男はいつまで経っても一言も発しない少女に不満を募らせていたものの、日々注がれる羨望の眼差しに浮かれ、人と会うたびに自ら自慢話を吹っ掛けては憂さ晴らしをしていた。男と会う者たちの目的も男が連れてきた異質な美しさを持つ女のことなので、聞かされて悪い気はしない。だが代わり映えのしない内容を熱心に語る男に当初の好奇心など忘れて辟易していた。
「銃で脅しても喋るどころか服も着替えないし、御飯も食べないなんてな」
男の友人は今日も男と少女の様子を訪ねに来た。
男は友人の視線の先にいる少女の方を振り向く。その姿は会った当時と何も変わらない艶めかしさを保っていた。
「何もやらせてくれないんじゃ拾った意味もないな」
一時期は雪崩のように舞い込んできた来訪者も今ではこの友人の一人だけになってしまった。そしてこの友人も既に少女への興味をなくしている。大勢の客と一緒になって女の全身を睨め付けていた眼はもう乾いている。
「ところで知ってるか?また女が降って来てるって」
友人の言葉に男は耳を疑った。
「お前が捕まえた所でだ。お前の例があるし誰も捕まえようとはしないけど、物好きな奴らがそろそろ動き出す頃だろうな。俺は御免だけどね、お前みたいにはなりたくないからな」
友人の言葉が体に浸みていく。男は握り締めていた銃の感触を思い出すと、あの場所へ駆け出していた。
後ろから友人の怒声が聞こえた。
「おい、女が逃げたぞ」
あの少女と姿形が同じ女どもがそこに立っていた。空を睨み付けると徐々に下降してくる姿が見える。男はひとまず地面に降りている女たちに銃弾を浴びせた。
少女たちは声も上げず一様に逃げようとするが次々と銃弾に倒れた。空からは脱力した死体が露わな格好をして落ちて来る。
男が四方に散らばる女たちを撃ち殺していると不意に背中に気配を感じて反射的に引き金を引いた。やはりあの少女が死んでいた。
最後の一人になるまで片付けてから男は身構えて、まさに地面に降り立つ少女を待ち受けた。少女を抱き止め、確かに感じる感触に男は安心した。両手に埋もれる少女の肉体は以前と異なる肉感を備えており、男の眼には少女の顔が前にも増してより美しく映った。
男が前よりも美しい女を連れて来たと人々が噂するまでに時間はかからなかった。見物客と共に物言わぬ女を観賞する男の眼は一際輝いていた。
だがしばらくすると人々には飽きが来て、一言も喋らない少女に男も腹が立ってきた。
拙作に目を通していただきありがとうございます。
なんというか、奇を衒いすぎた感が否めません。楽しんでもらって、感想でもいただけたら幸いです。
ちなみにラブコメ少女漫画の王道、遅刻遅刻~と食パンをくわえて駆けてくる女の子とぶつかって・・・・・・っていう話は1970年代から出て来たらしいのです。
今ではギャグ漫画でもやらない手法ですけど、当時の読者はこれをどう捉えたのでしょうね。僕らがエヴァ最終話で見たのと同じようにギャグだと感じたのか、それとも羨んだのか。
でも今も昔もボーイミーツガールは往々にして突然なんですね。
だから人生に希望が持てるんでしょうね。