鏈愛
暴露屋敷のネタバレ女王
「劇透」と「泄底」どちらにも「ネタバレ」という意味があり、区別を付けるためにこのような仮のタイトルにした。10年以上前に逮捕され、すでに死刑になった犯罪者の模倣犯がその後立て続けに現れ、現代にも再び蘇り、当時の被害者の関係者が次々に死んでいくという因縁めいた話でもあり、復讐談でもある。
G市では2008年から、死体に真っ赤な牙が描かれた白いマスクをかぶせる殺人鬼が暗躍しており、その手法から人々に白衣の天使ならぬ「紅衣天使」と呼ばれた。しかしその後犯人は捕まり、処刑されたのだが、これが新たな事件の始まりでG市の各地で「紅衣天使」の模倣犯が出現したのである。それらの模倣犯も次第に逮捕された。ただ一人を除いて……
大学生の劉辞往は10年前に頃に両親を「紅衣天使」の模倣犯に殺され、犯罪を憎む正義感の強い青年に成長していた。ある日、顔なじみの警官の堂仕文と一緒にいるところ、殺人事件が発生して共に現場に向かう。被害者には真っ赤な牙が描かれたマスクがかぶせられていた。劉辞往は、被害者が亡くなった母親の大学時代の知り合いで、10年ぶりに「紅衣天使」の模倣犯が現れたことから、犯人は両親を殺害し現在も捕まっていない模倣犯と同一犯だと推理、生前母親が残した日記に犯人のヒントがあると主張する。その日記とは劉辞往の母親が大学時代に書き残したもので、そこには彼女が薬を盛られて何者かに強姦されたという犯罪被害が記録されていた。
そして犯人の目星が一向につかない2人は、暴露屋敷の主人・霍雨薇に会いに行く。
恐ろしい凶悪殺人犯がとっくに死んでおり、その模倣犯が次々と現れ、そして唯一警察の捜査を逃れた模倣犯が被害者遺族の前に亡霊のように再び現れるという冒頭はなかなか引き込まれた。また、犯罪被害者遺族の劉辞往の、犯罪者を捕まえるなら手段を選ばない攻撃的な性格や、彼女とやることやってる肉食系だったのも新鮮だった。
しかしいかんせん、探偵役の霍雨薇のキャラクターにあまり没入できなかった。彼女はある大企業グループの娘で、個性的な書店を半分趣味で経営し、警察にも頼られているという名探偵だ。安楽椅子探偵として事件の概要を聞くだけで、推理小説のラストを先に喋ってしまうかのように様々な謎を解き明かしてきたことから、ネットでは「ネタバレ女王」として知られている。しかし正直、小説のサブタイトルにするほどの個性を感じなかった。書店を拠点にしているのなら彼女もまた推理小説の愛読者なのだろうが、よくもこういう設定で良しとしているものだ。
また、事件の解決パートが視覚に傾きすぎているのも読みづらかった。霍雨薇が関係者を集めて事件を説明するのに使うのがなんとPPT。大学の授業みたいで面白いし、これはつまり彼女が早くから謎を解いていたので準備時間があったことを意味しているが、小説ではスライドが出るはずもなく、単なる文章で終わっているので、この設定必要か?と疑問を持った。他にも監視カメラとか足跡の大きさや違和感など、映像でやってくれないかと思うようなトリックや謎ばかりが出てくるし、それらの映像的描写を上手に文章化できていないようだった。そもそも霍雨薇が「ネタバレ女王」と呼ばれる理由が彼女の推理からほとんど感じなかった。
トリックの一つに同性愛者が利用されているのはちょっと面白かったし、それで足跡の謎も明らかになることで後半に来て展開がちょっとバカミス的な感じになるのだが、やってることはだいぶ凶悪なので、読者も作中の関係者も笑えない。何より、成功するかどうか分からない人生をかけたトリックを行う人間が1作品の中に2人もいるのは詰め込みすぎだ。
読後、『ジャイアントロボ 地球が静止する日』を思い出した。遺言はきちんと正しく伝えよう。