『天涯双探』のシリーズ2作目。
1作目のレビュー。
1作目を読み終わった時に評価を保留していたが、2作目を読んだ結果、「この本を推理小説というカテゴリに入れて読んではいけない」と再確認した。
宋代末期。豪商の息子夏乾は、雪に囲まれた小さな山村への停留を余儀なくされる。呉村という名前のその村には、5人の兄弟が次々に死んでいく様子を歌った不吉な童謡が伝わっていた。夏乾らにその童謡を歌った孟婆婆が崖から転落して死に、聾者の絹雲もなにかの獣に食い殺されたかのような死体で見つかる。童謡の内容になぞらえたかのような不審な死が続く中、夏乾は死んだはずの絹雲の姿を見かける。夏乾の窮地を救うために村にやってきた易厢泉は村に隠された秘密を暴く。
クックロビンめいた童謡が伝わる村で、その童謡をなぞらえた怪死が次々に起こるという、ミステリー小説としてはコテコテの内容だ。5人兄弟の童謡は明らかにアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を意識して創られており、雪で閉ざされた村という舞台設定もよくあるパターンで、しかも双子まで登場する。典型的なミステリー小説を踏襲しようという作者の気持ちがよく出ている作品のはずなのに、どうも上手くハマれなかった。
その原因は、本作が時代小説を骨子にした推理小説ではなく、推理小説の要素を入れた時代小説であるためであり、作者が見せたい物が、私の求めている物と違うという点にある。
ネタバレになるが、本作には「狼男」と呼ばれる知的障害者が出てくる。この「狼男」をかくまっていたのが彼の妹である絹雲であり、彼女は双子という特徴を利用して、村のほかの人間に気付かれないように、片方が家の中で「狼男」の世話をし、もう片方は村人と交流していた。つまり、絹雲を殺したのは「狼男」であり、夏乾が見た死んだはずの絹雲とは彼女の双子の姉妹だったのである。
この「狼男」の存在によって、物語の重点は殺人犯を推理することから、「狼男」の恐怖から逃れることに移行する。雪で閉ざされ身動きが取れない村に殺人鬼がいることがミステリー小説における恐怖のはずだが、「狼男」という論理も言葉も通用しない存在が村を徘徊しているというホラームービー的展開になってしまうのだ。そして、「狼男」はなんと今まで物語に登場していない(はずの)侠客に殺されるのである。しかもその侠客の正体は不明だ。
前作『青衣奇盗』では、青衣奇盗と呼ばれる盗賊の正体は明かされなかった。また、青衣奇盗が盗みを働く原動力だった野望こそ大きいにせよ、結局達成されないものだから期待外れの展開だった。この作家はおそらく、謎を解いて伏線を回収することよりも、謎を出して風呂敷を広げることが好きなのだろう。それ自体は結構なのだが、本来明かすべき謎を明かさず、終盤に謎をねじ込んでくる姿勢は読者に対して不親切だ。
青衣奇盗もこの侠客も3巻以降に出てくるのかもしれないが、もう買わないだろう。