中国でドラマ化もされたミステリー小説『余罪』の作者常書欣による新作ミステリー。『余罪』と同様に不良警察官を主人公に据えた本作では、公安部禁毒(麻薬取締)局と「毒王(麻薬王)」と呼ばれる人物が動かす犯罪組織の攻防が描かれる。
省内で「藍精霊」と呼ばれる新種ドラッグ蔓延に手を焼いていた麻薬取締班のメンバーらは、短期間のうちに騒動の黒幕である「毒王」の逮捕を命じられる。だが被疑者への事情聴取や捜査では毒王どころか組織の幹部の正体すら全然つかめなかった。
銃を支給されない補助警察隊に所属する邢猛志は同僚の丁燦や任明星とパチンコで小動物を撃って食べたり、ハッキングをやったり、後ろめたい過去を持つ人間を脅迫したりするなど、警察より犯罪者の側に与していたのだが、毒王の捜査でめきめきと頭角を現し、ついには取締班のメンバーになる。彼らは正攻法と裏技でITや現代インフラを駆使した新型犯罪に立ち向かう。
まずこの本はタイトル詐欺というか、タイトルに「弾弓(パチンコ)」とある割に、本編ではパチンコの比重がそこまで大きくない。そもそも本作はネット賭博、デリバリーサービス、違法スマホなどを使って毒物を売買する犯罪組織の撲滅が目的であるので、パチンコをバカスカ撃って解決できるというものではない。邢猛志のパチンコの腕前が活かされる箇所はもちろんあるが、むしろ一般の警察官とは異なる視点から繰り出される推理や言動こそが彼の持ち味であり、特技のパチンコのせいで逆にキャラの魅力が狭まっていないかと思った。
蛇の道は蛇というように犯罪者の行動パターンに精通し、それによって優秀な警察官の一歩先を行く推理を展開する邢猛志たちの描写はちょっとエンターテインメント性が強すぎるように見える。しかし本作のもう一つのテーマは、実力があるのにくすぶっていた邢猛志ら不良が正式に認められ再評価されるという、少年の成長譚でもあるので、このような不自然なレベル差はフィクションとして割り切ったほうが良いかもしれない。
現代中国の長所を悪用した犯罪もでてきて、全体的に悪くはない話だったが最後の最後で裏切られた。本作の肝は毒王の正体をつかみ、組織を壊滅させることにあるのだが、終わりが見えてもそれらに全く触れる気配がないのだ。そして最終ページに次のような言葉が。
黒幕の正体どころか、警察内部にいると疑われる密通者も明らかにならず、ほとんど何の事件も終わらないまま第1巻が終了した。このように全然区切りができておらず謎を残すだけ残して次巻に続くという中国ミステリーのストーリー展開って一体何なんだろうか。2巻では警察を「クビ」になった邢猛志が犯罪組織に潜入するスパイ物が始まるんだろうが、多分読まないだろう。