三体 著:劉慈欣
中国現代SFの金字塔『三体』(初版は2008年)を今更読む。
この本、おそらく2009年か2010年頃に中関村の新華書店でシリーズ2冊目とともに購入し、一回読んだは良いが当時の自分の中国語力ではいまいち理解できずそのまま放ってしまったものです。
『三体』の映画化、そしてアマゾンによるドラマ化の製作という話を聞き、ようやく読み返してみることにしました。
本を開くと、約10年前の自分の中国語力の未熟さを知れる足跡が多々残っており、単語にピンインを書いていたり、日本語訳を書いていたりして、当時はこういう人気作を読むのもかなり苦労していたんだなぁと感じ入りました。
ナノテクノロジー科学者・汪淼は突如横暴な警察官・史強らに呼び出される。連れて行かれた先には中国人の将校の他にアメリカCIAもおり、汪淼は彼らから「科学辺界」という科学者組織に潜入して動向を探るよう頼まれる。彼らが恐れているのは高度な科学力を持つ「三体」という地球外文明だった。
人類と三体の関係は文化大革命にまで遡る。文革によって家族と人生をめちゃくちゃにされた科学者の葉文潔はレーダー技術研究所「紅岸基地」で偶然宇宙人とコンタクトを取り、地球の文明を滅ぼすよう依頼する。そして現在、葉文潔を指導者とする「地球三体反乱軍」が450年後に攻め込んでくる三体を迎えるための準備をしていたのだ。
この物語で嫌でも注目してしまうのは、中国人科学者が文革のせいで人生がめちゃくちゃになって宇宙人に地球侵略を依頼するという人類滅亡のきっかけだろう。しかしそればかり強調するのは間違っていると思うし、この本は文革のみを否定しているのではなく、文革の熱狂のさなか大勢の中国人が同胞を責め、痛ぶり、相互不信に陥らせた人間の愚かさや悲しみを笑っているわけだ。
本書は全3巻で、残りの2巻はまだ読んでいないが、おそらく文革を反省するという展開はないだろう。そもそもこの作品に登場するのは科学者や軍人ばかりで政治家はいないし、反省したところで三体が地球侵略を諦めてくれるわけでもない。
ところで調べてみると、三体の映画は2016年夏には公開予定だったようだが、いつの間にかもう2年も過ぎている。百度百科を見ると、映画会社の方に人事異動があったことで上映が延期しているらしいが、2年ともなると別の原因、文革要素が原因なんじゃないかと勘ぐってしまう。