天野健太郎氏による日本語版が文藝春秋から出て、2016年後半から日本でブレイクした『13・67』の原書(香港版)を読み終えました。2014年に原書が出版されたばかりの頃は全く反応しなかったのに、日本で売れたら慌てて読み始めるなんて典型的なミーハー的行動だなと自分でも思います。中国大陸でも最近になって一部の書店には繁体字版(香港や台湾で使われている中国語表記)の原書が置かれるようになりましたが、大体がライフスタイル関係やグルメなどおしゃれな書籍ばかりで、ミステリなどエンタメ書籍を大量に置いてある書店はまだ少ないです。しかもそのミステリも京極夏彦ら海外作家の繁体字版ばかりで、オリジナル作品がほとんどないというのが現状です。
なので、今回もいつも通り中国大陸のオンラインショッピングサイト「タオバオ」を使って大陸の代理店に香港から本書を取り寄せてもらいました。去年に注文してから届くまで1カ月ぐらいかかりました。値段は送料込みで90元(1600円)ほど。本体価格は350ニュー台湾ドル(約1300円)なので全然差がない。
本書は6編の短編小説からなり、2013年から1967年までの香港社会を舞台に、事件の一部始終をまるで見てきたように推理する「天眼」と呼ばれた敏腕刑事・関振鐸が各時代の香港を象徴したような事件を解決するという警察ミステリ小説です。第1話が関振鐸の晩年、第2話が引退後の関振鐸、第3話が引退間際…というように時間に逆行する構成になっていて、最後は1967年の香港暴動です。
日本語版が去年出ているのですでに詳しく書かれたレビューがたくさんあるでしょう。また、翻訳者自身が書いた紹介記事もあります。
陳浩基(ちんこうき,サイモン・チェン)『13・67』(執筆者・天野健太郎)
中国大陸側の反応を見てみますと、日本で「2018本格ミステリ・ベスト10」や「2017年 週刊文春ミステリーベスト10、本格ミステリ・ベスト10」などの海外部門で1位を取ったことが中国のミステリ読者ほか多数の人々から注目されたようで、私がそのランキングトップの報を微博(中国版Twitter)に発表したところ一気にリツイートされ、10万回以上の閲覧数を叩き出しました(普段は300回ぐらい)。「日本で評判なら読んでみよう」というコメントもあり、ミステリにおける日本の信頼度の高さを実感しましたが、だからといって大陸でいきなりブームが来た形跡は見当たりません。SNSサイト「豆瓣」を見てみるとこれがきっかけで読者が爆発的に増えたということもなく、2014年に原書が出版されてから一定の頻度で好評のレビューが上がっています。
しかし、『13・67』ブームと関係ないとは言えない話もあり、作者・陳浩基(サイモン・チェン)が過去に第2回島田荘司推理小説賞を受賞した『遺忘・刑警』(日本語タイトル『世界を売った男』)が中国大陸で出版されるらしいです(あくまでも伝聞)。
島田荘司推理小説賞受賞作の中国大陸での出版は第1回受賞作『虚擬街頭漂流記』以降ありません。第5回受賞作の『黄』は作者が大陸の人間だったためか大陸での出版も早かったのですが、台湾や香港の作家の作品はなかなか大陸で出版されません。
『遺忘・刑警』の大陸版出版が、今後島田荘司推理小説賞受賞作品の出版を促すことになるのか、それとも『13・67』出版の布石になるのかは不明です。『13・67』の最終話で1967年の香港暴動を書いているため大陸での出版はないだろうと言われています。
しかし香港では本書の映画化も決まっていると言いますし、だとしたら映画が何らかの形で大陸に入ることでしょう。そもそも本自体、タオバオとかを使えば香港や台湾から輸入できますし。
ですので、大陸版の出版は不可能かもしれないけど、大陸でも台湾や香港の文化を楽しめるチャンネルは今後も引き続き残してほしいなぁと思いました。