「容疑者の告白」というタイトル、そして帯に中国の有名なミステリー作家・紫金陳オススメという文字があったから読んでみたのだが、not for meな作品だった。作者の苑子文は青春小説や恋愛小説を得意とする作家らしく、本作の大半はネット小説的な恋愛小説でその辺り読み進めるのが辛かったんだが、全体の3分の1程度しかないミステリーパートが意外にも面白かった。
ネット小説家の余洋はアスペルガー症候群(?)の兄・余海と二人暮らし。自分の小説の熱心な読者で、余洋の新作の売り込みに熱心な編集者の程燁と仲良くなるが、彼女の兄・程誠は2人の仲を認めず、余洋の作家生命を断とうとし彼と余海を痛めつける。しかし程誠が別荘で何者かに殺され、その状況が余洋の小説の内容と酷似しており、余洋は警察に自首し、「自分の中にいる別の人格が殺人を犯した」と告白する。物証がほとんど見つからない事件で、程誠に恨みを持つ余洋の自白は信頼性もあったが、刑事の疑惑の視線は別の人物に注がれる。
上の文章をあらすじとして書いたが、このミステリーパートに来た時点で本書はもう3分の2ほど進んでいる。それではそれ以前はどういう内容かと言うと、まず各章ごとに余洋による小説を挿入した作中作のスタイルになっている。ほかは余洋と程燁の出会いや余洋が遭遇した不幸を描いた恋愛・青春パートだ。
幼い頃から兄と二人暮らしで貧乏、編集者の不正の誘いに断って冷や飯を食わされる、子どもの頃にいじめられたなどのエピソードがちょくちょく挟まれ、余洋がいかに不幸でいかに忍耐強いのかを描写するとともに、程燁との日々がどれほど幸せで儚いかを強調する。敵役で登場するのは、支配欲の塊で金や暴力を使って自分の思い通りに事を進める大金持ちの程誠。要するに清貧な青年たちが悪辣な金持ちにいたぶられ、ソイツを排除したことで全てがうまくいってハッピーエンドという話だ。
暴力、イジメ、そしてレイプなどが出てくる本作は、ネット小説っていうか僕らの時代で言う「ケータイ小説」だね、なんてぐらいの感想しか湧かず、本筋のストーリーには全然心打たれなかった。しかし上述したように、ミステリーパートはそこそこ良かった。殺された程誠は、余洋はもちろん妹の程燁からも恨みを持たれており、また裏であくどいことをしているため、容疑者は少なくない。だが、中心人物の一人でありながら、社会から透明な存在にされ、周りの人間からも感情がないと思われていた超安牌な男が事件の鍵を握っていることが分かり、小説への焦点が一気に絞られるという展開になる。
誰からも見えているのに、親しい者からも「個人」として見なされていなかった盲点みたいな人物の犯行は、全ての人間が誰かのために罪を犯す憎しみと優しさを再認識させてくれるものだったが、残念ながらそこに至るまでの本編の恋愛パートが全然ハマれなかった。
あと裏表紙のあらすじに書いてある「全員が容疑者」って言いすぎだろ。「全員」って言うほど登場人物いねぇよ。