上下巻の短編集。タイトルに「少女」と付いていて、制服のような服を来ている女性が表紙にいるのだから主人公は女子中学生か高校生かと思いきや、実は大学生というタイトル&表紙詐欺。もしかしたら今の中国は、未成年が積極的に殺人事件に関与する物語が書きづらくなっているのかもしれない(中国は18歳で成人)。
大学生の林萌は三度の飯より事件が好きという探偵バカの女の子。名探偵のいとこがいるので警察にも顔が利き、大学内外で起きる殺人事件の数々に首を突っ込み、真相を明らかにしたいという思いに動かされて半ば非情に事件を解決していく。幼馴染の陳然、警察官の張翔、ドラ息子の頼沢鋒らに迷惑をかけながら愛憎渦巻く事件の真相に触れていくうちに、彼女は徐々に成長し、そして自身も大きな陰謀に巻き込まれていく。
タイトルの「少女」とは林萌の精神年齢を表しているのかもしれない。彼女は探偵としては一流で正義感に溢れているが、やや幼い部分があり、真実を明らかにするために事件の被害者や関係者に失礼な口を聞き、それを特に何とも思っていない。探偵にありがちな無神経な性格で、他人の気持ちを図れない描写が目立つ。しかしそれも、事件に絡む大人たちの複雑な人間関係や白黒付けられない結末などによって、真相よりも大切な守るべきものがあると悟るようになる。
徐々に相手を思いやれる人物に成長していく一方、彼女が真実とどのように折り合いをつけて、周囲の人物との関係性もどう発展していくのかが気になったが、本書はラストに衝撃の展開を迎えて2巻に続く。ネタバレになるから詳しくは書けないのだが、本書最終話で突然謎の組織が出てきたかと思いきや、林萌をスカウトし、彼女が二度と探偵ができないような罠にはめてしまうのである。
終わり方がまさかの続編商法であり、しかも重要な組織の存在が余りにも唐突に出てくるので、なるほどこの大学でこんなにも殺人事件が起きるのはコイツラのせいだったのかと合点が行くが、その組織の具体的な目的もわからないまま終わるので、あらゆる疑問を残し、読者を置き去りにしたまま終わった感じだ。
普通の大学生の周りで日常的に殺人事件が発生するという非日常的展開を強引に構成するとともに、様々なシチュエーションの犯罪を描き、しかもオチまできちんと用意しているという、1話30~40ページという短編はどれも佳作だ。しかも一人の人間が成長していく経過も書いていて、連続性もあった。
このクオリティを維持したまま2巻が出れば完璧なのだが、林萌の立場が大きく変化するであろう2巻では1巻と同じような探偵的行動は取れないはず。売上等の問題で2巻が出なければ、この1巻に0点の点数をつけても問題ないだろう。