雪虫に似た柳の種子『柳絮』が空を舞う頃、ライチを積んだリヤカーが北京にやってくる。
検疫等の問題で日本では食べられない生のライチが中国では食べられる。日本で見る冷凍物のライチは茶色く魚の鱗のような平べったい皮をしているが、生のライチは銅色と緑色の斑になっており、表面には無数のイボがついている。しかしバナナを剥くようにヘタの方から皮を剥ぐとすんなりと半透明の白い果実が顔を出す。
中国では日本と比べものにならないほどの種類の果物を見ることができる。味の面では劣っている果物も多いが(リンゴやイチゴは日本の方が甘い)、珍しい果物が安価で手に入るのが魅力だ。
急に暖かくなり半袖でも外出できるようになった天気の今日もマンションの近くにどっから来たのかわからない果物売りがリヤカーを引いてきた。
ラインナップはイチゴと野球ボール大の瓜、そしてライチ。
いくらだ?と聞いてみる。ライチは一般の果物より値が張るからだ。
「今の時期だとスーパーじゃあ一斤(500グラム)30元だけど、うちは20元だよ。さっきも5斤買っていったお客さんがいてね、ライチはダイエットにもなるし美容にも良いから買ってくといいよ」とセールストークをかますオジサン。
「なんだったらちょっと味見していってよ、美味かったら買って、不味かったら買わなくて良いから」
この言葉にボクはオジサンが好きになった。
味見させて→ダメだ!
なんて拒む果物売りはいないが、向こうから味見しろと声をかける人は少ない。
小ぶりのライチを一つつまむと、指の腹にイボが貼り付く。まだ青い固い皮を破くと指が果汁でひやりと浸みる。味は旬の時期のものより若干酸っぱかったが、それが逆に初物らしい。
オジサン込みで気に入ったんで1,5斤も買ってしまった。
冷蔵庫で冷やして食べるとこれがまた涼しげで、勢い余って冷たい果汁が顔にかかるのも心地が良い。
ピークだと1斤=7元ぐらいまで値段が下がり、一回り大きい品種も登場するのでこれからの季節、リヤカーを覗くのが楽しみだ。