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プロフィール
HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
40
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      
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 6月に買った『地獄変』をようやく読み終える。良くも悪くもベストセラー小説であった
 
CIMG0162.JPG

 4月1日の深夜、カルフールから高級ホテルルームまでなんでも揃っている『未来夢ビル』が大地震に見舞われる。ビル内にいたほとんどの人間は死に絶え、生き残ったのはたった23人であった。脱出を試みる彼らだったが大学教授呉寒雷の発言で事態はよりいっそう絶望的になる。彼は世界の終末が近く訪れるという預言書めいた本を出版し、世界的な評価を受けた物理学者だった。そして呉寒雷教授は生き残った者たちに『外の世界は全滅した』と告げる。
 だが実際は地震など起こっておらず、未来夢ビルは地盤沈下で地下150メートル下に埋まっていたのであった。事件から7日目の夜、救助隊として活動していた刑事の葉粛によって遂に生存者が発見される。しかし生き残っていたのはたったの6人だけで、建物内には明らかに殺人事件の痕跡があった。生存者から事情を聞く葉粛だったが彼らは何かを隠すように一様に嘘の証言をする。瓦礫と偽証の中から葉粛は真実を探し出せるのだろうか。
 
 てっきりドラゴンヘッドやバイオレンスジャック関東地獄街編みたいなサバイバルメインのストーリーかと思っていたが、読んでみたらビル内で何が起こったのかを突き止めるクローズドサークルものだった。




 6人の生存者達は服屋のマネキンが襲ってきたとかペットショップの犬が野生化したとか、果ては全員オレが殺したと記憶の混濁という理由では説明できない嘘の証言を吐き、明らかに何かを隠している、或いは誰かをかばっている。彼らは協力して口裏を合わせているわけではなく、しかし誰かを陥れようと画策しているわけでもないので、彼らの嘘は目的を有した本当の嘘だということが読者には伝わる。
 だが時系列を遡って描写されるビル内での出来事はどれもこれも普通の殺人事件でインパクトに欠け、いったい大オチを飾れるような謎がまだ残っているのかと読者を別な意味でハラハラさせる。
 
 災害直後に生き残った23人の最大の不幸は『世界の終わり』を信じ込んでしまったことだ。警察機構もなくなったと思い込んだ彼らの犯罪意識は薄くなり、殺人を犯しても恐怖を感じることはなくなる。だから読者は生存者達が閉じ込められていた7日間のうちに起こした事件に焦点を絞るが、ここで既に作者の術中にはまってしまっている。
 
 作者は作中の事件で生き残った生存者がいたらそれが本当に本人なのかを疑うミステリの定石を逆手に取り、災害が発生するずっと前から出自を隠し、生き残ってしまったから窮地に立たされた人物がいたことを明かす。これは伏線というには描写が曖昧なのでミステリ小説の謎と同じ位置づけにして良いのか微妙だ。しかし過去を隠していた男が地下からの救出の機会を得て結局は過去のために命を落とす展開には、やはり作者蔡駿の構成力の妙を感じずにはいられない。
 
 
 23名の生存者の中で一番気にかかる存在は最後まで生き残った日本人母子玉田洋子と玉田正太だろう。
 上海在住のこの日本人母子の身にどんな不幸が降りかかるのかハラハラさせられたのは最近起きた反日デモのせいだろうが、この本の中では日本人であることを理由に彼女らに危害を加えられることはない。せいぜい玉田洋子がAV好きのゲスに人妻ものか未亡人ものに出てきそうと妄想されるぐらいだ。実はこの玉田洋子と中国の縁は祖父の代から続いている。祖父は戦争中に南京で無辜の中国人を嬉々として殺し廻っており、彼女に生涯かけても償えない贖罪の念を植えつけた。
 つまり彼女はAVと南京大虐殺という中国人にとって一番馴染みの深い日本要素が組み込まれた言わば中国びいきのシンボル的な日本人であり、生き残るのも必然であった。
 

 玉田洋子に限らず本作の登場人物はどれも典型的な造型で非常にわかりやすい言動を取る。ディオールで着飾った成金のボンボン(富二代)である郭小軍は世界が終わった(と思われている)と言うのになんでも金で解決しようとして反感を買い、読者の予想通り一番最初に殺され、女子高生の丁紫は服屋で現実逃避をし、救出されてからは女子高生らしい言動で事情聴取に来た葉粛をイライラさせる。このような没個性的な大味なキャラクターのおかげで400ページ以上の大作を読みやすくさせている。
 
 登場人物が23人以上いるのに一覧表がなかったのは不満点だ。中国で小説が文庫本化することはなさそうだが、もし再販されるようなことがあれば、今度は是非とも登場人物の一覧表を載せて欲しい。

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