自殺した同級生の日記を謎を追う中編『桜草忌』と、前作『当且僅当雪是白的』の前日譚の短編『天空放晴処』の2編が収録されている。表紙は前作同様、日本人イラストレーター中村至宏の手によるものだ。
イヤミス(後味が悪いミステリ)ということだが、思えば前作も前前作『元年春之祭』もトリックよりも動機のインパクトの方が強く、気持ちの良い読後感ではなかった気がする。
突然自殺した林遠江の唯一の友達だった葉荻は、林遠江が嫌っていた彼女の母親に招かれ、林遠江がつけていた日記を読ませてもらう。そこには自分と林遠江の学内外の交流の数々が記録されていたが、自殺前日の日記には葉荻から投げ掛けられたひどい言葉のせいで自殺を選んだ遺書が書いてあった。だが葉荻は自殺前日に林遠江と話したことも会ったこともない。
自分のせいで自殺したという嘘を書かれたことで、林遠江の母親からは命を狙われ、微博(マイクロブログ)に個人情報をさらされ、学校ではイジメられ、徐々に追い詰められていく葉荻は教師の姚と共に林遠江の自殺の真相を探ることに。林遠江は一番仲が良かった葉荻を何故ハメたのか。それとも日記は誰かの捏造なのか。
相変わらず、目的のためには手段を選ばない狂った覚悟を持った少女が登場する。彼女たちは他人の命以上に自分の命を軽んじ、自分の将来や運命に執着しておらず、目的を達成するためならどんな犯罪だってやってみせるというミステリ脳の持ち主である。お前そんなことで人生棒に振って良いのか、ってツッコミたくなるが、すでにそんなことをやっちゃっている彼女たちに対して誰がそう言えるだろうか。追い詰められた少女たちが静かな狂気に駆られ、誰かを振り向かせるためなら他人の命も自分の命も関係ない、という一途な愛憎は彼女たちの幼さによるところが大きいが、彼女たちはその幼さを盾に罪を逃れようとはしない。
小説に出てくるネグレクトもネットリンチもイジメも何もかも他の小説の借り物であり、作者が強調したいものではない。作中でも言われているがそれらはみなよくあることであり、今回の犯行(?)はそのようなありふれた不幸の下にいる少女が取った最後の手段で、その一点において彼女は他より異常だが、自分の行動の結果を見届けられない結果を選んだことから同作者の他作品の少女よりも一段凄みがある。
陸秋槎に関しては、トリックはもちろんだが、それ以上に次はどんな迫力ある少女を生み出してくれるのかが楽しみでしょうがない。