5月11日、日曜日。我が大学でコミケが開かれた。
いや本当なんですよ。中国の大学で同人誌即売会が行われたんですよ。
大学構内で『臨海同人交流会』という煌びやかなアニメ絵つきのポスターを見かけたときはウソかと思いましたが、その直後と言っても良いときに別の大学の日本語ができる中国人の友達からお誘いの電話があり、このポスターが本物だったことに気付いた。
当日は朝から雨だった。僕と友達の日本語ができる中国人『朱さん』のほか、日本のアニメとかが大好きだけど日本語はできない中国人が三人の計五人。ちなみに朱さんはアニメにはてんで興味がないので今日は日中のオタクを交流させる通訳として参加。初対面の人が三人も来るとは思っていなかったし、オタクと言っても話が合うのだろうかと考え込みながらとりあえず会場を物色。
会場と言っても日本のそれと比べたら遙かに小さく、参加しているサークルだって三つ並べた机に同人誌やCDを積んでいるだけ40にも満たない規模だ。だけど雨が降っていると言うのに既に人だかりが出来ているサークルもいくつかあって奇妙な盛り上がりを見せている。
最初に主催者サークルに無料配布のパンフレットをもらっていったいどんなサークルが出てんのか調べていると、後ろで中国人が「ドンファン、ドンファン」うるさい。
発音からすると『东方』だなぁって思いながら、「ドンファンってなに?」って聞いたら「凄い面白いゲームだ、知ってる?」と質問を質問で返される。
でも僕はここ最近のゲームなんか知らないのでわからないと答えたら、僕が答えるのも待ち切れなかったのかさっさとお目当てのサークルのところへ行ってしまった。そして彼らが買ってきたポスターを見て『东方』が何を指しているのかがわかった。
こいつら『東方シリーズ』の大ファンだったんだ!!
ようやく気付いた僕に友達の一人が「僕はこのゲーム全部持ってますよ」と自慢げに話していたが、どうやって手に入れたのかは野暮だから訊かないことにした。(日本人の友人曰く、ソフトに本物はない)
この『东方』という単語は単に『東方』を中国語読みしただけなんだけど、聞き慣れていない言葉についつい『東方神起』とか『東方不敗マスターアジア』とか的外れな単語しか浮かんでこなかった。そして僕はこの日本語と中国語の発音の違いにこれから何度も困らされることになる。
ともかくこの东方騒動で彼らとの距離が縮まった僕は、買い物を一区切りして入った学内の喫茶店で積極的に彼らに話しかけてみると、
「ニコニコは毎日見てます」「アイマス良いよね」「キョン子最高!!」(キョン子とは『涼宮ハルヒの憂鬱』のキャラクター『キョン』の性別を逆転させた同人のキャラ)「好きな声優は?」などとかなり重症な返答が…
僕が中国語で「日本のオタクは釘宮理恵っていう声優が好きですね」って言ったら「啊啊,钉宫病!」って返して来るのは極め付けだと思いました。
画像は戦利品。向こうにある黒い本は中国人が買った『デビルメイクライ』の同人。表紙をよく見ると『○○×△△』と書いてある。
「これ女性向けだ、ヤオイだ・・・・」と嘆きの声が喫茶店に響いたのは言うまでもない。
(中国でも801は有名なジャンルでここに参加していたサークルの半分はそれ系の『おお振り』や『リボーン』『銀魂』を売っていた)
しかし彼ら、日本のニュースに精通している。例えば、つい先日起こった『ファイル共有ソフトShare逮捕事件』を知っていたし、アニメと犯罪の関係について興味を持っておりそれに関する日本人の反応にも興味があるようだった。
僕は自分の拙い中国語と通訳の朱さんを間に介し彼らからの質問に答えていたんだけど、そのようにして日本のことを中国語を使って話すという作業は本当に骨の折れることだった。特に『袁さん』と言う人がかなりの情報通で、オタクに関する事件ならかなり古いものまで知っていて僕を苦しめた。
「ゴンジーシージエン?待てよ、シ―ジエンってのは『事件』だろ、ゴンジーって人の名前だった気がするぞ…そう言えば宮崎駿はゴンジージュンって言われてるなぁ、ってことは・・・・・宮崎勤の事件か!!」とか
「ハンチャン?なんだそれ、人名か、それともアニメの名前か?でもいま暴力事件って言ったよな…それ関係でニュースになったことと言ったら…」という思考を経て『寒蝉(ハンチャン)』が『ひぐらし』だってことに気付いたりで、通訳の朱さんがいなかったら更に疲れることになっただろう。
午後にあるコスプレ大会に備え早めに喫茶店を出ると、何の力が働いたのか空は晴れておりコミケ会場にはコスプレをした参加者の姿が目立っていた。写真のほかに僕より背の低い『ブリーチ』の東仙要や、貧弱なマリオ&ルイージ、妙に力の入ったオンラインゲームのキャラクターのレイヤーとかなかなか良いクオリティだった。
そんな中、やっぱりいたのが『涼宮ハルヒ』のコスプレ。そもそもコスプレ用の服は中関村という電気街で売られているから、日本同様有名アニメの服は簡単に手に入れられるんで別に珍しいものじゃない。でも彼女を発見してそれまで穏やかに笑っていた袁さんの態度が急変した。
「阿井さん阿井さん、アレ見てくださいよ」
「ん?ああ、ハルヒだねぇ。髪長いけどメガネしてるから長門かなぁ?」
「違いますよ、キョン子ですよ。見てくださいポニーテールしてますよ!!」
袁さんは重度のキョン子萌えだった・・・
このあと袁さんはみんなに後押しされて見事そのキョン子ちゃんと写真を撮ることが出来た。
キョン子とその友達の後姿。『カップル死ね』の標語がとても良い。
最後のイベントコスプレ大会は場所が変わって屋内だったが直前になってチケットがないと入場できないことを知り、残念ながらこのようにドアの隙間からしか見ることができなかった。
「阿井さん、あなたは日本人っていうことを利用して入れるんじゃないですか?これを観るためにわざわざ日本から来たんだって言えばなんとかなると思いますよ」
という朱さんだったが、ドアでチケットを確認している女性がアニメなんか興味ねぇよという雰囲気を発散させている普通の大学生っぽかったので、怖くて対峙することができなかった。
なによりその主張は恥ずかしすぎる。日本からはるばる来てゴネるオタクってなんだよ。
ただ、コスプレしている人達の中にもチケットを持っていないグループがいるみたいで、どうするよ?という顔で話し合っているマリオ&ルイージが印象的だった。
何はともあれ新しい友人ができ、中国のオタク文化も知れて有意義な一日だった。
しかし・・・・・・まさか初のコミケデビューが中国でだとは思わなかった・・・・