作者のPano氏から恵贈してもらった本。失った記憶の探索から、過去に起きた未解決の連続殺人事件を解明するのだが、そこに死者の「残像」が関わってくる、少しだけホラー風味がある話だ。
24歳の冬余は子供の頃の記憶がなく、そのせいで冷めた性格をしており、結婚を間近に控えても他人事のように思っていた。そこで彼女は自身の空白を埋めるべく、幼い頃に暮らしていた村に行く。そこには自分のことを知っている人がいて、自分の生家もあったのだが、残されていた荷物が当時の自分の年齢と一致しないことに不信感を抱く。そして林懐哀という青年から過去の自分の「残像」を見させられた冬余は、自分が19年前に冬安という姉と一緒にダムで溺れ、姉が溺死していたことを知る。自分が溺れた記憶どころか、姉がいたことすらも忘れていた冬余は、林懐哀たちとともに未解決の女児連続溺殺事件の謎を追う。しかし彼女たちの調査を制するかのように、当時を知る証人が次々殺されていく。
冬余らが幼い頃に巻き込まれた事件は、当時を1999年の世紀末にしていることで、その時に流行ったカルト宗教が絡んだものにしている。しかしそのカルト宗教が生贄目的で少女たちを殺したわけではなく、当時の関係者に事情を聞き、徐々に事件の輪郭が明らかになる一方で、事件の規模がどんどんコンパクトになっていく。結局の所、姉の死に何か巨大な陰謀が隠されているという話ではなく、姉個人の死と冬余らの悲劇に物語が収束する。子供の頃の記憶を探す冬余が、姉の死の真相や真犯人を見つけるのは、いわば自分探しのようなものであり、本作は極めて私的な推理小説であると言える。
本作のもう一つの謎である「残像」に関してだが、これが途中でたまにヒントをくれるだけで、物語に積極的に関わろうとしない。とは言えこれにもきちんと真相が隠されており、決して単なる舞台装置では終わらない。
しかし、まさか中国の小説で五島勉の名前を見掛けるとは思わなかった。