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プロフィール
HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
40
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
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エラリィ・クイーン好きで、これまで本格ミステリーを書いてきた著者が初めて挑戦した社会派ミステリーと聞いて期待していたのだが、かなり当てが外れた。新聞記事から切り抜いた「社会問題」を手当たり次第ぶちこんで、「社会派でござい」と公言するのは不誠実だろう。ちなみにタイトルの梟獍とは、恩知らずの悪人を意味し、梟は母親を食い殺す悪鳥、獍は父親を食い殺す悪獣を指す。


 


 





将棋仲間の徐述聖、銭志国、戴興華は老境に差し掛かり、ともに人生に絶望していた。徐述聖はガンで、銭志国は老いらくの恋に破れ、戴興華は賭博による借金が原因で自殺を考えていた。しかし老人ホームの看護師がニートの息子からひどい家庭内暴力を受けていると知り、どうせなら人助けしてから死のうと考え、その穀潰しを殺す。だが犯行現場が何者かに盗撮されていて、謎の人物から脅迫を受けた3人は、次に老人ホームの施設長を殺せと命令される。他に選択肢がない3人は施設長室に向かうが、施設長はすでに殺されていた。そして犯罪に関してはずぶの素人の3人は警察の捜査によって着実に追い詰められていく。





 


 


タイトルもテーマも、3人のジジイというキャラクターも素晴らしいのに、どれもこれも浅堀りで終わってしまったもったいない作品。身寄りのない高齢者、家庭内暴力、ニート、子育てなどなど、親子関係に焦点を当てた一冊だが、どの問題も出すだけ出して終われば先に進むだけで、読書中は中国のこれらの社会問題を深く考えることも、当事者に思いを馳せることもなかった。しかしこのテンポの良さは本作の長所かもしれず、殺人という行為に3人のじいさんがためらう描写を省き、即座に殺人を決行、その場でアリバイをつくるといった場当たり感に、著者の出自はやはり本格ミステリーなのだと感じた。ニートの息子は悪人だけど施設長は善人だからと、3人が殺しをためらう様子からは、ネットのシンプルな善悪論が見て取れ、こいつら本当に老人か?と思ってしまった。


どうせなら余命幾ばくもない恐れ知らずの老人たちがちっぽけな悪を私刑に処していくっていうコメディ路線を突き進んでほしかったが、それは難しいか。


 


そんなジジイ3人を追うのは警察官の喬俊烈。彼も家庭に問題を抱えていて、自分と母親を顧みなかった父親を死ぬほど恨んでいるのだが、実はそれには理由があって……と、ここでもやはりテンポの良さが出て、喬俊烈の父親への恨み描写→誰かが理由を説明→雪解けというように、感動へ至るまでの溜めがほぼゼロだからとにかくどのエピソードも薄っぺらく感じてしまう。


 


そう、結局のところ著者の書きたいことが多すぎて、この約250ページの作品では収まりきれず、どの小さなエピソードも展開が性急になってしまっているのだ。最後の推理パートでは、これまでストーリーとは無関係だった女性のヒストリーにページが割かれ、女性の貧困問題とかキャバクラ依存みたいなことまで書こうとする。著者がどうしてテーマをこれでもかと詰め込んでしまったのか理解できない。編集者とか手綱を握ってくれる人がいなかったんだろうか。


 


 


 


さてここからネタバレというかツッコミ。




 


 


 


 


 


この本、放り投げたままの伏線が二つある。一つは、ニートの息子に暴力を振るわれていた母親が、見えないところで自分で自分の顔を殴っていたという点。本文では、喬俊烈らはその理由が分かったと書いているが、読者にはいまいちピンと来ない。息子への自責の念だろうか。


 


もう一つは、喬俊烈は実はこの土地に異動してきた警察官なのだが、その直属の上司が「とある大事件を任せたいから」という理由で彼を呼んだくせに、その大事件とは何かが語られない点。もしかして作者はかなりいきあたりばったりでこの作品を書いたんじゃあるまいか。


 


 


最大の問題はこれはネタバレになってしまうのだが-実は犯行現場の写真を撮り脅迫状を送ったのはあの3人のうちの誰かなのに、その誰かが脅迫状を受け取ってから読んでいる間、恐怖と緊張にさいなまれていることだ。てっきり、その誰かは認知症か何かを患っていて、脅迫状を作ったことを忘れて本当に謎の人物におびえているのかと思ったら、そうではない。確かに脅迫状に気付いたシーンは誰かの回想という体裁になっているのだが、それでも「彼は写真を取り出し、一瞬見ただけですぐにしまった。どうしてこうなった?どうしてこんなことが起こった?(中略)◯◯◯(誰かのこと)はようやく気付いた、自分たちが監視されていたことに」という三人称視点の文章はアンフェアすぎるだろう。


本作は社会派ミステリーとして不合格なのは言うに及ばず、普通のミステリー小説としても破綻していると感じた。なんだろう、本当にどうしてしまったんだろう。時晨にはやはり本格・新本格を書き続けてもらいたいが、もし社会派の道を進もうとするのなら、今度はもう少し取材なり実体験なりを経てからにしてほしい。そして身近な人から適切なアドバイスをもらってほしい。正直、いまは彼の創作環境が心配だ。

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