中国のミステリマガジン『歳月推理』に連載されていた作品をまとめた短編集。2014年から雑誌に連載していた作品をようやく1冊の本にしたものであり、短編だけで本を出版する難しさを教えてくれる。
ミステリ小説好きの父親のせいで「島田潔(とう・でんけつ。島が名字)」と名付けられた主人公はミステリ小説に全く興味のない人間に育ったが、父親が突然亡くなったことでミステリ書籍専門店「献給謀殺的供物(殺人への供物)」の経営を引き継ぐことに。島田潔はアルバイトの林鳶・林茵姉妹と一緒に店に訪れる事件解決の依頼や身近で起こる事件を解決するうちに、父親の死の真相に近付いていく。
『Xの悲劇』、『人間椅子』、『ABC殺人事件』など古今東西の名作ミステリを模倣したかのような事件が起き、ミステリ小説好きの林鳶が島田潔及び読者にモチーフになった作品の粗筋や今回の事件との相似点を説明してくれるので元ネタ未読の読者でも安心だ。名作ミステリの設定やストーリーを題材にした二次創作とも言える趣味性が高い作品の数々には、作者の海外ミステリに対する深い愛情を感じる。
2012年から2016年の「第一時代」と2017年以降の「第二時代」に分かれており、前者は林鳶が、後者は純文学好きの林茵が島田潔の主なパートナーとなっている。だから第二時代のテーマは純文学で、『こころ』や『桜の木の下には』などが選ばれている。
本書の序文を書いている日本人の中国ミステリ翻訳家・稲村文吾と中国人の書評家・天蠍小猪の文章によると、本書は『ビブリア古書堂の事件手帖』などを例とする「お店もの」ミステリの一種だそうだ。
設定や各ストーリーの内容を国外の作品から真似て、現実の中国では到底存在し得ない「献給謀殺的供物」みたいな本屋を出し、非現実的な世界をつくるがいかにも中国のミステリマニアが書きそうな作品だ。中国なのに日本を思わせる場所や日本ミステリを彷彿とさせるストーリーに対し、「中国を舞台にする意味ある?」と疑問に思うかもしれないが、一人の熱心な日本ミステリ愛読者がその熱意や愛情を注いで作った作品もまた「中国ミステリ」だ。