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プロフィール
HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
40
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      
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著者の檀澗本人からもらった本なのだが、とても評価に困る内容だった。こんなに感想を書きづらい本、送ってこなければよかったのにとさえ思ってしまった。しかしそれは決して本書の内容が評価に値しないレベルだということではなく、作品があまりにも中国国内向けに書かれ、中国人読者を楽しませることに情熱が注がれているため、一人の外国人読者として中国人との温度差を感じてしまい、そのモヤモヤを言語化できなかったからだ。


読後まず感じたのが、今後こういう作品増えてったら自分のような外国人にはきついなぁという不安だ。


 


 





スペイン在住の華人林鼎は仲間の華人と共に何者かにハメられ、殺人事件の容疑者として逮捕されてしまう。自身は証拠不十分で釈放されるが、トランクに恋人の生首が入っていた車の持ち主である友人を救うため、林鼎は独自調査に乗り出す。しかしそれからスペインで中国人をターゲットにしたテロが起こり、彼の娘の林祖児は事件の目撃者としてテロ組織に狙われてしまう。林鼎は事件の真相を究明しながら、家族を守るためにテロ組織と対決することに。車のトランクに死体が入っていたトリック、船上という密室での毒殺事件の謎に挑む林鼎だったが、真相に近づくたびに死体が増え、犯罪の規模がますます大きくなる。そして一連の事件の真相を探ってたどり着いたのは、国を巻き込む恐るべき陰謀だった。





 


ミステリー要素


 


本書はアクション小説であるとともにミステリー小説でもある。というより、出だしは完全にミステリー小説で、警察の検問で自動車のトランクを開けたら生首が入っていたという衝撃的な展開から始まる。それを実現させたトリックはややアンフェアに思えるのだが、その犯行を可能にする状況を書いたことを評価したい。


最初の殺人事件の犯人を追ううちに次々と死者が出て、敵がどんどん強大な存在だと気付き、最終的に一連の殺人事件はテロ組織が企てた計画の一つに過ぎないということが分かった時に本作のスケールのデカさが初めて明確になる。しかしミステリーは結局入り口に過ぎず、メインはやはりテロとの戦いだ。


 


 


死線をくぐり抜けた男


 


主人公の林鼎は謎を解き明かす探偵とテロと戦うコマンドーの二役をこなせる超人。実は彼には人には言えない過去があり、そもそも中国人の彼がなぜスペインで暮らしているかと言うと、国を逃げてきたから。彼はもともと中国の田舎で家族と一緒に平穏に暮らしていたのだが、息子の死を毒殺と勘違いし、怒りに任せて被疑者を殺してしまう。それから蛇頭に頼んでモロッコに密航するも、そこで奴隷以下の扱いを受け、リアルサバイバルゲームのような殺し合いに無理やり参加させられ、そこからも命からがら逃げてスペインまでやって来た。そしてスペインで一財産築いた彼は、中国に残してきた妻子を呼び寄せ、難病の妻を入院させ、娘を現地の国際学校に入学させた。ここまでが本書で語られる彼の過去だ。


 


林鼎は人並み外れた頭脳と戦闘力を持っており、それが本作における難事件の捜査とテロとの戦いを可能にさせているが、正直な所、読み進めるほど林鼎に好感がなくなっていく。確かにコイツは探偵や戦士としては優秀なのだが、父親や夫的にはクズの部類に入るとしか思えなかったからだ。


そもそも、たとえ大切な息子の死に動転していたとは言え、勘違いで人を殺すのは論外だし、警察から逃げるために妻子置いて出て行くのはもってのほかだろう(妻子は林鼎のせいで地元で村八分の目に遭っていた)。国外へ逃げても妻子のことは忘れておらず、2人をスペインに呼ぶのだがここでもトラブルが起きる。林鼎にはスペインに内縁の妻ヨランダがいたのだ。


娘がテロ組織に狙われて行き場がなくなり、やむを得ずヨランダと一緒に暮らしている家に娘を連れて行く林鼎だったが、2人共会うなり「なんだこの女は!?」と敵意を剥き出しにする。ヨランダからすれば林祖児は林鼎が捨てた家族、林祖児からすればヨランダは父親の浮気相手、緊急事態だからと言って仲良くなれるはずがない。しかも娘は自分たちを置いて逃げた林鼎のことをよく思っておらず、家は一気に険悪に。


しかし林鼎はこの家庭不和に対して、喧嘩が起きれば仲裁するものの、根本的な解決を取ろうとしなければ、話し合いとかの場も設けようとせず、自分は連日事件の調査で家を開け、関係改善をほぼ林祖児とヨランダに丸投げする。その後、林祖児とヨランダは度重なる憎悪の果てに和解するのだが、林鼎が直接何かをしたわけではない。


 


林鼎の態度を見ていると、仕事(殺人事件の調査)にかまけて家庭をないがしろにする悪い父親にしか思えない。どうも彼は、経済力があって戦闘力がある強い父親、強い夫であれば、自分は何も言わずとも娘や妻は全てを察して付いてきてくれると思っているフシがある。


 


また、故郷で起こした殺人を「あれは事故だった」と反論しているのだが、読み返しても明確な殺意を持って「息子を毒殺した人物」に暴力を振るっているので、コイツ都合の悪いことには見ないふりするだけだなという確信を強めた。


 


 


スペインを舞台にした『戦狼』


 



強い中国人を描いたアクション映画『戦狼2』(2017年)は、アフリカの某国で地元の人々と共に生活する元人民解放軍兵士(呉京)が、ヨーロッパの軍事会社と地元の反乱軍が起こしたクーデターによりそこに取り残された中国人たちを救うべく反乱軍と戦うという映画だ。この映画で描かれていたのは、強く、理性的で、正義の側に立ち、誰からも愛される中国(人)だった。別にそのこと自体全然悪いことではないのだが、実際に映画を見た自分の感想は、「ノットフォーミー」ならぬ「ノットフォー西側諸国」だった。


 


今では「戦狼外交」という中国の強硬路線を意味する言葉にも使われている「戦狼」が表しているのは「強い中国」だ。


一人の中国人が海外でテロ組織に立ち向かうという本書を読んで『戦狼』を思い出したのは自分だけではなく、レビューサイト豆瓣には「スペイン版『戦狼』だ」という肯定的なコメントがあった。自分も読んでて、途中から林鼎が呉京に思えてきた。


 


本書はミステリー物だけでなく、戦争アクション物としても面白い。本書における反中テロ組織は、国際社会で日に日に存在感を強める中国の影の部分として描かれ、テロの動機も中国人に対する個人的な怨恨が理由だ。


林鼎はテロ組織に立ち向かうべく地元のスペイン警察と協力し、何なら林祖児やその友達のスペイン人や日本人らも参加するのだが、ここで描かれているのは悪と戦う際の中国と世界との連帯感だ。その一方で中国人の強さを強調するのも忘れてはいない。作中、テロ組織が爆破テロを仕掛け、一般人が爆発物を解除しなければならないというシーンがあるのだが、そこで最初に解除役に選ばれたスペイン人は怯えてしまい、代わりに手を挙げるのが観光でスペインに来ていた無名の中国人だ。


 


この本は内容だけでなく思想的にも戦狼的なのではと思えてならない。強い父親夫であれば妻や子どもは付いてくると林鼎が思ってそうなところはもちろん、中国人及び世界はテロに屈しないという強いメッセージ性もそうだ。また映画『戦狼』より一歩進んでいる点は中国人を対象にしたテロを描いているところで、起こりそうな未来を見据えている(少なくともいま欧米を中心に中国人アジア人差別が起きている)。


 


本書の中で日本人は比較的良い役どころを得ている。林祖児の国際学校の同級生で、林祖児と一緒にテロ組織に立ち向かう日本人女子学生が登場する。そもそも本書では特定の外国人を排斥するということはなく、スペイン人も悪いスペイン人(テロ組織)と良いスペイン人(警察や一般人)に分かれている。国際協調が取れた作品であるが、日本人の自分が読んでもそこまで爽快感を覚えなかった。それは作品の内容とは関係なく、景気が良い実際の中国に対する嫉妬や羨望が読書の邪魔をしたからかもしれない。作品のリアリティが現実と近すぎるがゆえに、実際の日本と中国の差を感じてしまい、今後こういう国際的な作品が出続けても、日本はずっと脇役なんだなと暗い気持ちになる。


 


国際社会が舞台という点でもう一つ気になるところが。中国人が中心の物語になるのはいいとして、カッコいいところも全て中国人が持っていくのはもったいない気がした。


終盤にテロ組織のボスが林鼎に中国人を恨んでいる理由を語るのだが、それがスケールとしては世界的なのだが、被害としては個人的なのだ。要するに「このままだとスペインは中国に支配されてしまう!戦おう!」というスローガンはなく、「俺が中国人にひどい目に遭わされたから中国人全員許せねぇ」ぐらいの恨みなのだ。それに対し「そういう悪い中国人が全てではない」ともっともな反論をするのが中国人なのだが、こういうのって中国人ではなく外国人に、特にボスと同じスペイン人に言わせる方が効果あるだろう。この辺りは作者の、「中国は確かに強くなったがまだ味方は少ない」という考えが反映されているのかもしれない。爆発物解除のシーンもそうだが、もうちょっと外国人に花持たせてくれないかと外国人読者として思った


 


総評


 


例えば日本が力を持っていた時代に、日本人作家が書いた日本人を主役にした作品はエンターテイメント小説の一つとして受け入れられたかもしれない。しかし今は中国が力を持っている時代で、日本などかつての先進国は衰退する一方だ。このような現実的な背景があり、強い中国人が世界で大活躍するという小説は読んでいてあまりにもまぶしい。だが、国際環境を考えて描写に配慮しろとか、もっと外国人を活躍させろと中国人の作者に言うのは筋違いだ。そもそも作品というのは国内に受けてなんぼなのだ。だから自分がこの本を読んで、外国人の自分が『戦狼』を見た時と同じような困惑を覚えたのも当然なのだが、今回はその時になかった不安も感じたのは予想外だった。


 


今の中国で、作品の映像化を狙わない小説家は少ないだろう。どのような内容が受けやすいかと考えた末に、「強い中国」を書けば上からも下からも受けるんじゃないかと気付き、より多くの作家が本書のような戦狼的な本を書くようになるかもしれない。本書はミステリーのくくりだが、今後SFなどにもこのブームが訪れる可能性もある。その時国外の出版社はどういう反応をするだろうか。世界が知らないところで「中国強い」本が流行ってるという状況の落差は発生してほしくないのだが、戦狼的な本はいくら中国で売れても世界(特に西側諸国)ではヒットしないと思うので、ますます中国と世界との乖離が生まれやしないかと心配になった。


 


作品は面白かったので、檀澗には今後もスケールのデカい物語を書き続けていってほしい。

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