《歳月・推理》と《青少年文学・推理世界》がついに推理小説賞を創設しました。
その名も华文推理大奖赛(中国語推理グランプリ)だ。なんともシンプルでわかりやすいタイトルである。
応募要項に記載されている同賞の設立の意図を以下に載せる。
《歳月・推理》と《青少年文学・推理世界》は中国本土の推理文学の発展と促進、中国語のミステリの発表場所の完備、多くの作者が推理文学の創作に着手することを励まし、創意と活力を引き出すために、全世界の中国人を対象にしたコンテストを行い、中国語のミステリを熱愛し実力と潜在力を兼ね備えた新人作家を真剣に探しています。
創設の目的に『新人』(原文では新生力量)と書いているものの、応募資格には世界中の中国人という言葉があるだけで他に厳しい規定はなさそうである。
だから今までミステリを愛読していただけの新人のみならず、既に活躍している作家にも受賞のチャンスがあるらしい。
一等には10,000元、二等には5,000元、三等には2,000元が支払われ、更に最優秀新人賞に選ばれた新人には特別に1,000元の賞金が与えられる。そして受賞作品は《歳月・推理》か《青少年文学・推理世界》での掲載が約束されている。
受賞作品を《歳月・推理》か《推理世界》のどちらかの誌上に掲載するその選考基準がわからないが、これでますます中国本土の推理小説業界が盛り上がる。また推測ではあるが、創設の意図は上記の理由以外に権威付けと他推理雑誌との差別化が挙げられるだろう。
だけどこの賞は募集期間が2011年1月から12月までと長く、受賞作品が読めるようになるのはそれより先の2012年4月以降。2012年にもなったら作家の顔ぶれもだいぶ変わっているだろうが、《歳月・推理》や連載作家の単行本がキオスク以外にちゃんとした本屋に並んでいるのかも知れない。
豆瓣というウェブサイトをご存知だろうか。
中国のソーシャルネットワークサービスで、各種作品のレビューや中国各地で開かれるイベントの告知をアップする場所として使われている。一言で言い表すと、コミュニティ機能に特化したmixのようなものだ。
ボクに豆瓣を教えてくれた日本人の友人は三里屯や798芸術区などのポップカルチャー地区でクラブやDJイベントがいつ開かれるか日時を調べるために使っている。マイナーな趣味のコミュほど結束間が強いそうだ。
当然ミステリ関係のコミュニティもあり、ボク自身は歳月・推理コミュに加入している。しかし見るものと言ったら書籍の発売日と、読んでも理解できなかった作品のトリックの謎解きぐらいでさほど豆瓣に興味を持っていなかった。
だが先日、とあるコミュを眼にしてこの豆瓣というSNSが日本ではありえない貴重な空間を提供してくれていることを知った。
なんと、ミステリカテゴリの一つ御手洗熊猫コミュに御手洗熊猫本人がいるのだ。
そして熊猫先生は12月4日のトピックを自ら立てて読者へ向けてこれ以上ない吉報を伝える。原文は長いので以下抄訳したものを記載する。
原文 http://www.douban.com/group/topic/16159336/?start=0
《島田流殺人事件》
作者:御手洗熊猫
文字数:32万字
ジャンル:長編オリジナル推理小説
今のところサイン本
表紙のデザインはボクのメールボックスへ
まさにみんなが待ち望んでいた御手洗熊猫先生未出版の長編小説《島田流殺人事件》がついに世に出るというのだ。
作者本人からもたらされたニュースに豆瓣の熊猫読者は大歓喜。ようやく読めることが出来るというのでスレの住人は急激に興奮し、「オレも欲しい、私も欲しい」というレスが続いた。
ボクもこの空間の熱狂に流されて「オレも欲しい」とレスをして、見事予約者として数えられた。
キオスクに並んでいたので新作だと思い飛びついたのだが、04年初版の旧作だった。中国大陸で初出版されたのが最近だったって話らしい。
しかし、台湾では(多分)書店に置かれているというのに、大陸では6年越しにやっと発売された場所が路上のキオスクという現実が中国本土のミステリ事情を反映しているようだ。
左)大陸版
右)台湾版
『雨』の字を模した館雨夜荘で過去に起きた凄惨な殺人事件を解決するために招かれた哲学者探偵林若平。しかし過去を踏襲するかのように宿泊者たちに次々と不幸が襲いかかる。果たして林若平は事件の真相を暴くことができるのだろうか。
歳月推理12月号が出た。
今月号のラインナップは以下の通りになっている。
言桄 蚂蚁的力量(アリの力)
雪飲狂歌 日落旅馆(サンセットホテル)
千山 探阴宅・上(上)(幽霊屋敷探訪・前編)
御手洗熊猫 圣诞夜的诅咒・下(クリスマスの呪い・後編)
松本清張 種族同盟
アガサ・クリスティ 犬のボール事件
『犬のボール事件』は去年あたりに発見されたアガサの未発表短編小説。どんな内容だか楽しみだが、今回紹介するのは先月にも取り上げた御手洗熊猫の『クリスマスの呪い』の後編だ。