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プロフィール
HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
40
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      
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2007年に北方文芸出版社から出た同名タイトルが2020年に新星出版社から再出版されたので購入。実は10年ぐらい前に旧版を購入していたのだが全然読めないまま放置していた。つまり今回はリベンジ読書になるわけだが、やっぱりあまり楽しめなかった。


 


自由意志市では1984年から毎年3月に1件の首切り殺人事件が起き、犯人は「大鎌のロミオ」と呼ばれ人々から恐れられていた。最初の事件発生から9年目の1992年、3月が迫り焦った警察は犯人逮捕に5000ドルの懸賞金をかける。警察官を辞めようと思っていた文澤爾は、警察官として最後にこの事件を一から洗い直してみることに。最初の犠牲者エリザの父親ローゲンマンは日本刀マニアの富豪であり、遅々として進まない警察の捜査に嫌気が差しており、文澤爾に日本刀にまつわるクイズを出す。


 


 


作者文澤爾(Wenzel)はドイツ在住(今も?)の中国人作家で、舞台となった自由意志市もドイツだ。登場人物も全員ドイツ人であり、横文字の人や地名が漢字で表記されているので外国人の自分にとっては読みづらい。そして日本刀マニアの西洋人が出て、日本刀のうんちくを語るという、欧米の小説にありそうな展開が挟まれる。要するに海外小説の中国語訳っぽい小説を日本人が読むという、邪魔なフィルターがかかってしまっていて物語をすんなりと楽しめないのだ。


 


大鎌のロミオの出現日に法則性があったり、日本刀の飾り方から重要な手掛かりが見つかったりと要所要所面白いところはあったが、肝心の真犯人はやっぱりかって感じの人物で、しかも文澤爾とは全然関係ないところで、まるで読者に対する演技のように罪を悔やんでいて唐突な感じをぬぐえなかった。都市型犯罪小説というわけあって物語自体の距離的なスケールは大きいが、大きすぎて各登場人物の関係性にムラがあり、深さはそれほどない。


 


面白い面白くないというか「合わない」(角が立たない言い方)作品だった。もう一冊、『荒野猟人』の新装版も買ったが、これを読むのはまた数年後かもしれない。

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時晨の名探偵・陳爝シリーズ5作目は、処刑器具博物館を舞台とした内容で、陳爝と助手の韓晋らが殺人者の影に怯えながら仕掛けだらけの地下迷宮を探検する。


 


古代中国の処刑器具を集めた博物館「枉死城」館主の袁秉徳が亡くなった。陳爝と韓晋は偶然、彼の孫・袁嘉志の妻・譚麗娜と知り合い、袁一家の遺産相続の場に同行することになる。だが関係者が枉死城に集まったところ、遺書を公開する予定だった弁護士が部屋で首吊り死体となって見つかる。不思議なことに、死体の足は地面から数十センチも離れていたのに、そばに踏み台となるものはなかった。それから続けざまに館内から火が上がり、全員は地下室に逃げ込む。だが地下には、袁秉徳の遺族すら知らなかった本物の処刑器具だらけの迷宮が広がっており、まだ新しい死体がいくつもあった。しかも「蟇盆」用の大量の生きた蛇まで飼育されている。そして全員のアリバイがある中、遺族の一人が全身を砕かれて何者かに殺される。地下には彼ら以外の誰かがいるのだろうか。


 


 


中国に実際にあった残酷な処刑器具を出して読者の注意を引きつけながら、木を隠すなら森の中という大胆なトリックを出す、作者の発想力には感心のあまり笑みがこぼれる。もはや再現可能かどうかというレベルではない。最初に発生した弁護士首吊り事件で死体の周囲に踏み台がなかった謎が、後半に地下迷宮の謎を解いた時に明らかになるという、上から下にストンと落ちる種明かしは気持ちが良い。


 


シリーズ5作目の本作で色々進展があり、殺人からくりがいっぱいの屋敷ばっか造る建築家の存在が明らかになったり、「五老会」という秘密結社の存在がほのめかされたり、「ああ、そっち方面にかじを切るのか」と少し残念に思った。


本シリーズの探偵役陳爝は数学者という肩書なのだが、本作ではその設定が全く生かされていないように見える。本作は本土化(ローカライズ)したミステリーと評価されているが、中国に実際あった処刑器具を題材にしているだけで中国らしさはあまり感じなかった。しかしシリーズが今後も中国の歴史や文化を題材にして進むのなら、数学者という設定はむしろ重荷になるのではないか。


 


あと、ページ数が少ない。200ページ程度ではキャラクターの造型や会話が陳腐になるし、本土化していると言われる中国要素が挿話レベルで出てくるだけでストーリーに十分に馴染まないまま展開が進んでしまう。いつか倍の400ページぐらいの作品を書いてほしい。

鏈愛


暴露屋敷のネタバレ女王


 


 


「劇透」と「泄底」どちらにも「ネタバレ」という意味があり、区別を付けるためにこのような仮のタイトルにした。10年以上前に逮捕され、すでに死刑になった犯罪者の模倣犯がその後立て続けに現れ、現代にも再び蘇り、当時の被害者の関係者が次々に死んでいくという因縁めいた話でもあり、復讐談でもある。


 


G市では2008年から、死体に真っ赤な牙が描かれた白いマスクをかぶせる殺人鬼が暗躍しており、その手法から人々に白衣の天使ならぬ「紅衣天使」と呼ばれた。しかしその後犯人は捕まり、処刑されたのだが、これが新たな事件の始まりでG市の各地で「紅衣天使」の模倣犯が出現したのである。それらの模倣犯も次第に逮捕された。ただ一人を除いて……


大学生の劉辞往は10年前に頃に両親を「紅衣天使」の模倣犯に殺され、犯罪を憎む正義感の強い青年に成長していた。ある日、顔なじみの警官の堂仕文と一緒にいるところ、殺人事件が発生して共に現場に向かう。被害者には真っ赤な牙が描かれたマスクがかぶせられていた。劉辞往は、被害者が亡くなった母親の大学時代の知り合いで、10年ぶりに「紅衣天使」の模倣犯が現れたことから、犯人は両親を殺害し現在も捕まっていない模倣犯と同一犯だと推理、生前母親が残した日記に犯人のヒントがあると主張する。その日記とは劉辞往の母親が大学時代に書き残したもので、そこには彼女が薬を盛られて何者かに強姦されたという犯罪被害が記録されていた。


そして犯人の目星が一向につかない2人は、暴露屋敷の主人・霍雨薇に会いに行く。


 


 


恐ろしい凶悪殺人犯がとっくに死んでおり、その模倣犯が次々と現れ、そして唯一警察の捜査を逃れた模倣犯が被害者遺族の前に亡霊のように再び現れるという冒頭はなかなか引き込まれた。また、犯罪被害者遺族の劉辞往の、犯罪者を捕まえるなら手段を選ばない攻撃的な性格や、彼女とやることやってる肉食系だったのも新鮮だった。


 


しかしいかんせん、探偵役の霍雨薇のキャラクターにあまり没入できなかった。彼女はある大企業グループの娘で、個性的な書店を半分趣味で経営し、警察にも頼られているという名探偵だ。安楽椅子探偵として事件の概要を聞くだけで、推理小説のラストを先に喋ってしまうかのように様々な謎を解き明かしてきたことから、ネットでは「ネタバレ女王」として知られている。しかし正直、小説のサブタイトルにするほどの個性を感じなかった。書店を拠点にしているのなら彼女もまた推理小説の愛読者なのだろうが、よくもこういう設定で良しとしているものだ。


 


また、事件の解決パートが視覚に傾きすぎているのも読みづらかった。霍雨薇が関係者を集めて事件を説明するのに使うのがなんとPPT。大学の授業みたいで面白いし、これはつまり彼女が早くから謎を解いていたので準備時間があったことを意味しているが、小説ではスライドが出るはずもなく、単なる文章で終わっているので、この設定必要か?と疑問を持った。他にも監視カメラとか足跡の大きさや違和感など、映像でやってくれないかと思うようなトリックや謎ばかりが出てくるし、それらの映像的描写を上手に文章化できていないようだった。そもそも霍雨薇が「ネタバレ女王」と呼ばれる理由が彼女の推理からほとんど感じなかった。


 


トリックの一つに同性愛者が利用されているのはちょっと面白かったし、それで足跡の謎も明らかになることで後半に来て展開がちょっとバカミス的な感じになるのだが、やってることはだいぶ凶悪なので、読者も作中の関係者も笑えない。何より、成功するかどうか分からない人生をかけたトリックを行う人間が1作品の中に2人もいるのは詰め込みすぎだ。


 


読後、『ジャイアントロボ 地球が静止する日』を思い出した。遺言はきちんと正しく伝えよう。

 


 


 


晩点五十八小時(58時間遅れ)」というタイトルの本書は、実際の20081月末に中国の南部で発生した豪雪により立ち往生となった列車が、58時間遅れで次の駅に着く間に車内で発生した殺人事件の解決までが描かれている。列車という密室のさらに個室で発生した「二重密室」の謎に、機械工学出身の理系女子が挑む。


 


 




旧正月に広東の実家に列車で帰るはずだった葉青は、車内で偶然、山海大学の後輩の郭江南に再会する。聞けば、指導教官の文克己含む実験チーム一同、香港で開催されるフォーラムに参加するために列車に乗っているのだという。だがその夜、一人だけ個室を取っていた文克己が室内で死んでいるのが見つかる。死体には中毒死の症状が見られ、首には蛇に噛まれたらしい傷跡があったことから、毒蛇が死因だと疑われたが、飛行機と同様に手荷物検査が厳しい列車に毒蛇を持ち込むことは不可能だった。列車に乗り合わせていた葉青の叔父の鉄道公安官・李大鵬は、実験チームのメンバーを疑い一人ずつ話を聞くと、出発前、チームはとある「チップ」に関する取引を何者かに持ち掛けられていたことが分かった。そして大雪により停車してしまった列車のトイレで、今度は郭江南の死体が見つかる。首にはまたもや蛇が噛んだような傷跡があった。葉青は李大鵬らと共に車内を調べ、他の乗客に聞き込みをし、徐々に真相に近付いていくも、3人目の被害者が出てしまう……


 





 


実験チームに寄せられた、とあるチップの取引に関する手紙は冒頭で登場したので、てっきり事件の中核はこれを巡るものになるかと思いきや実はあまり関係ないので、殺害方法もそうだが動機すらも不明のまま物語の後半に突入するので、そう簡単に謎を明かさないぞという作者の自信が感じられた。


 


本書の最大のポイントは、20081月末に中国の南部で実際に発生した雪害を背景にしているところだろう。架空の土地や時間を創ったほうが楽だと思われるのに、敢えて10年以上前の現実を物語の舞台にしたことは、単にスマホ等のツールを出したかったわけではない。本作は(中で語られる設定が真実とするなら)、この時代のこの列車でなければ実現不可能なトリックを発表するために書かれたものであると言っていい。もう一つ、実現できるかどうかはさておき、強度のある釣り糸の使い方にも感心したし、その犯行を目撃したのが精神障害者で、証言の信憑性が低く、彼自身詳しく説明しようとしないという犯行の見せ方は上手いと思った。


  


そして最後に明かされる動機は現在でも十分殺人の動機足り得る内容であり、過去を舞台としていながらも、それに甘えることなく現代でも通じる問題を提起する余韻の残し方は見事だった。作者の歩錸にとって本書が初の長編ミステリーらしい。今まで新星出版社のミステリー畑以外の作家による作品は、どれも定石を外しすぎていて評価が低かったが、本書は次作も期待できる内容だった。


 


 




 


「智商」とは中国語で知能指数という意味で、一般的には頭脳を駆使して警察を翻弄する知脳犯を「高智商犯罪」と言う。以前自分が翻訳した同作家のデビュー作『知能犯之罠』(原著タイトルは設局)は、防犯カメラのスキを突いて警察の捜査を出し抜く犯人が登場し、まさに高智商犯罪を描いた作品であり、本書は内容や登場人物がそれとは対になっている。


 


 





省公安庁副庁長の高棟は、同じく省公安庁副庁長で出世のライバルでもある周衛東とそのおいの周栄に関する密告を受ける。周衛東のために裏で散々悪事を働いてきた周栄を捕まえられれば、周衛東を出世レースから蹴落とせるばかりか、自分が次の庁長の座に就くことができる。そして高棟は腹心の部下である張一昴を、周栄が縄張りとしている三江口という土地の刑偵局副局長として派遣することを決める。だが高棟には一つ懸念があった。それは、張一昴がこれまで「直感」だけを頼りに捜査を乗り切っていたことだ。三江口に派遣された張一昴は早速難題にぶち当たる。刑事の葉剣が何者かに殺されており、しかも現場には張一昴の名前がダイイングメッセージとして残されていたのだ。張一昴が着任早々最初にしなければならないことは、自身の潔白の証明だった。一方その頃、2人組の強盗が三江口を次の狩場に選んで向かっている途中に偶然起こしてしまった殺人事件のせいで、三江口の警察や裏社会はさらなる混乱に巻き込まれる。張一昴たちはこの局面を乗り越え、犯罪者たちを一網打尽にすることはできるのだろうか。





 


 


『知能犯之罠』では市公安局の所長だった高棟が順調に出世を重ねて省公安庁の副庁長にまで上り詰めている。そしてその時は彼の忠実な部下だった張一昴が、それを買われて三江口という県級市の副局長に抜擢された。『知能犯之罠』同様に本書でも、事件の解決が出世レースに利用され、正義とか倫理とかいう作品の雰囲気を湿らせるものは排除されている。その代わり本書全体にあるのは自分の進退をかけた人間たちの必死さであり、周衛東派閥の警察官らが張一昴に三江口で手柄を立てさせまいと工作に出れば、上層部では高棟が現場の捜査に口出しする周衛東を論破したりと、現場以外での「場外乱闘」も見どころの一つだ。


 


 


本書のタイトルは『低智商犯罪』だが、もっと分かりやすく言えば、いきあたりばったりとか浅はかな犯罪と言っていいだろう。本書には『知能犯之罠』で警察を手玉に取った徐策のような知能犯もいなければ、理詰めで事件の真相に近付いて行く高棟のような警察もおらず、これまでの紫金陳の作品とは真逆の方向性だ。警察側も犯人側も目先のことしか考えず、目の前にある問題の解決を第一に考えるので、長期的なビジョンを持った人間が一人もいないため事件がどんどん複雑になっていく。もともと周栄の犯罪の証拠を探すだけだった任務が、各人の思惑が重なった結果、強盗、汚職官僚、密売人、殺し屋など三江口に裏社会の関係者が揃い、みんながみんな誰かが起こした事態に振り回されるという展開になる。ミステリーとして一級品であるのはもちろん、コメディ小説としても大変優れている作品だ。


 


登場人物もみな一癖も二癖もある造型で、一筋縄ではいかない人間ばかりだ。高棟に実力を心配されている張一昴も部下に指導できるぐらいの経験や知識は持っているのだが、「あの」高棟の部下ということでだいぶ買いかぶられており、彼が運に任せて事件を解決するほど部下がますます心酔するという構図になっている。また彼自身も苦労人で、部下に手を焼いているという人間味があるのも良い。


 


その困った部下の一人の李茜は、おじが公安部のお偉いさんという新人女性警官で、はれもの扱いされるのを嫌い、正義感を発揮した単独行動もしょっちゅうだ。恐ろしいのは彼女が自分の立場をきちんと分かっているところで、張一昴たちの捜査の邪魔をする上司がいれば、その目の前でおじに電話をかけて脅迫するというお嬢様ぶりを発揮。正義感があり、ワガママで狡猾という、敵にしても味方にしても厄介な存在だ。


 


他にも、清廉潔白で慎ましい生活をしているという役人がおり、彼の懐柔をすべく周栄が接触した所、実は今までずっと高価な骨董品や文化財を賄賂代わりに受け取っていた正真正銘の汚職官僚だったことが分かり、彼へのプレゼントを用意するために周栄は自ら問題を招くことになる。


 


周栄自身も悪人だがゲスというわけではない仲間思いな人間で、今回の結末は彼自身の弱さや甘さが引き起こしたものといえるかもしれない。このように登場人物の属性はありきたりかもしれないが、どのキャラも個性的で同ジャンルの他作品と比べても埋没しない魅力がある。


 


こういう喜劇系ミステリーは、とんでもない言動のバカや自分勝手な奴が散々場を引っ掻き回して最後には自分も予想していなかった漁夫の利を得るという結末になり、要所で読者を不快にさせる描写が目立つ。しかし本作は全員が必死に動き、欲を出して行動したために状況をますます悪くさせながら、勧善懲悪の結末に収束する。ドタバタ劇の結末後の「その後」の話でも放置していた謎をきちんと回収し、全力疾走後のクールダウンも見事に決めるベテランの筆さばきを見せてくれる。


笑えるミステリー小説とはこういうものだなということを教えてくれる作品だった。


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