この小説は2005年に本格ミステリベスト10の一位、2006年に直木賞、本格ミステリ大賞を受賞しました。直木賞は東野氏にとってまさに悲願でもあり、六度目のノミネートでようやく掴んだ大賞です。
しかしこの小説が本格ミステリかどうかという点で私は疑問があるわけです。二階堂黎人氏は自身のブログで容疑者Xは叙述トリックですらない非常にアンフェアな推理小説であり、読者に想像させるだけ想像させて推理させないと論じております。つまり、本格推理小説ではないとしているんです。
二階堂氏の意見に対し笠井潔氏は『ミステリマガジン』誌上で、『日付』『登場人物の消失』『顔のない死体』の三点を挙げ、そこから容疑者Xを程度の低い本格ミステリと反論していますが、
私は『顔のない死体』が出て来たときに「これは入れ替えトリック」だなと最初からわかっていましたよ。
大多数の読者がどうしてこんなに簡単なトリックを見落としたのか私には疑問ですが、私は容疑者Xが本格『純愛』ミステリ小説であるという先入観にみんなが騙されたんだと考えています。
本の帯や書評で謳われた『純愛』という流行語にみんな踊らされてしまったんですね。
純愛こそが最大のトリックだったのです。
もしも私が小説を書くのだったらこのような終わり方にはしません。
確かにこれまでの東野圭吾の作品をたどると、彼に本格ミステリの技量を期待することは難しいですがしかし、プロット頼りのミステリはいい加減やめていただきたいです。
本格をパロディにするのは良いですけど、もう少しミステリ的に良質な作品を書いてもらいたいものです。
次回は古典を取り上げようと思います。