夏日蛍火 著:謝筠琛
全部読んだけど個人的には合わなかった一冊。
高校教師になった関月青は着任早々韓立洋という男子生徒の飛び降り現場に遭遇する。事件、事故、自殺の可能性が考えられるが学校側は放課後に起きたことであり自身に責任はないと主張し、韓立洋の両親は同じように自殺を否定し学校の監督責任を問い、事件は警察の手に委ねられる。だがその後、韓立洋と仲が良かった張睿斯という女子生徒が密室となった実験室で服毒死しているのをまた関月青が発見する。2人の死は偶然の自殺なのか。いま生徒に何が起こっているのか。
一見すると学園ミステリのジャンルのようだが、探偵役の主人公は教師であり生徒と一緒に推理することもないので単に学校が舞台のミステリとしか言えない。主な謎は生徒の飛び降り死と服毒死であり、2人の死の謎を究明しながら彼らの過去や交友関係が明らかになるが、現代の高校生を取り巻く環境や教育問題など社会問題のようなものも書いている。
前半の飛び降り死を受けて保護者に責任を追求される教師の様子を書いて、いかにも現代中国の社会問題を描写している感じだが結局は理不尽な保護者を書いて終わっている。もし掘り下げたいのなら保護者視点の描写も必要だし、死んだ子どもの親を一方的にヒステリックな敵役にするのはアンフェアだ。
しかも肝心のトリックがよりによって使い古されたアレとは。いや、例え有名な作家が「もう○○を使ったトリックは古い」と言っても誰が何のトリックを書こうか自由である。しかし、物語の途中に解明されるトリックならまだしもラストにこのトリックを持ってこられると「今まで300ページも読んでてコレかよ…」と脱力感しか起こらない。
もう一つ気になるのが会話の多さだ。1人が1行分喋ったらもう1人がまた1行分だけ喋るという繰り返しで、テンポの良い会話といえば聞こえが良いが尺稼ぎにも思える。クソ映画はどうでもいい会話をして尺を延ばすという話を聞いたことがあるが、それは小説にも当てはまるんじゃなかろうか。
しかし、最近新星出版社とは相性が悪い。この前も小米という作者が新星から出した『空中小姐』(キャビンアテンダント)を読んだが、これは半分でギブアップしてしまった。衒学的と言うか、古今東西の名作から台詞や地の文を持ってきて貼っ付けまくったコピーアンドペースト小説という感じだった。超人的な記憶能力と推理力を持つ本屋の店主が事あるごとに各作品の有名をフレーズを口にしたり思ったりするんだが、もう作者に「凄いですね」としか言えない内容だった。ページ末尾に10ページ以上にわたる参考文献一覧が載っていることからどれほどの量を引用したかが分かるだろう。
実は謝筠琛も小米も推理小説家としては新人…だと思う。新星出版社が新人にミステリを書かせて業界に挑戦しているのだと思ったが、その試みは今のところ失敗しているとしか言えない。陸秋槎や時晨のようなトリックに重きを置く作家とは別の、ストーリーが個性的な作家を抱えて新規読者を増やそうとしているのかもしれないが、昔からのミステリ読者にはそっぽを向かれているのが現状ではないだろうか。
しかし、私にとって相性の合わないミステリは新星だけが出しているわけではない。統計を取っていないが感覚的には中国で「ミステリ」とつく国産小説がどんどん増えていっている感じだ。玉石混交の言葉通り、その中には面白いと思えない作品も当然存在する。つまらないと思えるミステリ小説が増えたのは、もしかしたら中国の出版社が「ミステリは売れる」と認識した証拠なのかもしれない。