帯で「周浩暉、紫金陳、呼延雲、李異、軒弦、王稼駿」という見知った名前の作家が推薦していたので読んでみたけど、そんなに面白い内容ではなかった。
元警官で現在は探偵をやっている崔寒は元同僚の警官・顧峻峰から事件発生の連絡を受け現場に向かう。タレントがビルから墜落死したという事件だが、現場の状況から他殺と見抜いた崔寒は、建物内に潜んでいた犯人を発見。しかし犯人は、「神から命令された」という言葉を残して自殺してしまう。それから数日後、今度は山で二人連れの男が喧嘩の末にどちらも崖から落ちて死ぬという不可解な事件が起きる。検死の結果、片方から抗うつ剤が検出される。そしてビルの犯人も過去に精神を病んでいたことが明らかに。一連の事件の背後に「神」と呼ばれる人物がいることに気付いた崔寒は警察にはできない独自の調査で真相に近付いていき、そして自分の過去と対峙することになる。
読者が知らない情報が小出しされたり、伏線だと思っていた箇所が無関係だったり、重要だと思っていた謎が大したことなかったり、読み進めるほど読書の熱が冷めていく内容だった。
冒頭のビルの犯人が、タレントをビルに呼んだ手段を「たった三文字見せただけで来てくれた」と思わせぶりに白状しているので、その三文字が物語の根本に関わってくるのかと思うのだが、真犯人によってその三文字とはタレントが過去に起こした事件の被害者の名前にすぎないことが明らかになる。その程度ならビルの犯人の口から直接語らせろよと思うのだが、作者にとっては黒幕に自慢気に喋らせたいことらしい。
真犯人の正体も、作中の崔寒にとっては難敵であり向き合わなければならない相手なのだが、読者にとっては「誰だよコイツ」としか思えない人物で、だったら序盤から妙に崔寒を慕ってウザく絡んでくる新人警官が真犯人の方が読者的には良かった。
更に崔寒の過去に言及されても読者は蚊帳の外だ。警察辞めて探偵になる(この探偵という仕事も、崔寒が普段何をしているのか分からない。まさか警察から捜査協力の報酬をもらっているわけじゃないだろう)ぐらいだから、警官時代に何かあったのだろうとは薄々分かるが、因縁が明かされるだけで具体的に何があったのかは書かれないのだ。
ここでは真犯人が崔寒とどういう関係があるのかまではバラさないが、真犯人が精神科医だというのは言っておきたい。その精神科医が催眠術とか薬物とかで患者たちをコントロールして事件を起こし、崔寒が捜査に介入するのを誘っていたのだ。
先日、周浩暉の『邪悪催眠師』という、タイトルの通り悪い催眠術師が警察官にも催眠術をかけて事件を引き起こすっていう内容の小説を読んだのだが、その作品は10年前の作品だからともかく、この『悪果』は今年のだ。フィクションのハッカーはキーボードガチャガチャ叩くだけでパソコンやネットのことなら何でもできるという陳腐な表現と同様、催眠術や薬物で人間を自由にコントロールできる黒幕書くのはいい加減やめてほしい。洗脳して殺人まで実行させたという事件は現実にもあっただろうが、フィクションにはもう飽きるほど出てしまっている。
漫画『野望の王国』に、ヤクザの事務所にカチコミに行って銃弾も物ともせず命令を忠実に遂行するカルト宗教の狂信者がたくさん出てくるが、このぐらい飛び抜けていたらむしろ笑える。
もう続編の出版が決まっているようで、崔寒の過去を曖昧にしたのもそれを見越してのことかと容易に想像がつく。しかしレビューサイトでもあまり反響がないのに(レビューはみな高得点)もう2巻目とは、多分本当の目的は映像化なんだろうな。確かにドラマで見たら、次から次に知らない新情報や人物が出てきてもそれほど不自然じゃないかもしれない。