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栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
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性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

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2010年出版のやや古めの長編中国ミステリー小説。『白夜行』を意識したのではと疑うタイトルだが、内容はかなり陰惨な警察サスペンスだ。そして作者はまえがきで、本書のもともとのタイトルは「身を隠す」という意味の『躲藏』だと主張しており、どうやら書籍化の際にこういう書名に変えられたのだと予想できる。


 


 


舜城(実在しない架空の都市)で公安局局長の褚辛の娘夢瑶が誘拐される。彼女を探すよう依頼されていた元刑事の私立探偵沐天陘は、元同僚の周正陽から彼女の体の一部が見つかったという知らせを受けて公安局に向かう。解剖の結果、発見された彼女の両手は生きているうちに切り落とされたものだと分かった。責任を痛感した沐天陘は、なんとしてもこの事件の犯人を捕まえると決意。一方、警察側も絶対に事件を解決させなければならない事情があった。実はこの1年前に、同じく少女を対象にしたバラバラ殺人事件が発生していたのだが、当時中央(北京)から指導者が視察に来ていたため、その事件は捜査こそすれ公開していなかったのだ。このまま手をこまねいて中央から応援が来ることになれば、その時の事件も掘り返され、間違いなく上層部の首が飛ぶ。舜城中の警察官が捜査に駆り出される中、褚夢瑶の事件とは全く無関係の殺人事件が発生し、被疑者として沐天陘の名前が上がる。沐天陘は警察の監視をかいくぐり、彼なりの捜査方法で徐々に犯人に迫っていく。


 


 


沐天陘は元刑事の探偵で、頭脳明晰で喧嘩も強く、非の打ち所がない人物に見えるが、実は2年前に妻を亡くしてから薬物に溺れ、幻覚を見るわ支離滅裂な言動をするわ、かなりの危険人物でもある。序盤に自分の妻を殺した犯人の殺人容疑で指名手配されるが、これは冤罪でも誰かにハメられたわけでもなく、本当に殺している。マジでクロだ。だからこの本の主人公は、元刑事の探偵で薬物中毒者で何なら精神疾患も患っている人殺しということになる。攻め過ぎだ。


 


そもそもなぜ10年前の推理小説を今更買って読んだかと言うと、中国ネットで本書を「中国ミステリーの最高水準を示す10作」の一つに数えていた記事を見つけていたからだ。公安局幹部の家族を復讐の対象にしたり、沐天陘のような犯罪者を主人公にしたり、女性を生きたまま切り刻む残虐描写があったり、現代ではおそらく出版をためらう内容だ。殺人犯である沐天陘に対する処遇もゆるいもので、いくら沐天陘に肩入れする読者という立場から見ても、作者は私刑を肯定していると言わざるを得ない。上記の記事の作者は、10作の中に周浩暉の『死亡通知書』や紫金陳の『知能犯之罠(原作:設局)』も挙げていたので、こういう作品が好きなのかも知れない。


 


首都からおエライサンが来ていたから殺人事件の情報を公開しなかったという判断ミスが事件の再発を招いてしまったが、この事件の根幹にはさらに大きな不正と汚職が絡んでいる。実は、娘を誘拐された褚辛は十数年前にある人物を口封じするために何人もの人々が巻き添えになった死ぬ大事故を起こし、その罪を他人にかぶせていたのだ。今回の事件の理由は公務員に対する復讐であり、辛は数々の残酷な方法でその報いを受けたわけだが、読んでてそんなにスカッとしないのは、犠牲となったのが彼の無実の娘だからだろう。


警察の不祥事の他に精神病も重要な要素として物語に加わる。主人公の沐天陘自身も精神疾患を患っているが、これは敵側も同様で、実際、なぜ女性を生きながら切り刻むのかと言えば、恨みと言うよりもその衝動を抑えられないからという動機だ。精神疾患者が事件の鍵を握り、その背後に黒幕がいるという構図は『羊たちの沈黙』を思い起こさせる。中国社会派ミステリーという顔を見せておきながら、実際はサイコスリラーだったというオチだ。


 


本書は決してメジャーな作品ではないが、中国のレビューサイトにおける評判は良い。しかし、上記のような過激さが本作の評価を大きく高め、「最高の中国ミステリー」と言わしめているのであれば、規制が厳しくなった現在、これを超える作品は二度と現れることはないだろう。


 


作者の谷神冥はこの本が最初で最後の作品らしいが、別名義で活躍していないのだろうか。公務員を殺せなくなった、残酷描写がしづらくなった、という規制の果てに筆を折っていたら惜しい限りだ。


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