タイトルは電気グルーヴの『弾けないギターを弾くんだぜ』っぽく、強弱を付けて30遍ぐらい読んで下さい。
ボクは嫌煙家じゃないが、別に愛煙家でもないので中国に来てからタバコで困ったことがない。世の中には『チェリー』しか吸わないなんて言う稀有な奴もいるけど、そんな日本でも買うのが難しいタバコなんて中国じゃ買えるわけがない。『マルボロ』や『ラーク』や『マイルドセブン』あたりは買えないこともないのだが、売っている場所が限られているために愛煙家の日本人留学生は大抵中国のタバコを代用している。
中には一箱100元を超えるタバコもあるけど、一般的には一箱5~10元(100~160円)ぐらいで買えるので、日本よりも嗜好品として手に入りやすい。中国ではタバコは付き合いの道具になっており、初対面の相手にタバコを一本差し出すのが礼儀のようになっている。
中国に来てから、ボクはまずビールが飲めるようになった。中国には酎ハイの類がないので、酒の席でまず初めに飲むものがビールしかないのだ。開始早々アルコール度数60を超えるような白酒をあおるわけにもいかないのでビールを飲むしかないのだけど、それが日本のビールより味が薄く、苦くない。だから飲めるようになった。どうも本末転倒な気もするけど、最近ではその水のようなビールに物足りなさを感じているので、濃くて苦い日本のビールも飲めるかもしれない。
そしてタバコもそれと似た理由で吸えるようになった。これまで口が寂しいときにはお菓子を食べて気を紛らわせていたのだけど、中国では美味いお菓子というのが概して日本製の高いものしかないので(無論日本のよりは安い)、その代用としてタバコでごまかすことになった。
タバコを吸いたくなるときは、小説を書いているときや翻訳しづらい本を読んでいるときだ。部屋は禁煙だから、いったん手を休めて各階に備え付けてある喫煙スペースに行って吸う。小説家とタバコは切り離せない関係ということを頭に置きながら、「ああ、俺はいま過去の偉人と同じように考えてるなぁ」と感慨に酔い痴れて、日に1,2本吸う。正直、美味いとは思わない。
吸うタバコにこだわりはないけど、留学生がよく吸う『中南海』や梅の香料を付けている『紅梅』をよく買っている。数多くあるタバコの中で、おそらく『中南海』が手頃な値段の中で一番美味いタバコだろう。
日本じゃ喫煙家が住みづらい世の中になったと嘆いている愛煙家が多いけど、中国も日本の比ではないけど禁煙化が進んでいる。だが路上喫煙者は減らないし、店の喫煙コーナーはいっぱいだ。特に肉体労働者の喫煙率は高く、多くない給料からタバコ代をいくら捻出してるのかと気になる。
タバコを嗜好品として吸っている人は、一箱1000円になったり完全禁煙になっても生きられると思うが、問題は理由もなくタバコを吸っている人だ。結局はタバコなんて代用品なのだから、本当に求める物がすぐ近くにあるはずだ。それはボクが求めたようなお菓子であったり小説のアイディアであったり、不安を解消する悩み相談員であったり、不良が憧れる大人っぽさであったりするけど、なかなか手の届かないものが多い。そういう面で禁煙問題を考えると、エゴだけどタバコは必要悪であるような気がする。それとも、禁煙すればタバコでごまかしていたものが案外すぐ手に入るのだろうか。
タバコは決して美味くはないが、タバコの味を知らない人は世界中から嫌われている喫煙者よりも楽しみを一つ知らない。