北京大学の物理学博士号を持ち、現在は金融系の中央国有企業に所属するエリートSF小説家が書いたSFミステリー小説。「学姐」とは学校における女性の先輩の呼称だが、日本語だとここまでコンパクトにならないから翻訳が難しい。
人類が地球を捨て宇宙に進出し、恒星間航行が当たり前となった未来、学校に忍び込んでAR(拡張現実)ゲームをしていた田欣は、向日葵という校内では有名な女子生徒からあるゲームの攻略に誘われる。廃棄された惑星オドルの廃校を舞台に使わなければいけない大型ARゲーム「学姐的秘密」(先輩の秘密)とは、当時の高校に雪鷹という女子生徒が転校してから次々起こる殺人事件を解決し、「先輩(雪鷹)の秘密」を明らかにするという内容だ。実際の殺人事件を扱ったこのゲームは、プレイヤーも死ぬことがあるいわくつきのゲームだった。
田欣のほか、向日葵にスカウトされた星億、葉爽、翕然がゲーム攻略の準備をしている最中、事前に惑星オドルに向かった向日葵の消息が途絶える。田欣ら4人は、雪鷹の同級生だった引率教師の黙黙と共に惑星オドルへ行き、「学姐的秘密」をプレイして当時の高校生活を追体験するが、次々と殺人事件の被害者となる。ゲームのNPCがいくらリアルでも田欣らに干渉することはできないため、彼らは自分たちの中に殺人犯がいる、または打ち捨てられたこの星に他に人間がいることを疑う。
ARとは、プレイヤーが見ている現実世界の中にバーチャルの視覚情報を重ねる技術だそうで、本来そこに存在しないはずの人や物などをリアルに感じられるようになる。この「学姐的秘密」はさすが未来のゲームで、当時の学校どころかその周囲の景色を全て再現し、全生徒・教師と自由にコミュニケーションが取れて、プレイ中はリアルとバーチャルの境目を全く感じられない。火事が起きれば熱いと感じ、刺されれば痛みを覚える。また建物内でも、現実で開放されているがゲーム内で閉ざされていれば、そこに入るのは不可能だ。
本作の肝はこのAR技術で、現実とほぼ同様の自由度があるバーチャル世界でありながら、ゲーム特有の制限もあり、ゲームである以上抜け道が存在するという頭を使う設定になっている。
しかし読んでいて設定が複雑すぎて疲れた。未来の世界という設定で、さらに地球とは異なる星が舞台、さらに治安や食糧事情などが現代より悪くなっているという不安要素などを基礎の上でARゲームをやり、しかも本書の合間に各キャラの過去話が挟まれるという、いったいいくつ設定を重ねれば良いんだと文句を言いたくなった。
しかしこの「重ねる」こそ本書の謎を解く最大のヒントになっていて、本書でも触れられている通り、ARに別のARを重ねることで田欣らプレイヤーがコントロールできない空間を生み出し、そこを真犯人が自由に暗躍する。虚構に虚構を重ねるという展開は面白かったが、それにしてももうちょっと設定を整理できなかったのか。