2006年第18回中国科幻銀河賞特別賞を受賞した今作品は大勢の読者に賞賛されています。
ボクにとっては初めて読む中国SF小説。三部構成でまだ二冊も残っている大長編であり、今作はまだ物語の序章に過ぎません。第二部の“黒暗森林”はエライ傑作だと豆瓣でお薦めされました。
1960年代、つまり文化大革命の時代に中国で極秘に行われていた宇宙文明調査が全ての物語の始まりになっています。文革で大学教授の父親を殺された葉文潔は当時まだ10代後半の女性でありながらその学才を見出され、宇宙文明調査センターに派遣されてめきめき頭角を現します。
しかし文革のせいでこれまで何度も裏切りに遭って人生を狂わされた彼女が祖国のために働けるはずもなく、あるとき彼女は上司を騙して無断で宇宙へ向けてメッセージを送ります。そして送信した葉文潔すら予想もしなかった宇宙人《三体文明人》からの返事が来ますが、ここで彼女は岐路に立たされます。
一つは三体文明人からのメッセージを上司に報告しこの世界的出来事から身を引くこと。もう一つは彼女の独断で彼らに地球の居場所を伝えるメッセージを送ること。
葉の意志は決まっています。彼女は今まで自分を裏切り続けたこの世界を見限り、全人類を裏切り、宇宙人側へついて彼らの地球侵略の手助けをするのです。彼女は躊躇うことなく返事を返しました。
しかし葉文潔はあくまでも裏の主人公。小説の中で主人公に据えられているのはナノテクノロジーの専門家汪森と、葉たち三体文明支持グループを追う刑事の大史です。ただ序章と言うことで葉について筆を割かなければいけないのですが、第一部では葉文潔の骨髄から滲み出る恨みが感情的であるがために説得力があります。逆に世界各国の軍隊で構成される地球防衛軍や主人公たちはケツに火がついた窮境でありながら、地球の平和を守るためという単純明快な行動理由のせいで、個人の意志に勝てていません。
だからこそ小説の中で三体文明人という非人間的で冷酷な侵略者の立場を独立した章で書くことで『悪』とし、主人公たちを『正義』の側に置くのですがここでもまだ葉の立場は不安定です。
第一部は三体文明人が450年後確実に地球を侵略しに来ることが判明し、既に彼らのオーバーテクノロジーによって地球の全科学技術が強制的に使用禁止にさせられ、人類側が敗北するところで幕を閉じます。
まるで象と蟻の戦争のような状況下で、今後汪森たち人類サイドは三体文明に反撃を喰らわせられるのか。また小説では、侵略されるまでの450年という時間の流れを書き、舞台を現代から近未来に移行させるのか。そして葉文潔は文革の呪縛から解放されて人類のために行動するのか。二部作への期待が高まります。
今作に興味を持たれた方はこんなレビューじゃ満足できないと思われますのでこちらのサイトも御覧ください。なぜか日本語版ウィキペディアに『三体』についての妙に雑なあらすじが述べられています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E4%BD%93