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プロフィール
HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
40
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

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「智商」とは中国語で知能指数という意味で、一般的には頭脳を駆使して警察を翻弄する知脳犯を「高智商犯罪」と言う。以前自分が翻訳した同作家のデビュー作『知能犯之罠』(原著タイトルは設局)は、防犯カメラのスキを突いて警察の捜査を出し抜く犯人が登場し、まさに高智商犯罪を描いた作品であり、本書は内容や登場人物がそれとは対になっている。


 


 





省公安庁副庁長の高棟は、同じく省公安庁副庁長で出世のライバルでもある周衛東とそのおいの周栄に関する密告を受ける。周衛東のために裏で散々悪事を働いてきた周栄を捕まえられれば、周衛東を出世レースから蹴落とせるばかりか、自分が次の庁長の座に就くことができる。そして高棟は腹心の部下である張一昴を、周栄が縄張りとしている三江口という土地の刑偵局副局長として派遣することを決める。だが高棟には一つ懸念があった。それは、張一昴がこれまで「直感」だけを頼りに捜査を乗り切っていたことだ。三江口に派遣された張一昴は早速難題にぶち当たる。刑事の葉剣が何者かに殺されており、しかも現場には張一昴の名前がダイイングメッセージとして残されていたのだ。張一昴が着任早々最初にしなければならないことは、自身の潔白の証明だった。一方その頃、2人組の強盗が三江口を次の狩場に選んで向かっている途中に偶然起こしてしまった殺人事件のせいで、三江口の警察や裏社会はさらなる混乱に巻き込まれる。張一昴たちはこの局面を乗り越え、犯罪者たちを一網打尽にすることはできるのだろうか。





 


 


『知能犯之罠』では市公安局の所長だった高棟が順調に出世を重ねて省公安庁の副庁長にまで上り詰めている。そしてその時は彼の忠実な部下だった張一昴が、それを買われて三江口という県級市の副局長に抜擢された。『知能犯之罠』同様に本書でも、事件の解決が出世レースに利用され、正義とか倫理とかいう作品の雰囲気を湿らせるものは排除されている。その代わり本書全体にあるのは自分の進退をかけた人間たちの必死さであり、周衛東派閥の警察官らが張一昴に三江口で手柄を立てさせまいと工作に出れば、上層部では高棟が現場の捜査に口出しする周衛東を論破したりと、現場以外での「場外乱闘」も見どころの一つだ。


 


 


本書のタイトルは『低智商犯罪』だが、もっと分かりやすく言えば、いきあたりばったりとか浅はかな犯罪と言っていいだろう。本書には『知能犯之罠』で警察を手玉に取った徐策のような知能犯もいなければ、理詰めで事件の真相に近付いて行く高棟のような警察もおらず、これまでの紫金陳の作品とは真逆の方向性だ。警察側も犯人側も目先のことしか考えず、目の前にある問題の解決を第一に考えるので、長期的なビジョンを持った人間が一人もいないため事件がどんどん複雑になっていく。もともと周栄の犯罪の証拠を探すだけだった任務が、各人の思惑が重なった結果、強盗、汚職官僚、密売人、殺し屋など三江口に裏社会の関係者が揃い、みんながみんな誰かが起こした事態に振り回されるという展開になる。ミステリーとして一級品であるのはもちろん、コメディ小説としても大変優れている作品だ。


 


登場人物もみな一癖も二癖もある造型で、一筋縄ではいかない人間ばかりだ。高棟に実力を心配されている張一昴も部下に指導できるぐらいの経験や知識は持っているのだが、「あの」高棟の部下ということでだいぶ買いかぶられており、彼が運に任せて事件を解決するほど部下がますます心酔するという構図になっている。また彼自身も苦労人で、部下に手を焼いているという人間味があるのも良い。


 


その困った部下の一人の李茜は、おじが公安部のお偉いさんという新人女性警官で、はれもの扱いされるのを嫌い、正義感を発揮した単独行動もしょっちゅうだ。恐ろしいのは彼女が自分の立場をきちんと分かっているところで、張一昴たちの捜査の邪魔をする上司がいれば、その目の前でおじに電話をかけて脅迫するというお嬢様ぶりを発揮。正義感があり、ワガママで狡猾という、敵にしても味方にしても厄介な存在だ。


 


他にも、清廉潔白で慎ましい生活をしているという役人がおり、彼の懐柔をすべく周栄が接触した所、実は今までずっと高価な骨董品や文化財を賄賂代わりに受け取っていた正真正銘の汚職官僚だったことが分かり、彼へのプレゼントを用意するために周栄は自ら問題を招くことになる。


 


周栄自身も悪人だがゲスというわけではない仲間思いな人間で、今回の結末は彼自身の弱さや甘さが引き起こしたものといえるかもしれない。このように登場人物の属性はありきたりかもしれないが、どのキャラも個性的で同ジャンルの他作品と比べても埋没しない魅力がある。


 


こういう喜劇系ミステリーは、とんでもない言動のバカや自分勝手な奴が散々場を引っ掻き回して最後には自分も予想していなかった漁夫の利を得るという結末になり、要所で読者を不快にさせる描写が目立つ。しかし本作は全員が必死に動き、欲を出して行動したために状況をますます悪くさせながら、勧善懲悪の結末に収束する。ドタバタ劇の結末後の「その後」の話でも放置していた謎をきちんと回収し、全力疾走後のクールダウンも見事に決めるベテランの筆さばきを見せてくれる。


笑えるミステリー小説とはこういうものだなということを教えてくれる作品だった。

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