勇敢さを認めてはいるものの「彼(韓寒)は「喋れないこと」と「喋れること」の間にある非常に安全な道を見つけただけだ」と切り捨てている。

 

面白いのが80後には文革のような自己と密接に関わる歴史的事件が存在しないと指摘していることである。確かに中国では2003年にはSARSが、2008年には四川大地震が起き北京オリンピックが開催され、そのどれもが中国のみならず世界中に知れ渡ったが著者は全てが一時的な事件に過ぎないとしている。四川大地震の際には多くの80後の学生が被災地に向かったが、それは歴史的に存在感がない80後がその空虚さを埋めに行っただけだと主張する著者の視線は冷たい。この存在の空虚さや歴史的繋がりがないという言い方はリオタールの『大きな物語の喪失』とも似ている。

 

 

本書の後半は80後の一般人とのインタビューになっている。女性博士、会社社長、独立を目指す会社員、家族もいるが夢がない会社員彼らの口から出る言葉は過去、現在、そして未来に至っても不平不満ばかりである。女性差別、学歴差別、戸籍問題、高い物価などを上げ、苦労を経験した自分たちと比べて今の若い者は根性がないとボヤいて90後を羨ましがる。生活に根ざした不公平の解消を訴える彼らの声は悲痛ではあるがそれほど切迫感はないのはそれでも彼らが生活できているからだろう。

 

インタビューの最後には外資系に勤め、結婚し子どもがおり、趣味はマラソンで、深センの戸籍を持っていて生まれてこの方特に不自由を味わってこなかったリア充が登場する。この彼だけ書面でのインタビューだったようでここで彼が喋っていることにどれだけ正直さが伴っているかわからないが、前出の4人とは明らかに違う彼は他の80後が欲している幸せを持っていてインタビュー中に不満を口にすることはない。

 

またこの彼はもし自分が人より優っているのであればと前置きし、それは父母が努力をしたからだと答え、我々80後は50後や60後より幸せで、チャンスに溢れていろんな夢を叶えられる素晴らしい時代に生きていると少しも気後れせず主張する。

 

現在の80後は20代後半から30代後半ですでに家族を持っていてもおかしくない年齢だ。ましてや中国の平均結婚年齢は28歳だから一般的な80後はすでに社会の中核であり更に家族の中心として存在していることになる。そのような人間はもう自分たちの幸せの追求を諦め、前述のリア充の父母のように子どもの幸せのために働くべきだろうか。だけど今の社会状況では親が抱える不平等は子どもに移るので、並大抵の努力では不自由を解消することはできない。

 

やはり自分たちの幸せを見つけることが大事ではないかと思うが、そのような小さな幸せ、例えば趣味とかはリア充の80後のように満ち足りていてようやく見つけられる。人はどんなに幸せな状態にあっても更なる幸せを渇望するが、根本が不幸な人間にはそれ自体不可能かも知れず、80後の環境を改善しなければ今後中国社会にはますます不平等感が蔓延するかもしれない。

 

龍瓶(中国語タイトルは龙缸):骨董時光

 

 

798芸術区の骨董品店兼書店で発見。前日にここで作者のサイン会が開かれていたようで唯一残っていたサイン本を偶然手に入れることができました。

 

 (作者の本名 劉越のサインがある)

本書はミステリ小説のジャンルに属してはいないがとある骨董品にまつわる謎に翻弄され、解明しようと言う人々を描いている面ではミステリ小説とも言えなくもない。骨董品をテーマにしたミステリ小説は少なくないが、本書ではそれを巡って殺人事件が起きることはなく、あくまでも骨董品の謎のみを中心に物語が展開します。

 

 


北京では名の知れた骨董収蔵家の安夢帰の住まいである四合院には清の時代から文革を経て現在まで隠されていた明朝時代の巨大な陶磁器の水瓶、通称『龍瓶』が遺されていた。明の皇帝が所有していたという国宝級の骨董をオークションする権利を得たオークション会社の時光は喜んだのも束の間、ライバル会社も全く同じ龍瓶を出品していることに気付き、どちらかが贋作ではないかという疑念を抱く。調査を経て贋作疑惑を強めた時光はついに景徳鎮まで向かい龍瓶の由来を確かめようとする。一方、安夢帰の一人娘である安晴は時光の部下として龍瓶を調べていたが、ライバル会社にいる大学時代の恋人の唐非との出会いが彼女の運命を変えていく。


 

 

龍瓶とは上の写真のような巨大な水槽です。

 

作者の骨董時光は現役の骨董品鑑定士ということもあり本書で紹介されている骨董品の見分け方はきっと作者本人の経験と知識に裏打ちされたものなのでしょう。物語の肝である龍瓶は文革中に壊されないように人の盲点を利用した場所に隠されていたのですが、作者の背景を知っているともしかしてこれも現実にあった隠し方なのかと楽しませてくれます。

 

清朝、中華民国時代、日本占領や文革などという中国史を踏まえた中国骨董業界を読者が重さを感じない程度に描き、更には舞台をイギリスにまで移して贋作に翻弄されるプロの様子が現実には存在しないはずの贋作に厚みをつけています。

 

不満点は視点の入れ替えが頻繁でキャラクターの個性があまり生かされていないことです。例えば時光はせっかく景徳鎮まで調査に行って重要な情報を掴んでくるのにその後は全然ターンが回ってきません。安晴はアメリカ帰りで中国文化に疎く、見る人によっては少々生意気に見みられる性格で、環境を内側から破壊する主人公に相応しく、きっと彼女が周囲の人間と協力や衝突を経て龍瓶の秘密を明らかにするのではと思いきや、唐非に会ってからはすっかり個性がなくなって物語の中心から姿をひそめます。こういうキャラクターの消費はもったいないと思いました。

 

作者にはまだたっぷりネタがあるでしょうから続編は絶対あるでしょう。作者の本意はわかりませんが次はもう少しミステリ色の強い作品に挑戦して貰いたいですね。

 

あとこの本では龍瓶が埋まっている場所の上空に龍が現れたり、縁のある骨董品同士が近づくと振動するなどの神秘的な現象が肯定的というかありふれたこととして描かれているのですが、もしかして実際の骨董品業界でも稀にあることなのかなと思ってしまいました。

 

 

 

 


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