偶然購入できた二次元狂熱ですが、パッと見た感じでは取り立てて面白そうな箇所はなかった。
表紙の通りの東方特集だし、他は最新ゲームの宣伝である。正直自分はギャルゲーとかには興味がないし、ゲーム自体もう長いことやっていない。
唯一の見所は中国産ギャルゲー『紅楼夢』特集かとページをめくったら、中国人アニメイターのコラムが載っていた。見たところクラナドやカノンなどの京都アニメーションの有名なアニメを手がけた人のようだ。
アニメの舞台裏でも話してくれるのだろうか・・・・・・どれどれ・・・パラリ・・・
春節なら四倍の給料もらいたい
経済危機のせいで俺らに回ってくる仕事が増えてしゃあない。
まったく京アニのクソが・・・
えっと、ちょっと・・・・・・どこの週刊ポストだよ。何だよこの暴露本は。
この『神猫』というアニメーターは人気アニメの下請けを手がける一方で、日本のアニメ制作会社(特に京アニ)に不満を持っている様子。紙面およそ2ページにわたり恨み言を綴っています。ここにその一部分を翻訳して抜き出しましたので御覧下さい。
その一、悲惨な春節出勤
春節の大晦日と元旦ぐらいは休みたい。仕事があるにしても給料の三、四倍の残業手当はもらいたい(それでも金より休日をとるのが普通だが)。
だから普通は春節前に命がけで仕事を減らし、本社とスケジュールの調節をするわけだ。
でも事はそう容易には運ばない。これまで年越しの時に日本で起きたアクシデントに何度打ちのめされたか。業界を牛耳っているような大会社や本社と関係の深い取引先から金をもらっちまったら、受け取らないわけにはいかない。断るって事は死ぬって事だ。
日本は上下関係や身分を特に重んじるだから、お前真面目にやってねぇななんて上司に言われたら最後、絶対マズイことになる。特にアニメ業界でその手の話はアラブの石油よりも速く流れるんだ。だからやらなきゃいけねぇんだよ!
その二、アニメ作りにもハプニングがある
戦争、火事、飛行機事故など天災人災は全部春節出勤にしわ寄せが来る。信じられないなんて言わないで欲しい。仕事を抱えた人間が台湾辺りで事故に飛行機事故に遭い、せっかく完成した動画が全部パァになったり、二日後放映されるアニメの一部分がネットに流出したりすれば全部が水の泡だ。日本の責任者は狂ったように電話をかけて、中国の会社なんかに修正を任せようとするけどそんときゃもお休みだ。フィリピンやラオスはスピードも実力もまだ悪いから、あとは方法なんか選んでられない。
結局通常の何倍もの金を支払って日本の下請け御三家にお願いするわけだ。それが京アニと手塚プロと俺らの会社だ。春節出勤は辛いものがあるけど、金を見ちまったらやらないわけにはいかなくなる。
日本の制作者と責任者が直接中国に来てうちのボスに泣き付いたことがあったっけ。ボスも可哀相にっていう顔をして俺らにも同情を求めたもんだから、当初の予定を蹴って残業するしかないわな。
春節出勤は仕方ないことだけど、だったら特別残業手当とか飲食費とかサービスが欲しいな。それが仕返しになるんだよ。
その三、金融危機ショック
今回の金融危機で奇跡的に影響を受けていないのって日本のエロ産業ぐらいじゃないのかな。漫画やアニメも比較的少なかったみたいだけど。どっかのビッチが、オタクは正常な人間と平行世界を生きているからお互い依存はしているものの影響は受けない、って言ってた気がする。
だが不幸にも俺たち動画業界は災難を避けられなかった。金銭面で首が回らなくなっちまった。小さい会社は潰れたり統合されたりして、失業したアニメ関係者がエロゲ制作に手を出そうと頑張り始めた。
財政状況が芳しくないうちの本社もエロ動画で補填しようとしてたんだけど、その淫謀・・・もとい陰謀はもうご破算だ。いまはフンドシをしっかり締めて、真面目に作画のクオリティを維持してるよ。
本社はもう気でも違ったみたいに下請けを受けまくって、今じゃ食うや食わずの所まで行ってる。だけど動画の輸出もそんなに良いもんじゃない。金融危機のせいで欧米からの外注も減ってってる。
本社が調子に乗っててお高くとまってたときは、人気のない作品なんか受け付けなかったし、めんどくさい制作も断り、安いのも拒否した。今じゃ、仕事をくれれば何でも致します、それも120%の力を出してって感じだ。依頼者の不興を買うのが本当に恐ろしいから、もうすぐに仕事をくれた人を神様扱いするだろうな。
だから、仕事をくれるのは爺さん!やるのは孫!だから俺らに至っては・・・その孫以下だ。日本の本社はコスト削減のために俺たちから搾り取る。そして通常の三倍の仕事をおっ被せて苛酷を強いるんだ。
それでできるアニメの質なんかクソみたいなOVAと変わんないぜ。
その四、京アニから始まる
京アニと言えば涼宮ハルヒの憂鬱やらき☆すたなどのハイクオリティアニメを作り出し、ついには京アニ信者とアンチ京アニの二種類を生み出した。
だが業界の多くは京アニに良いイメージを持っていないのが事実だ。俺個人も京アニは大嫌いである。友人がそこで仕事をしてたことがあるんだが、京アニについてクソとしか言いようがないと言う。
業界人にとって京アニは主婦の群れが作った胡散臭く、何ら思想性も持ち合わせていない二流の制作会社だ。二流って言うのはクオリティのことじゃなく、凡庸な個性がってこと。オリジナルアニメ作る能力がないもん。オリジナルってのは原作をいじって流行ものを取り入れて、視聴者に媚びを売るなんてことじゃないからな。
京アニってのはもともと手塚プロにいた八田陽子って人が近所の主婦と始めた会社で、素人ながらも経験を経てどんどん成長していったわけだ。それで呪いのワンピースっていうアニメで業界内の名声を欲しいままにしたわけで、今では京アニの空きスケジュールを狙ってアニメ制作の調整をする会社があるぐらいだ。
でかくなりすぎた京アニは今はロス請けをしてるよ。(ロス請けっていうのは、例えばAの会社から承ったシリーズ物アニメのいくつかをBの会社に委託し、統一的に制作するってこと。ここではBの会社が京アニということになる)
その五、京アニの弱点
奴らにはオリジナルを作る能力も創作する意欲もないし、監督や演出の能力に制限がかかりすぎている。
ハルヒの孤島症候群はオリジナルじゃないの?とか、らき☆すたで随所に見られる悪ふざけは違うの?とか言うかも知れないけど、残念ですが・・・・・・違います。
ハルヒのアレは『逆転裁判』ってゲームをパロっただけだし、らき☆すたはオタクが好きそうなネタを仕込んでるだけでオリジナルとは言えない。アニメ作りの楽をしようとオタクの趣味に合わせただけだ。
あと作画にも問題がある。京アニは本当に凡庸な方法でしか作画を描いてないから、詳しい人が見れば違和感を覚えると思う。
原作に準拠してクオリティを守ってれば、視聴率もそこそこ取れるから京アニは俺たちの間では原作工場なんて呼ばれている。
京アニの奴らはこれまで一度も『自分で』アニメを作ったことがないんだ。こんなこと言うと京アニ信者から、京アニが作ったアニメは俺たち好みのネタと合ってるし、俺たちは見るのが大好きなんだよ、それがどうした!と反論されるだろうな。確かに京アニの商売における嗅覚はブームに非常に敏感だ。何が流行ってるかわかればすぐに大衆に迎合するアニメを作る。
京アニの作画は確かに綺麗だ。でもこの利益至上主義で胡散臭さに溢れるアニメ業界で、作画ミスをしないなんていうのは、キャラの顔がどんだけ崩れたかがはっきりわかるってぐらいに過ぎない。
ハイクオリティな作画は絵描きの命を削って、彼らの血と時間と引き替えに出来上がった物だ。金融危機のせいで各会社の懐事情が楽観できなくなり始め、リストラや減給、社員の仕事を増やすなんかの方法を取っている。
京アニが新しく作った『ムント』を観たら、俺の話にもちょっとは道理があるってことを理解してくれると思う。(そしてアンチ京アニは飛び跳ねて喜ぶだろうな)京アニ唯一のオリジナルアニメ、ファンは期待をしてるだろうけど、見終わったあとには・・・・・・
その六、スペシャルサービス
本当に最近はそのうち燃え尽きちまうんじゃないかってぐらい忙しい。後書きに代えて、ちょっと女の子から手紙が来るように自己紹介でもしようと思う。
俺は生来の臆病者で貯金もなければ学歴もない亀みたいなもんだ。俳優の葛優(ボク注・中国では有名なスキンヘッドが特徴の喜劇俳優。最近では北海道も舞台となった『非誠勿擾』がヒット)の言葉を借りるなら、イケメンと付き合いたいんなら来るな、財布を探してるんなら会うな、だ。(でも監督や声優のサインが欲しいなら別だけど)
ロリでもお姉様タイプでも、両方イケます。ちなみにメアドは・・・・・・(ボク注・マジで書いてます)
連絡くれたら忙しい時間をやりくりしても絶対会いに行くよ~。
えーと、とりあえず一言
なげぇよっ!!
省略してコレかよ。
でもこういう裏話は読んでて面白いので、つい翻訳にも力が入ってしまうんです。省略+意訳が入って、もしかしたら話者の意とは真逆のことを書いているかもしれません。しかし中国人アニメイターの苦労がそんなに真面目なトーンを使わずに伝えられたと思います。
彼がどの制作会社に勤めているのかわかりませんけど、日本のアニメブームの下には、普通なら誰も働こうとしない春節の時も仕事をする中国人の存在があるってことを知っておくのも無駄なことではないでしょう。
でもこの神猫というアニメーター、愚痴ばかり書いていますがなんかそれほど辛そうじゃありませんね。あくまで春節出勤と京アニへの批判とまではいかない悪口に落ち着いていて、あまり同情心を誘いません。
このぐらいの裏話なら、もっとやれって応援します。日本じゃまず言えないようなことばっかりなので、この手のアニメーター残酷物語はもっと大々的にやって頂きたいです。
この点に関しては中国に言論の自由があるんだ!!