中国北宋末期を舞台にしたミステリー小説。池上遼一風の表紙が目印だ。
政治が腐敗し、犯罪が多発した北宋末期に「青衣奇盗」と呼ばれる盗賊が暗躍していた。名前の通り、青い服を着た盗賊で、3年間で14回も犯行を行い、かつては400人の兵士が捜査に充られたことがあったが、捕まったことは一度もなかった。そして、どのような警備も掻い潜って盗みを働くわりに、盗む代物が指ぬきとか鼎とかそれほど高価な骨董品ではないということが不思議がられていた。そして、青衣奇盗の次なる犯行予告が届き、揚州の庸城に保管されているサイの角製のお箸が狙われていることが分かる。事件解決の命を受けた易者の易厢泉(表紙で白い服の男)と、事件に興味を持った豪農夏家の放蕩息子の夏乾(表紙で青い服の男)は青衣奇盗の対策を練る。
表紙には「3ページ読んだらハマる!」と書いてあるが、中盤までかなり冗長な展開で読んでいて飽きた。何しろ、ターゲットとされているお箸は作中でも言われている通り大した価値がないのだ。一応、サイの角製で、細工が施されていて、長年砂糖水に漬け込んでいたため舐めると甘い味がするという伝説があるが、それでも秘宝珍宝の類とは程遠いそうだ。だから、盗まれるかどうかというのは実際はメンツの問題に過ぎないので、読者にはその危機感がいまいち伝わらない。
更に、易厢泉が立てた対策というのが、そのお箸とそっくりのお箸を何百膳も用意するっていうまさかの物量作戦。それに対する青衣奇盗の行動も、大量のアリを使って甘いお箸を探させるとかだから、まるで児童向けのミステリー小説のようだ。このアリを使ったお箸の判別はすぐにフェイクということが明らかにされ、混乱に乗じるのが真の目的だったことが分かるが、一連の流れは単なる子供だましにしか見えない。
終盤、青衣奇盗が価値のない骨董品ばかり盗む理由が明かされるが、結局お箸は盗まれていないので青衣奇盗の真の目的は達成されない。犯人側に驚くべき狙いがあるのなら、その狙いを途中で主人公らに知らせることで、読者も彼らの奮闘ぶりを楽しみ、いくらかの満足感を得られるだろう。終盤で「犯人には実はこんな目的があったんだけど、未然に防いでいたぜ」と言われたところで、読者は肩透かしを食らうだけだ。
本作はネット小説で、すでに2巻が刊行されている。2巻は童謡の内容に見立てて殺人事件が起きるらしい。出版社から送ってもらったんでとりあえず読もうか。