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栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
41
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。
副管理人 阿井幸作(あい こうさく)
28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。
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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。
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『七国銀河』 著:宝樹/阿缺
2021/02/05 [Fri] 17:43
現代とは比べ物にならないほどの科学力や軍事力などを持つ秦・楚・斉・燕・趙・魏・韓がそれぞれ恒星系を支配し、銀河の覇を争っているところに一国だけが急成長を遂げた結果、バランスが崩れて大戦争に発展していくという、戦国七雄を扱った歴史SF小説。
2人のSF小説家による560ページに及ぶ大作の本筋は貴種流離譚で、クローン人間のヒロイン、軽口を叩く三枚目キャラの相棒、不思議な術を使う巫女、人間とコミュニケーションが取れる強力なロボットなどツボを抑えたキャラが登場する。
銀河を統一していた周帝国が突然滅亡してから5000年余りの歳月が流れ、秦・楚・斉・燕・趙・魏・韓の列国(星々)が覇を争っていた。魏の人工知能研究院院長の公孫流は、開発中の量子コンピュータターミナルの異常を魏王に伝えに行く道中、正体不明のロボットに殺される。魏王はすでに完成していたそのコンピュータに「鬼谷子」という名前を付け、どのような問題も解決できるというそれに「銀河統一」を願ったところ、モニターに表示されたのは「滅秦」の二文字だった。それから魏と秦の間で激しい戦争が起き、「鬼谷子」が製造する最先端のチップを搭載して比較にならないほど強くなった魏国のロボット軍団は秦国のクローン人間軍団に連勝する。銀河に戦火が広がる中、秦国第9王子でありながら権力もなければ武力も皆無の少年・戈蘭は、銀河の運命を握る人物として戦争の渦中に身を投じる。
未来、というか科学技術が発達した世界だというのにどの星の状況も全然うらやましくない。例えば主人公戈蘭が生まれた秦国は七国の中で最もクローン技術が発達している国で、秦王からしてクローンだ。歴代の秦王は純血を守るために自身の9人のクローンをつくり、そのうち一人を次期国王にさせるという制度を取っている。しかし末っ子(末クローン)の戈蘭は9人兄弟の中で唯一、父や兄らのような屈強な肉体を持って生まれてこず、周囲から期待されていない王子だ。そして秦ではクローン技術を生かした奴隷制が続いていて、いくらでも補充がきき、殺そうが犯そうが誰からも気にされないクローン奴隷によって繁栄が保たれている。
落ちこぼれの王子戈蘭は、唯一の親友だった奴隷の少年が主人に反抗し、その手助けをした罪を問われ、戦場に送られる。しかしその戦場で魏軍に負け、身分を偽って奴隷として捕虜になり、そこからまた逃げ出して今度は奴隷解放ゲリラと共闘する……という冒険を繰り返すうちに、彼は外界で知見を広げながら他国人と交わり、自国の奴隷制に抱いていた疑念をますます固める。
彼は恵体は持っていないが、人間関係は恵まれていて、奴隷の親友は、秦王になって奴隷を解放してくれと彼に言い残して殺され、彼の出兵に同行した老人の宦官は現秦王と昔一緒に旅をしたという経歴を持っていて、臣下に甘く見られている戈蘭に忠誠を誓う部下でもあり、教師として戦場の心得を教えてくれる。このようにして彼は出会った人々の死を乗り越えて成長し、それらの意志を受け継いで徐々に王子としての自覚を持っていく。そして奴隷と一緒に捕虜として囚われたところでようやく死なないパートナーが現れる。
公千陽は性格も経歴も本作のもう一人の主人公としてふさわしい少年だ。「鬼谷子」の開発者公孫流の息子として魏国に仕えているが、指揮系統を支配する「鬼谷子」の命令に逆らい続けた結果、戦争捕虜の管理という仕事に回され、最終的に裏切り者として指名手配されて戈蘭と共に逃げることになる。どんな時も前向きで、ピンチの時にも軽口を叩く彼には、父親が遺した世界を救える「武器」があり、作中で彼自身が愚痴っているように、なぜ銀河の救世主が公千陽ではなく何もできない戈蘭なのかと思ってしまうが、実は戈蘭の血統にはもう一つの秘密があり、これには誰も敵わない。
物語は他に、秦国の奴隷解放ゲリラを率いる少女・星狐、楚国の巫女・羋莎を中心に進むが、この4人の中で羋莎だけが自分や国の未来ばかりか銀河全体の未来を見据えていることで人物たちの成長を促し、物語のスピード感を速めている。流浪の王子としてゲリラに入った戈蘭は第9王子の自分が王になれるわけがないという諦めを持ちながら、星狐ら奴隷仲間との生活を大事にする。奴隷解放を目指す星狐は任務達成のために自身の命を顧みない。国から指名手配を受けている公千陽はそもそも戻る気はない。ゲリラでの生活を享受する3人に対し、羋莎は銀河の救世主である戈蘭に一刻も早く行動してもらいたいという理由で強硬手段に出て、アジトそのものを危険にさらす。使命感に駆られた者の凄みが物語の加速装置になっている。
奴隷制があって人間がバタバタ死ぬなど重たい設定があるものの、全体的にジュブナイル小説であり、読んでいてとても読みやすく、「秦」や「将軍」など歴史的な単語に混ざって「クローン」や「量子コンピュータ」など未来を思わせる用語が次々飛び交うまぜこぜ感が非常に楽しい。しかし確か『三体』でも古代中国の人物にSF用語をバンバン喋らせていた気がするので、こういうギャップを扱うのは中国歴史SFの常套手段なのかもしれない。
以下ネタバレ。
本書最大の不満は、戦争の問題を個人(選ばれし者)の力で解決できるレベルにして、大局的な物語を描いていない点にある。正直、途中までこの物語は、戈蘭の立身出世を描き、彼が七国以外の国を興したり、クーデターで王位を簒奪して王となって銀河を平定していくとても長い史記になると思っていたのだが、「鬼谷子」の正体が分かった辺りで不意に、この本はあくまでシリーズの1作品として完結するという気配が漂ってきた。作者は物語を1冊でまとめるために、広大な銀河の変遷を書くのではなく、一人の少年の成長にスポットを当てることを選んだのだろう。
「鬼谷子」の正体がデータ化された傾国の美女で、5000年前の周王朝滅亡の原因でもあると判明してから、「鬼谷子」を止めれば戦争も終わるという展開になってスケールがぐっと縮まってしまったのはやや興ざめだった。大規模で後始末も大変な惑星間戦争を、個人やごく少数の人間の努力でなんとかしてしまうのはストーリーとして平易すぎる。
「鬼谷子」に入っている女性というのが、過去に周王朝への復讐のために「鬼谷子」の本体であるオーパーツみたいな機械に意識を移して文明ごと滅ぼしたというハイテク怨霊で、人類を滅ぼすという恨みが現在まで消えていないという設定なのだが、彼女の恋人が女性だったというのは詰め込みすぎではないかと思った。
恋愛対象が異性でも同性でもどちらでも良いし、同性愛者を出すのであればストーリーをもう一捻りしろと言うのも差別的だが、それまで作中で異性・同性愛について何も触れていないから、いきなりこういうこと書いても作者がどういう効果を狙っていたのかつかめない。
あと、奴隷解放ゲリラ首領の星狐が後半ほとんど活躍していなかったのも残念だった。秦国の大勢の奴隷と同様、彼女もクローンの一人であり、死ぬたびに新たな星狐がカプセルから目覚めて、文字通り「死んでも」ゲリラ活動を続ける使命を担っているのだが、装置が故障してこれ以上星狐が生まれなくなってしまう。「生き返る」ことが不可能になった彼女は途端に「個」としての自分の弱さに気付き、戈蘭に守られる存在になってしまう。死んでいないとは言え、結局は彼女も主人公を成長させるための装置の一つに成り下がってしまうのだ。
「鬼谷子」という共通の敵がいるとは言え、後半の団結も明らかに急だった。戦争中だった各国がこうも簡単に連帯感を強め、さらに最終的に和平まで結ぶとは。この本、後半になればなるほどこの巻で話を終わらせなければならないプレッシャーからか、展開がどんどん子供向けになっていっている気がする。
だが
「鬼谷子」が魏を管理するという、いわゆる「人間がマザーコンピューターに支配される」というお約束の展開にも裏があり、機械に操られていると思った魏王にもきちんとした考え、というか一個人の恨みがあったと分かり、他人の意志をさらに強い意志で覆すことは可能であるとし、それは5000年前の怨霊が乗り移っている
「鬼谷子」の対処法も示している。
また、戈蘭の父親や長兄など、善人が最後まで善人だったのも物足りなかった。しかし本書はシリーズの1作目であるので、今後シリーズを重ねるうちにやむを得ず敵対関係になったり、もともと野心を抱いていた人物が台頭したり、などの展開を期待して良いかもしれない。
ラスト、新たに王になった戈蘭によって秦の奴隷制は解体されるが、そのやり方もかなり乱暴だった。確かに奴隷制などない方が良いが、悪習とはいえ一応文化と産業になっているものに対して、財力か暴力ちらつかせればやめるだろうと考えるのは歪んでいるし、現実はそんなに簡単ではないはずなのに「正義は勝つ」の精神で「悪」と見なした存在に罰を与える戈蘭は完全に独裁者だ。
本作に2作目があるとして、秦王になった戈蘭がまた冒険に出るという展開は想像しづらい。であれば次は政治編で、戈蘭の王位継承を良しとしない他の兄たちの妨害、全然うまくいかない奴隷解放や闇奴隷市場、本作ではほとんど出てこない斉国の暗躍などが描かれ、より複雑で入り組んだ物語になるのかもしれない。
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