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プロフィール
HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
35
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      

 


企業エリア


 


同人エリアとは違い、企業エリアは写真撮影が禁止されていないので結構撮った。


 


 


 


 


 


 


 


    


麻雀ゲーム『雀娘』のブースでは全自動雀卓がセットされ入場者が実際に麻雀を打っていた。「ツモ」とか「ピンフのみ」とか日本語が聞こえた。ルールも日本風?らしく、役がないと上がれないようだった。こういうのも『咲』とかのアニメで覚えるんだろうか。


 


   


中国の人気漫画『非人哉』の作者サイン会が行われていた。これは中国漫画館というTwitterアカウントで日本語版が連載されているので、作者に「日本語版も読んでいます」と伝えたかったが、そういう雰囲気ではなく、何も声を掛けられなかった(ギスギスした雰囲気ではないが、誰も彼もが作者に話し掛けていないので恥ずかしかった)。


 


 


 


企業エリアの花形はビリビリ動画などの大きなステージだが、目玉は公式グッズショップだ。今はタオバオとかのネットショップがあるから別にここで買わなくてもと思うのだが、雰囲気がそうさせるのか各ショップには始終列ができていた。


 


 


 


 


特に多かった『魔道祖師』グッズ


 


 


 


 


 


 


 


アニメ伊藤潤二『コレクション』のグッズ(台湾)


 


 


  


今回も声優のイベントがあった。ボイスドラマ『黙読』の主役声優である劉琮と楊天翔のトークショー及びサイン会が16日に行われるはずだったのだが、結局トークショーは中止になってしまった。


 


詳しい顛末はここに載っている。


https://www.weibo.com/ttarticle/p/show?id=2309404318240313576412


 


要するに、トークショーを見に来たファンが多すぎたため、限られた警備員やスタッフだけで現場を整理することができず、安全を考慮した結果、やむを得ず中止にした(トークショーを23分だけ開いた)そうだ。


  


これは完全に運営側(CP及びこのボイスドラマ会社)のミスであり、こういう運営側の不備によるイベントの中止は中国でよく聞く。私も、まさか楊天翔にそんなに多くのファンがいるとは思わず(CP22の時はまだ大丈夫だった)、ファンの数が予想できなかったという運営側の言い訳は分からなくもない。とは言え、声優ファンの中にはこのためだけに飛行機や高速鉄道に乗ってここまで来たという人間もいるので、万全を期してもらいたいものだ。


 


 


まとめ


 


今回はやはり、撮影禁止の措置に驚かされた。今のところ上海のCPしか状況が分かっていないが、この措置が中国の同人イベント全体に広がる可能性がある。中国の同人イベントは女性作家に支えられていると言っても過言ではないと思っているので、今後BL二次創作の締め付けが厳しくなれば、こういうイベントもいつまで続けられるのかと心配になった。


 


だが、イベントの参加者が現在の不穏な空気を読み取り、挑戦的な行動に出ていないのは救いかもしれない。例えば、同人エリアでもやはり写真を撮っている人間はいたが、微博を覗いてみるとブースに並ぶ出展物を撮影した写真はほとんど見当たらず(もともとそれをアップする人間自体が少ないのかもしれないが)、多少の不自由があってもルールを守って続けていこうという団結心や意志が感じられた。


   


戦利品


 


 


 


『東方Project』の水墨画風画集の新作を買えた。あとは中国SF漫画短編集が収穫だが、これも実際に出版されているので同人ではない。今回の使用金額は公式グッズ含めて600元もいっておらず、年々買いたいと思える物が少なくなっているという実感が数字として出てきた。これは、自分の興味のあるジャンルの同人をあらかた買ってしまったことが原因だ。だからジャンルを増やせばいいのだが、それでも『一人之下』のように自分好みの物が見つからずに何も買えないということがある。


    


友人の戦利品はこのように豊富なので(というか大体『一人之下』だが)、CPの出展物が減ったというわけでは決してない。


 


 


中国では、政治のお膝元である北京での同人イベントの開催は年々少なくなるが、上海を含む各地ではCOMICUP以外に多くの同人イベントが行われている。オンリーイベントも多いので、COMICUPにこれ以上の収穫が見込めなければ、他のイベントに行ってみるのも一つの手だ。


 

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1215日と16日、上海の新国際博覧センター(SNIEC)で「COMICUP23」(CP23)が開催された。


 


2017年のCOMICUP20から4回目となる参加だが、今回はお目当ての同人を買いに行くということより、COMICUPの現状を知るのが目的だった。中国では最近、同人業界に不穏な空気が漂っているのだ。


 


201711月、ネット作家の狗娃子天一は自作BL小説『攻占』をネットで数千冊販売し、エロ本を売って金を稼いだということで逮捕された。そして201810月に行われた一審で、本を7000冊売って15万元(約240万円)の利益を得たとして、懲役10年の判決が下された。この結果に中国ネット界隈は騒然となり、特にネットでBLイラストを描いている作者らはこの判決を知るや否や、微博(マイクロブログ)からそれらのイラストを自主的に削除したようだ。


だがこの判決は20年前の司法解釈を根拠にしており、現代にそれを適用するのは無理がある。そして同年1218日の二審では、7000冊販売と言われているが実際は4000冊程度、利益の15万元の中に製造コストが含まれていない、『攻占』がエロ本であるという判定の基準が不透明、などの理由が挙がり、作家側に追い風が吹いた。


 


 


日本のコミックマーケットと異なり、COMICUPの主力はオリジナル二次創作の女性向け同人で、出展者や入場者も女性の方が多いように感じる。BLメインのイベントが昨今の情勢にどのように対応しているのかを知るために参加したわけだが、現場に来たら同人業界が置かれている立場が予想以上に厳しいことが分かった。


 


 


今回もイベント前日の金曜日に仕事を終えて18時発の上海行き高速鉄道に乗り、23時頃ようやくホテルへ。いつものユースホステルが改修工事中だったため、外灘(バンド)にある同系列のユースホステルに泊まる。ここの方が会場の新国際博覧センターに近く、今度からここを利用しよう思った。しかもホテルの近所に、上海に来たら毎回行っている24時間営業のカエルラーメン屋の支店があるのだ。


 


 


15日は朝食にカエルラーメンを食べてエネルギーを補充し、朝7時にはホテルを出た。


今回はサークル出展者の知り合いからサークルチケットをもらっているため、会場に入るために長蛇の列に並ぶ必要がなくなった代わりに、朝8時半まで会場入りしていないといけない。


 


ちなみにVIPチケット所持者は9時半入場、一般チケット所持者は10時入場だったが、会場は9時頃にVIPチケット所持者向けに開放された。予定入場時刻と実際の時刻が違うのはいつものことだ。


 


会場に入って同人エリアに着いて驚いたのは写真撮影の徹底した禁止だ。事前に公式から、同人エリアでの撮影を禁止するというアナウンスがあったが、そうは言っても大した効力はないだろうと高をくくっていたが、現場には非常に厳格なルールが敷かれていた。各サークルブースのネームプレートの上に貼られた「撮影禁止」の紙、ブースを区切るアルファベットの垂れ幕に書かれた「撮影禁止」の文字、「撮影禁止」の立て札を持つCPスタッフなど、とにかく到るところで禁止の文字が飛び込んでくるので、同人エリアで写真を撮ろうという考えはなくなった。


 


公式の取り決めによれば、同人エリアで写真撮影が可能なのは取材証を持つ人間だけで、それもブースを撮影する時は出展者の許可をもらう必要がある。また、壁には入場者へ向けた規則も貼られ、出展作品を笑ったり突っ込みを入れたりしない、ブースの前で長時間喋って販売の邪魔をしない、出展者との交流はマナーを守って行うなどの文言が並んでいた。今回の撮影禁止は今までの入場者の態度を改めるものだったのかと思ったが、私にサークルチケットをくれた出展者によると、「色々言っているが、一番の心配は、会場で出展されている本の写真をネットにアップされ、それが警察の目に止まること」だと言う。


 


確か、前回CP22では現場で出展物の違反を指摘された女性が逆上して、逆にCOMICUPを警察に通報してやると騒いだ事件があったようだが、今回の撮影禁止の措置はこのような報復を予防する目的があったかもしれない。


  


というわけで、同人エリアの写真は全くなく、ただ記憶に基づく報告をするだけだ。


  


15日と16日両日、私は8時前後に会場入りした。CPのスタッフと警備員を除き、会場にいるのはサークル関係者ということになる。しかし、8時の段階ですでにブース前に列ができているのはどういうわけだろう。CPではもうお馴染みになったゴシックロリータエリアの各ブースにすでに列ができているのにも驚いたが、何より目を引いたのは同人エリアにありながら実質公式サークルの『魔道祖師』ブースで、8時にすでに列が3つに分けられるほど、多くの女性が並んでいた(ちなみに『魔道祖師』は作者が同人グッズ販売の自粛を呼び掛けている)。私もサークルチケットを譲ってもらったのであまり人のことは言えないが、サークル関係者であることを利用して早くから並ぶのは「ナシ」じゃなかろうか。


 


あと、ブースと言えば、私は気付かなかったが、同人グッズの値段を書いた値札を置いていないところが多かったらしい。販売はしていないという建前で警察の介入を防ぐのが目的だろうか。


  


今回は見たところ、男性向け女性向けともにそこまで過激な表紙は少なかった。


  


今回興味があったのは日本語訳もされている中国の人気漫画『一人之下』の島だったのだが、やはりほとんどが諸葛青と王也という女性向けカップリングばかりで、私の好きキャラである肖自在をテーマにした同人が一つもなかったので何も買わなかった。


 


 


 


殺人嗜好症の異常者でちょっとずれてる肖自在(一応味方側)


 


 


ところで、中国ではすっかり生活に欠かせなくなったスマホ決済だが、今回のCP23で私は現金を使わなかったので、現金受付拒否のブースがどのくらいあったのか不明だ。だが、同人即売会も支付宝(アリペイ)と微信(ウィーチャット)のスマホ決済が主であり、もしかしたら近い将来、こういうイベントでは現金禁止がルールになるのかもしれない。


 


 


そう言えば、CP20に引き続き、日本から漫画家の士貴智志が来ていて、ブースでサイン色紙を描き続けていた。しかし、せっかく日本の漫画家が来ているというのに隅っこで黙々とサイン色紙を描いているのはもったいないと思う。トークショーをやれとは言わないが、通訳も付いているし、会場には有名無名の中国人漫画家も来ているんだから、もう少し中国人との交流を増やせば良いんじゃないだろうか。


  


 


COMICUP23報告 その2に続く


 


 


 


 

 


 


「太空」は宇宙という意味で、「無人生還」はアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』の中国語訳タイトルでもあるので、本書のタイトルは『宇宙でそして誰もいなくなった』になるか。


宇宙船に乗って月旅行に行くことになった参加者や乗組員が宇宙船の中で、童謡『10人のインディアン』になぞらえて一人ずつ殺されていくというSFミステリだ。


  





2036年、一部の金持ちや著名人が月面旅行に行けるようになった時代、中国人留学生の呉非は宇宙飛行会社の出資を得て宇宙船に乗れることになった。3人の乗組員、4人の乗客と共に月へ行くが、呉非を含めた全員が出発前に奇妙なメールを受け取っており、彼らは本来の計画にはない月の裏側の探索を開始する。そこには存在するはずのない月面基地があり、その中ではさっきまで地球で通信していた宇宙飛行会社の創始者エール・マスク(イーロン・マスクが元ネタ?)の死体があった。そして宇宙船内は惨劇の舞台に変わる。





 


さっきまで地球にいた人間の死体をどうやって月まで、しかも密室に運んだんだ、という非常にそそられる謎が提示され、読者の興奮をこれでもかと高めてくれる。更に、宇宙空間特有の真空や重力、有限の酸素や制限された行動など、通常とは異なる環境で展開される推理も魅力的だ。水が空中に浮く無重力状態で人間を刺し殺した場合、飛び散った血液は必ず犯人に付着するという推理に犯人がどう対処するのか、答えが気になるシーンは多かった。だが、その答えを見たところで、宇宙に行ったことがないので本当にそういう措置が取れるのか分からず、イマイチ説明不足だった。


 


中盤までは魅力的な謎のオンパレードなのだが、謎の回答が明かされるほどに想像と異なる結果が見えて来て、どんどんテンションが下がってくる。地球にいた人間が月で死んでいた?という謎に対しては、常識的に考えて同一人物の死体のわけがないよね、と読者に冷たく言い放ち、双子オチの方がまだ良かった真相が明らかになる。


 


SFミステリーなのにSFとミステリーの世界観がうまく合致しておらず、ミステリーのお約束ごとがSF要素によって裏切られている感じだった。他の読者も、ラスト数十ページの展開に大変がっかりしており、夢見させるようなミステリーを書くなよと言いたい。


 


あと、呉非をオッパオッパと慕うジョアンナというキャラが本当にうざかった。早く退場しないかなぁと思ったら呉非の彼女ポジションをゲットしてしぶとく生き残るし、こういうキャラって無残な殺され方をして読者の溜飲を下げる役目じゃないのかと思ったが、いろいろな箇所でセンスが合わない作品だった。

 22年前の交通事故が、消すことのできない憎しみを生んだ。

 16年前の出会いが、二人の子供の宿命を決定づけた。

 15年前の殺人事件が、現世の借りを刻んでいる。

 バレリーナの娘、ゴミ拾いの女の養女。

 誰が人買いに売られたのか。誰が命懸けで命を守っているのか。

 誰が小田を殺したのか。誰が老武を殺したのか。そして誰がかばわれて牢獄の外にいるのか。

 あらゆる霧が白夜の後に明らかになる。

 あらゆる災難は宿命の中にすでに刻まれている。

 愛はすでに骨の髄まで深まり、命は救済に変わる。

 あなたは私を待って、私は誰を待っているの。

 現世で、来世で。




 上の文章は表紙裏に書いてあったあらすじのようなものだ。
 『白夜救贖(白夜の救済)』は本書の帯(表紙と一体化している)に「東野圭吾に捧げる 中国版『白夜行』」と書かれているように、中国でも大人気の東野圭吾の『白夜行』をかなり意識している(表紙も)。では肝心の内容はと言うと、少なくとも推理小説とは言えない体裁だった。

 物語の舞台は2002年の北京。就職のために北京に訪れた安暁旭(あだ名は安子、作者と同じ名前)は、老杜という優しいがしつこい中年男性と出会う。身の回りの世話を焼いてくれる老杜を鬱陶しく思いながら感謝していた安子だったが、老杜の過去のせいで事件に巻き込まれてしまう。また、会社の同僚雷海生と恋人関係になるが、彼が口にする愛という暴力に辟易する。そして、隣人の小田(女性)が何者かに殺されたり、老杜が病気で倒れたり、身の回りで不可解なことが次々起こる中、雷海生から衝撃の思い出話を聞かされる。
 中国人が考える「東野圭吾らしさ」って私が思うに、「誰かのために命を使って献身する」ことだと思う。だとしたら、本作で一番「東野圭吾らしい」奴は老杜だろう。しかしこの老杜もかなりまだるっこしい人物で、自分の行いで安子に危機が訪れるのに彼女に真実を語ろうとせず、安子と過去に何かあったらしいと思わせるだけで、安子を守る理由を最後まで語らない。読んでいると、安子と運命的な繋がりがあると推察させられるが、傍から見ると老いらくの恋をこじらせた中年ストーカーだ。

 老杜が東野圭吾らしいキャラだとすると、雷海生は白夜行的人物で、本作における桐原亮司だ。雷海生は当初は安子のことが好きなだけの恋人キャラだと思いきや、どんどんサイコっぷりを露わにしていき、安子にしつこいほど求婚するが、実際は子供の頃に出会った少女に今もまだ恋をしており、安子のことは替わりに過ぎないと言う。

 ここからネタバレになるのだが、雷海生が恋をした少女こそ安子だった。安子は子供の頃にゴミ拾いの女の養女として生きており、そのとき雷海生と会ったことをまだ覚えていた。だが、当時の出来事を再現してもそれに気付かない雷海生からは、思い出を汚すなとか散々言われてしまう。そして、安子はそれより昔に老杜と雷海生に会っており、彼らによって自身の運命を大きく変えられたのだった。

 登場人物全員(特に男)クズしか出てこないのだ。中年ストーカーに目をつけられ、DV男に捕まった可哀想な女性が出てくるホラー小説として読むべきじゃないだろうか。

 そもそも本書を推理小説と言うことに無理がある。著者紹介を見るに作者は今まで推理小説を書いたことがないようだし、物語には一件の殺人事件(なんで警察が分からないんだっていうぐらいガバガバな殺し方)が出てくるが、本筋は安子と雷海生の結婚生活で、安子も誰も事件の調査なんかしない。

 そして本書を読んで一番イライラしたのが、ほとんどの情報が後出しであり、本の裏に書かれている紹介文の話になかなか踏み込まないことだ。22年前の交通事故とか16年前の出会いとか、物語序盤で最低でも伏線を張っておかなきゃいけない要素がほとんど唐突に登場する。何より納得いかないのが、数十年前から繋がりのある安子、老杜、雷海生の再会が偶然で片付けられていることだ。せめて誰かの手引きとかがないと、この広い中国で再会するなんて不可能だと思うのだが、こういう点も推理小説と言いたくない原因だ。


 じゃあ恋愛小説とかとして読めばどうかと言うと、上に書いたように頭のおかしいクズ男2人に好かれてしまった女性のサスペンスホラーとしか読めない。しかし、本作が不思議にも中国の書評サイト豆瓣で非常に高い評価を得ているのが不思議だ。多分サクラだと思う(偏見)。



 本書『私家偵探(私立探偵)』は台湾で2011年に台湾で出版されてからいくつもの賞を受賞し、数十万冊も出版されたそうだ。私が購入したのは2015年に大陸で出版された簡体字版だ。

 この本は2015年当時に購入したと記憶しているのだが、実は数ページパラパラ読んだだけで諦めて積ん読にしてしまっていた。この本の名前を再び見たのは先日のこと。11月12日に亡くなった台湾文学翻訳家の天野健太郎さんが、本書の翻訳をする予定だったという話をDokuta 松川良宏さんがTwitterでしていた。Dokutaさんが天野さんから直接聞いた話では、本書の日本語翻訳出版の企画は結局立ち消えになってしまったそうだが、天野さんのホームページで最初の一部だけ日本語訳が読める。



 そこで、その時手元にこれと言った本がなかった私は、なるほど天野さんが関係しているならきっと良書に違いないと思い、本棚から引っ張り出したわけだ。そしたら、なんで当時もっと根気よく読まなかったんだと後悔するほど面白かった。


 元大学教授で元有名劇作家の呉誠は酒の上での失態が原因で演劇業界から引退し、私立探偵の看板を掲げる。自動車修理工場の作業員と政治を語り、派出所の巡査とお茶を飲み、探偵の経験など皆無で、バイクどころか車も運転できない、中年と言うか初老の呉誠は経歴だけ見ると頼りないが、弁が立つ上に自信家で推理能力も有り、と探偵の素質は十分。しかし彼は台湾初の計画的連続殺人事件の重要参考人となり、台湾のメディアや警察をも巻き込んだ一大推理劇場を繰り広げることになる。

 序盤は、ちょっと口うるさい元インテリが余生を過ごす片手間に探偵業をする日常ミステリー小説のような構成で、ある家庭の問題解決を依頼されるのだが、そこから一般家庭に存在する秘密を暴露する短編ばかり続くのかと思いきや、匠の技としか思えない滑らかさでハードボイルドミステリーにギアチェンジし、気付いたら探偵が警察署で刑事たちと火花散る舌戦を繰り広げている。作中人物同士の狐と狸の化かし合いのようなギスギスした会話も本作の魅力で、その後に続く胸がすくような展開の後には、待望の探偵パートが待っている。大学教授らしい弁舌の上手さ、劇作家らしい狡猾なパフォーマンスを活用し、元の職業の設定が十分に生かされている。
 台湾の実情に即したリアリティを背景にしながら、ミステリー小説ならではの定石をきちんと踏まえており、日常・ハードボイルド・サスペンスを網羅しているが、台湾文学としても通用する内容で、ちゃんと台湾繁体字版で読んだほうが雰囲気もより味わえたのかなぁと少し後悔した。

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