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プロフィール
HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
33
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      

 

 第4回カバラン・島田荘司推理小説賞受賞作。2013年に中国で起きた実在の事件をもとにした作品だが、本書最大の見どころはその事件を調査することではない。

 

 


全盲の馮維本はドイツ人夫婦に養子として迎えられ、名前をベンジャミンと改名し幼少期からドイツで暮らしていた。だが「男児眼球くりぬき事件」をきっかけに中国行きを決意。養父母の心配を億劫に思いながらICPOである温幼蝶とともに中国へ渡る。だが現地では事件の捜査を邪魔するかのような出来事が立て続けに起こり、ベンジャミンは第三者の存在に気付く。


 

 おそらく日本でも報道されたであろう「男児眼球くりぬき事件」とは、2013824日の晩に山西省の村で6歳の少年がよその土地の言葉を喋る女性に話しかけられ山に連れ出されたところ両目をくりぬかれたという事件である。

 子どもの目をえぐりとるという悲惨な事件に世論が沸き、警察も犯人逮捕にやる気を見せて10万元の懸賞金をかけたが事件は思いがけない形で決着する。

 830日に少年の伯母である張会英が井戸へ飛び降りて自殺をしたわけだが、93日にその伯母が犯人であることが警察から発表された。

 

参考:被害少年に関する百度百科

 

 この事件の最大の謎は少年の証言と犯人像が微妙に食い違っている点だ。まず、少年いわく犯人はよその土地の言葉を喋ったとあるが、これはつまり犯人がこの土地の人間ではないということを表す。また、少年と伯母は同じ地区に住んでいないとはいえこれまで数回顔を合わせており伯母のことは知っていたはず。

 

 他にも多くの謎がある事件だが一応犯人は伯母のまま被疑者死亡で決着した。

参考:男児眼球くりぬき事件に関する7つの謎

 

 まず注意したいのがこの作品は現実に起きた「男子眼球くりぬき事件」の新たな犯人を見つけ出して当局の捜査に疑問を投げかけたり社会に真犯人の存在を訴えるという作品ではないということである。

 

 犯人の正体や動機などが作中で語られるがそれはあくまでもフィクションであり、インパクトはあっても結局作品のメインではない。では作中一番の謎は何かというと主人公○○自身にある。振り返ってみると○○の身の周りには不思議な出来事が起こっており、○○には何か大きな秘密が隠されているのだろうと考えられなくもない。しかし彼自身が盲人ゆえに読者も彼を通じた情報しか入ってこないからなかなかその謎にはたどり着けないのだ。

 


 本書『黄』は簡体字版だが2015年に既に繁体字版が出版されている。そして今年簡体字版が出るという段になって表紙デザインがネットに発表されたのだがそれが中国人読者の大不評を買った。そして現在出版されたデザインへと変更されたというわけだが、ではボツを食らった表紙は一体どういうものだったのか繁体字版と比較して見てみよう


 簡体字版ボツバージョン


 繁体字版


 黒字に黄色の一文字が映える繁体字版のシンプルなデザインは大陸でも評価されている。「それに比べてうち(大陸)の表紙はなんだ」と読者をなおさら落胆させた簡体字版の表紙が上のもの。黄色い下地に両目が描かれ、片方の目が手のようなもので覆われていて左下には犬のような動物がいる。全体的にうるさい感じがしてのっぺりしている。


 そして現在の表紙となったわけだがやはり情報過多のような気がする。比較対象となる繁体字版という優秀な見本が既にあるからどんなデザインになったとしても見劣りしてしまうのはしょうがないが、表紙がダサいから簡体字版は買わないと言う読者も存在するかもしれない。中国ミステリーは表紙の段階から読者の評価がはじまるのである。




 

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 2015年から作品募集の通知が出されたまま音沙汰がなかった『第6回全国偵探推理小説大賽』が1111日になって突然、北京偵探推理文芸協会による授賞式及び座談会が開かれました。

 

[6回偵探推探推理小説大賽受賞座談会が北京で行われる]

 


 2011
9月に開催された第5回授賞式から4年以上の間が空いているため受賞作品の出版年月時期がかなりまちまちです。今年の受賞作品を見てみると一等賞が3作品、二等賞が6作品、三等賞が12作品もあり更に優秀賞が16作品もあります。

  

引用元:『第六届全国偵探推理小説大賽獲賞名単


 今回は長編と短編の区別がないようです。
 一等賞の『贖罪無門』(呂錚)、『藍月児之死』(李双其)、『心理之罪第七個読者』(雷米)はいずれも読んだことありません。

 私が読んだことあるのは三等賞の『五次方謀殺』(軒弦)、優秀賞の『苹果偵探社之詭秘案件』(馮霞(昔は時間))、『我的名字叫黒』(王稼駿)、『大唐狄公案』(遠寧)ぐらいですね。



 座談会の内容全文はまだどこにもアップされていないようですが、上記URLの書き込みの中に非常に興味深いことが書かれているので抜粋して翻訳してみましょう。

(注:ブログ公開後、今回の二等賞受賞者・秦廷敬氏から詳しい座談会の様子が書かれた記事を提供してもらいました。http://www.cpls.org.cn/wxdt/2016-11-18/5696.html



 座談会では公安を題材にした小説と探偵推理小説の違いについて触れた。両者はどちらも事件が関係しているが前者は「事件が人物に従う(人物第一主義?)」方式であり、公安関係者の仕事ぶり、生活、感情の描写が重視されていて関わっている事件は単なる背景に過ぎない。後者は「人物が事件の発展に従って発展していく(事件第一主義?)」方式であり、焦点となるのは分析、推理、謎解きと徐々に紐解いていく過程である。大衆文学として中国の偵探推理小説はゆっくりと西洋作品の影響を受けていき、中国独特の優秀な作品が現れたが、広い範囲へ影響を与え、ひいては世界的に有名になる作品はまだ不足している。



 一等賞の3作品の作者はいずれも公安関係者です。だから作品もきっと彼らの経験を活かした公安を舞台にした内容になっているのでしょう。上記の文章を踏まえて今回の受賞作品の一覧を見てみるとこの賞はトリックよりも公安や犯人の心理描写やリアリズムを重視しているようです。要するに、警察に代わって探偵が事件を解決するような作品はきっと一等賞には選ばれないのです。
   

 この賞の目標の行き着く先が他国の影響をはねつけて中国独自の特色を突出させた唯一無二の作品を生み出すことなのか、それとも日本の本格ミステリなんかと上手く交わって大衆受けするミステリを生み出すことなのか。上記文章を見ると彼らは決して『歳月・推理』に載っている作品や一般的な日本ミステリを求めていない気がします。だからもしかしたら今後『全国偵探推理小説大賽』はミステリ関係の賞と言えなくなるときが来るかもしれません。




 一覧を見ると最佳訳作賞(最優秀翻訳作品賞)に西村京太郎の『終点站謀殺案』(終着駅殺人事件)が選ばれているのが興味深いです。2013年に出た中国語版が受賞していますが、本来この作品は1981年の第34回日本推理作家協会賞長編部門受賞作なので何故今になって翻訳本が出たんだ?と不思議に思ってしまいます。

 軒弦といえば神出鬼没の名探偵・慕容思炫シリーズが有名だが本作では女と見紛うほど美しい美少年・葉泫然が活躍する。いわば軒弦の新しいシリーズなのだが時代が10年以上前の2000年代に設定されているし、ライバルのような天才犯罪者も1話しか登場しなくて消化不良だし、何故今更こんな本が出版されたのかわからず、謎が拭いきれない一冊だった。



 収録作品は三つ。孤島を舞台にした『天極島謀殺檔案』、山荘の復讐劇『李氏山荘謀殺檔案』、学生恋愛から発展する殺人事件『QQ亡霊謀殺檔案』、そのどれにも密室殺人が使われている。よくもまぁ密室殺人の手法がポンポン浮かぶなと感心するが、あまりに多くの作品を書いているため粗製濫造の感が否めない。

 特に3つ目の『QQ亡霊謀殺檔案』にはその感覚を強く抱いた。これは、自殺した彼女と毎晩QQ(中国版メッセンジャー)でチャットをするというホラー小説的な切り口から人間関係が極端に発展して密室殺人事件に至るという話なのだが、この死んだ彼女からQQで連絡が来るという点はまさに20166月に出版された『神探慕容思炫・審判』にある『QQ神秘事件』とそっくりなのである。その理由こそ異なっていたが短期間で同じネタを使った作品を読んでしまうと読者としては芸がないなと思ってしまうのも無理はない。ただし軒弦は多作過ぎて、例え新刊であってもその収録作品が以前書いてようやく単行本として出たというパターンが多いから、二作の執筆時期は離れているかもしれない。

 注:作者軒弦によると本書に収録されている作品はみな2004年に書いたものらしい。中国の本って初出書いてないからなぁ…



 また、本作の時代設定も何故わざわざ過去に設定しているのか意味がわからなかった。各話の冒頭にわざわざ「200229日」など日時を書いているのだからきっと意味があるのだろうが、それは本書を読む限りわからない。誰もが少女と見間違える美少年・葉泫然も2016年現在は30歳過ぎの中年という事実をもって作者は何を伝えたいのだろうか。


 あと、軒弦は慕容思炫シリーズの中で怪盗やら天才犯罪者やら多くのキャラを生み出し、本作でも遊一悔という『金田一少年の事件簿』で言う高遠遙一キャラが出てくるのだが今現在どういう状況になっているのかわからないので、一度年表及び人物相関図を作ってまとめてほしい。

 大学入試を控えた高校の教員寮で教師が殺されるという学園モノなのかよくわからないジャンルのミステリ。表紙にデカデカと描かれている『2』はタイトルに含まないらしい。


 


高校の教員寮で物理教師の徐玉階が首無し死体で発見される。この高校の卒業生である若手刑事の寧微君は恩師である魏書平にかけられた嫌疑を晴らそうと躍起になるが、現場主義のロートル刑事・胡宏斌に水を差されたり窘められたりで活躍できない。事件当時の夜に校内にいたミステリ小説好きの女子生徒・易雨晨、捜査に首を突っ込んでくる探偵ぶった男子生徒の林昱が事件にどう絡んでくるのか。それは徐玉階の本性を知ったあとに明らかになってくる。





 中国ミステリでもキザで自信満々な探偵と常識人の助手、突飛な行動を取る探偵とそれに振り回される刑事など探偵が優勢の組み合わせはいくらでもあるが、経験豊富で頑固な老刑事と若さとやる気と知識だけはあるミステリ小説好きの若手刑事という本書のような組み合わせは新鮮だった。

 
 読み始めたときは胡宏斌がずいぶん横暴な中年に見えたが、読み進めていくと上司に減らず口を叩き、上司をおじさん(大叔)と呼び、捜査に私情を挟み若さ故の暴走をする寧微君の方がよっぽど厄介者に思えてくる。そして同類であるミステリ小説好きの林昱を寧微君が煙たがり、高校生の名推理を前にして自身が胡宏斌から言われた「現実と小説は違う」というセリフを吐くのは本当に面白い。


 途中で林昱が寧微君に犯人が首無し死体を作った謎に対し8つの説を唱えるが、これが読者に事件を整理させる良い中間地点になっている。何故犯人は調べたらすぐに身元がわかる状態の死体からわざわざ頭を持ち去ったのかという謎に対し、本当の死亡理由を隠すためだという林昱の答えは納得できるものだが、本書を最後まで読むとそれが単なる読者サービスではないことに気付かされる。


 タイトルに『悪意』とあるように本書には徐玉階を始めとする人間の生理的嫌悪感に基づく気持ち悪さが描かれている。特に作者はきっと意図していないだろうが易雨晨の父親なんかには山本英夫の『新・のぞき屋』の父親を思わせる独善的なおぞましさすら覚えた。



 作者の胡正欣は昔は「Kenshin」や「寧夜」というペンネームで活動していたそうだが、昔作品を読んだことがあるだろうか。本書が初の長編作品だと聞くが、初めてでトリックも人間模様もこれほどのものを書いているのであれば次作もきっと面白いだろう。できれば胡宏斌と寧微君のような一筋縄ではいかないコンビを再び出して欲しい。



 帯に島田荘司監修の『本格ミステリー・ワールド』における中国大陸唯一の寄稿者というキャッチコピーがついていて島田荘司のネームバリューの強さを実感させられる。しかし、『中国大陸在住』という括りなら自分もその寄稿者であるということを主張したい。

 あと、現物が手元にないのだが『本格ミステリー・ワールド2010』には中国の書評家・天蠍小猪が『中国ミステリー事情』を書いたとある。(参考:https://book.douban.com/subject/4143147/)。ちなみに河狸は2014年版に寄稿している。

 



 正義感は強いがそれ以外は普通の女性である高梅儀は暴漢に襲われているところを何者かに助けられるという不運な事態が続いた。子どもの頃に死んだ『姉』が助けてくれたことをぼんやりと覚えていたが、ポケットに血塗れのハサミが入っていたことで映画『ファイトクラブ』のように自分の中に『姉』というもう一つの人格がいて、それが暴漢を退治したのではと疑う。そして突如部屋に現れた『姉』は正真正銘子供の頃に死に別れた姉である高梅思の成長した姿だった。その『姉』から自分が多重人格者であることを告げられた高梅儀は『姉』の師事のもと、アメコミヒーローのバットマン(蝙蝠侠)やスパイダーマン(蜘蛛侠)のように剪刀侠として街を守ることを定められる。





 剪刀侠は英語にすると「シザーマン」となり、日本語にすると「ハサミ男」となるわけだがどっちにしろ既存の有名作品のイメージが強いのでここでは原文の剪刀侠のままとする。


 あらすじで「映画ファイトクラブのように」と書いてしまっているがこれは本作でも平然とネタバレしているので許して欲しい。でも主人公の高梅儀は推理小説が好きという設定だと言うのに、二重人格で剪刀侠という名前を与えられた身でありながら殊能将之の『ハサミ男』(中国語タイトル:剪刀男)について作品内で全く言及していないのは不思議だ。作者なりに推理小説家としての仁義を通しているというわけだろうか。


 本書は8作の短編からなる。剪刀侠は日夜街の悪人を退治するわけだが第1話で連続殺人鬼を捕まえて、『姉』の正体が判明してからは世間に認知された剪刀侠が連続殺人事件を解決するという探偵的な役割を負い、警察からも友好的に接されて共闘関係を持つ。


 「犯人が実は××でした」という叙述トリックが2つもあるのがちょっとくどかったが、それより『姉』の正体を第1話でバラすのがとても勿体無いと思った。しかし、もともとは雑誌『推理世界』で掲載されていた作品であるので読者にインパクトを与えるために仕方のない展開だったのだろう。最初から書き下ろしの長編だったらまた違っていたのかもしれないが、『姉』の正体を見るにかなり無理な構成になりそうだ。


 いろいろ突っ込みたいところがあったが世間に知られる正義の味方であり、その功績によって警察からも活動が黙認されるという新しい探偵像を生み出したところは評価したい。


 だが日経ビジネス1028日分の『中国・キタムラリポート』に取り上げられた横暴な権力者を殺害した男の死刑は止められるかを読むとヒーローが倒すべき相手は街ではなく別の場所にいて、公的機関に認められたヒーローなど単なる警察の犬だなと虚しい気持ちに陥ってしまった。


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