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プロフィール
HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
40
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      
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 中国で複数の翻訳会社と提携し、不定期に仕事をもらっていると、たまに会社の担当者から「これ訳してくれ」と、一単語だったり一文だったり、お金が発生しない翻訳案件が舞い込んでくる。


何故その仕事が私のところに来たのか、その経緯を知ることができるケースは少ない。客先からついでに翻訳するよう頼まれたので、使い勝手の良い翻訳者に連絡した、というのがほとんどだ。「友達が日本料理屋開くからこの中国語の店名を日本語にして」って正直に公私混同を教えてくれたケースもあった。依頼の内容や分量が非常識なものではない限り、私は「これも付き合いだ」とできるだけ引き受けるようにしている。


 


この前、たまに仕事をくれる翻訳会社の担当者がいつものようにQQ(中国のチャットソフト)で連絡をくれた。


 


チャットには你,想成為音楽家嗎? この一文を訳して!と表示されていた。


(上記の一文は念の為その一部を変えている。実際は「音楽家」ではなく別の単語だった。)


 


簡単だと思って「OK」と返事をして早速日本語訳を打ち込もうとして、はたと気付いた。


 


この文章、どこで使うんだ?


 


内容からして会社の内部文書とか公式文書ではなさそうだ。しかし、その文章をそのまま丁寧に訳すという選択肢がある一方で、キャッチコピーとかの場合なら、より砕けた表現が必要になってくる。


 


しかし字面からして漫画からの出典っぽかったので、担当者に「漫画のセリフか?」と聞いたら「そうだ」という答えが返ってきた。


 


 


じゃあ漫画らしく訳そうと再びキーボードを叩こうとするが、またその指がピタリと止まる。


 


「音楽家」ってどう訳そう…


 


普通の日本人が「音楽家」という言葉から想像する人物は、バッハやモーツァルトや小澤征爾とか、いわゆるクラシック関連で著名人であり、「音楽家」が登場する漫画と言えば『のだめカンタービレ』や『ピアノの森』だろう。


 


しかし「音楽家」は「ミュージシャン」とも訳せる。「ミュージシャン」の範囲は広い。ギター持ってたり、歌を歌ったりする人は大抵「ミュージシャン」であり、それで連想する漫画は『BECK』とか『デトロイト・メタル・シティ』とか『無頼男』とかで、上述の漫画とだいぶ内容が異なる。


 


ここで担当者に「漫画ってどんな漫画?」と聞けば良かったんだろうが、たかが一文にそこまで聞くのも面倒な気がして、結局最大公約数的かつ少し個性的な訳文「君は、音楽家になりたくないか?」「君は、ミュージシャンになりたくないか?」2パターンを担当者に送った。


 


 


そこで再び気付く。「」の訳を「君は、」にしたのは正しかったのか?と。


 


この文章が漫画のセリフからの出典と言われて、私が想像したのはあるベテランが若者(子供)に対して、音楽家(ミュージシャン)になりたいかどうかを聞いているシーンだった。しかし、誰が誰に対して言ったセリフなのか分からない以上、「君は、」という年齢や立場が上の者が下の者に対して使う言葉を選んだのは不適切だったんじゃないかと思った。


 


そこで改めて担当者に連絡を取り、どちらの文からも「君は、」を削除してもらった。


 


 


しかし今度は「なりたくないか?」という訳文が気になってくる。もし、子供が大人に尋ねているシーンだったら?誰かに対して叫んでいたら?人物や場面によってニュアンスが全く変わってくる。


 


と言うかそもそも、「音楽家(ミュージシャン)になりたいの?」が一番無難な訳だった気もしてくる。


要するに、漫画の内容を見ていない私は、どんな風に訳したところで自分の訳文を信じられなかった。


 


 


翻訳案件は長いものより実は短いものの方が難易度が高い、というか厄介だ。短いものは文章全てが重要で気が抜けず、調査が必要な単語がたっぷり入っているケースが多い。また、今回のように内容が少ないせいで背景が分からないこともある。手紙にしたって、例えば受取人の性別すら分からず(中国人の名前は一見しただけでは男女の区別がつかない場合が多い)、「王先生(ミスター)」なのか「王(ミス)」なのかも定まらない。


 


書き手は分かっているから敢えて書いていないこともあるが、翻訳者はその文章しか情報源がなく、文脈で読み取るにしても限度がある。


 


そういう時に大切なのがその中間に立つ翻訳会社なのだが、翻訳者の苦労を想像できる担当者がどれぐらいいるだろう。


 


今回の件でも、担当者はきっと「」が日本語で「あなた」にも「お前」にも「貴様」にも「うぬ」にも訳せるということに気付いていない。


 


おそらく「」は「」しかないだろ、と思っているはずだ。


 


例えば『ONE PIECE』の名台詞「海賊王に、おれはなるっ」は中国語では我要成為海賊王」と訳される。
 では『
ONE PIECE』を全く知らない人間にこの中国語の一文だけを何も調べさせず日本語に翻訳させた場合どうなるか。「我」を「俺」か「ボク」か「私」かに翻訳する段階で悩むだろうし、発言者の性別も分からないので無難に「私」にしてしまうかもしれない。「海賊王」を、全ての海賊を率いる王と想像して「海賊の王様」と訳すかもしれない。語順にも難関があり、上二つをクリアしても「俺は海賊王になる」と訳すのがほとんどだろう。


この中国語を、「海賊王におれはなる」と翻訳できる人間は皆無なんじゃないだろうか。


 


だから翻訳には情報が多ければ多いほど良い。漫画の中の一文だとしても、その漫画全ページを提供してもらい、その発言者の性別・年齢・容姿・性格など、そしてストーリーやその背景などを知らないと、その作品にふさわしい良い翻訳はできない。その点を翻訳会社には理解してほしいのだが、難易度の高低は文字数で決まるとしか思っていない担当者にそれは期待できない。


 


 今後このような案件が来た場合、たとえ作品を提供してもらえなくても、発言者の性別と年齢、そしてストーリーの背景ぐらいは教えてもらおう。良い翻訳のために、と心に誓った。というか、「たかが一文、されど一文」とは言え、結局は「一文」のために(しかもタダ)そんな時間を費やしたくないのだ。

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