2015年4月14日から16日にかけて、日本在住の中国ミステリ小説家・陸秋槎と著名な中国ミステリ小説家・呼延雲のトークショーが北京で開かれました。この模様はおそらく今後、新星出版社や雲莱塢などから公式の文字起こしデータがアップされるでしょう。ここでは3日連続で出た私が備忘録としてその時の内容を書き起こします。
私の聞き間違いや理解ミスで作家の意図と違うことを書いていたらすいません。
4月14日18:30 北京市王府井付近 商務印書館内 涵芬楼書店2階
トークテーマ 「推理迷的青春―『新本格』的初期風格」
(ミステリマニアの青春―『新本格』の初期の作風)
語り手:陸秋槎
新作『当且僅当雪是白的』(雪が白いかつそれのみ)のサイン会を兼ねたこのトークショーには40人ほどの若い読者(多分大学生)が陸秋槎のトークを聞きに来ていました。今回は主に日本の1980年代後半及び90年代前半の新本格ミステリについて紹介し、最後に現在の中国ミステリに生まれている『新本格』作品を取り上げました。実はこのトークショーは北京が初めてではなく、4月8日に上海ですでに行っています。その時は上海在住のミステリ小説家陸燁華と時晨もいたようです。
トークで陸秋槎が紹介した日本の新本格ミステリは以下の6作品です。
綾辻行人『十角館の殺人』
我孫子武丸『8の殺人』
有栖川有栖『月光ゲーム Yの悲劇'88』
歌野昌午『長い家の殺人』
法月綸太郎『密閉教室』
芦辺拓『殺人喜劇の13人』
これらのうち、後半3作品はおそらく中国で正式な翻訳版が出ていません。
中国では民間翻訳(ファンが勝手に作品を翻訳し掲示板やSNSサイトにアップする)が依然として盛んです。それは、今回のトークで陸秋槎が早坂吝の名前を出した時に、まだ一作も中国版が出ていない日本の作家に対して笑い声などの反応が起きたことからも読み取れます。
ですが、今から30年ほど前の上記6作品が果たして中国でどれほど知られているでしょうか。それに今回の聴講者はおそらく大学生ばかりです。しかしそれは1988年生まれの陸秋槎も同様なのですが、古く且つ未翻訳の作品を紹介できる日本在住という立場を持つ陸秋槎の強みが感じられます。
陸秋槎は上記6つの新本格ミステリが如何に現実と乖離し、また設定過剰であるのかを面白おかしく説明。聴講者たちはときに笑い、ときに感心しため息をもらしながらトークに耳を傾けていました。
そして後半は中国の新本格ミステリを簡単に紹介。
陸秋槎『当且僅当雪是白的』
胡正欣『悪意的平方』
騰騰馬『烏鴉社』
陸秋槎『超能力偵探事務所』
時晨『罪之断章』、『黒曜館事件』、『鏡獄島事件』
呼延雲『嬗変』
日本の新本格同様、これらの作品もキャラクターや世界観が現実離れしている、動機がおかしい、トリックのためだけに存在するギミックがあります。
自身ももともとミステリマニアだった陸秋槎は『票友』(京劇用語。京劇を見るだけだったが、趣味が講じて道楽で挟撃を演じるようになった素人役者を指す言葉。愛好家という意味)がプロ作家になり、少年少女を主人公として学校生活を舞台にする青春ミステリを書くようになったと説明。日本の新本格作家と同じような生まれ方をした中国の新本格作家ですが、日本の新本格作家が探偵を捨ててストーリー性の高い現実的な作品を書くようになったのと同様の事態が中国でも起きます。
例えば、時晨のように青春ミステリから脱却し大人の探偵が出る作品を書く作家や、呼延雲のように強力な力を持つ非現実的な少年少女探偵が出る一方で市場を考えた内容の作品を書き、青春要素と商業要素のせめぎあいをしている作家が中国でも登場します。
また、陸秋槎は4月16日も14:00から北京市広渠門内大街 建投書局内の北京50+書店にて翻訳者の趙婧怡(東川篤哉や西澤保彦などの作品を翻訳)とトークショーを行いましたが内容は大体同じでした。(この日は50人ぐらいのやはり学生らしき若者が多かった)
ただ、趙婧怡が「なんでミステリの作者ってみんなオタクなの?」という切り口から、森江春策Pの名前でニコ動にアイマス動画を投稿している芦辺拓のエピソードを出すのは流石に笑いました。
陸秋槎はトークショーに来ているような若いミステリマニアが作家になった場合の日本と中国の共通点を語りました。この話が彼らの心にどう響いたのか。彼らの創作活動にきっと良い影響が出たことでしょう。
そして、中国のミステリマニアも作家になれば最終的に自分が愛した新本格を捨てることになるのでしょうか。これは陸秋槎自身の動向に注目です。