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HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
40
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

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諸星大二郎という漫画家が好きだ。

 

妖怪ハンターシリーズなど、史実を斬新に独自解釈して描かれる物語も好きだけど、栞と紙魚子シリーズのように歪んだ日常を読者もキャラクターも違和感を覚えながら上手くやっていく雰囲気も好きだ。読んでいるだけで小旅行をした気分にさせてくれるSFものも良い。けっこう悲惨なことを描いているのにあまり残酷に思えないのは、絵が下手なのが理由なんじゃなくて余韻を残さない描き方をしているからだろう。キャラクターに対してあまり思い入れがあるような描き方をしていない。キャラクターが死ぬ理由も生きる理由も読者に感じさせないように描いているのかもしれない。

 

その諸星大二郎の作品に『壁男』がある。氏としては珍しい怪談めいた漫画で、是非読みたいと親に無理を言ってわざわざ中国まで送ってもらった。別に新しい漫画ではなく、映画化されるに当たって文庫本として新刊発行されたのを読んだのだけれど、これが十年前の作品とは思えないぐらい斬新で、見方によっては今現在のホラー界に皮肉を与えていて瞬く間にハマってしまった。

 

そして先日、中国の動画サイトを使って『壁男』の映画を見る気にようやくなったのだけれど、この映画が2007年に撮られたとは思えないほどの出来で呆れてしまった。


この映画、全ロケを札幌で行い、スタッフや役者も北海道に縁のあるものばかりを集めた日本初の『地方映画』らしいのだけれども、それと『壁男』には何の関係もないのでこれが謳い文句になる必要はない。だから道産子以外の人間が観たらもっとつまらないと思っただろう。

 

まず原作の『壁男』がどういう漫画なのかを簡単に紹介しよう。

『壁男』は全三話構成になっている。

 

「俺は壁男だ」という台詞で始まる一話目には、壁に暮らしていて(ポーの黒猫とかデバガメなんかじゃなく、本当に壁にいる)人間たちの生活やテレビをじっと見続けている人間なのかお化けなのか本当に男なのかどうかもよくわからない存在が、仲間に会って自分が壁男という『もの』であると認識する。

二話目では、『壁男』という噂を信じる男が壁男と交流を持とうとする話。

三話目では、壁男になった『女性』の出現と、壁男の存在を知った人間たちがテレビ越しに彼らがどういう目的を持った何者なのか訪ねるという話だ。

 

我々読者に作中では噂に過ぎない壁男の実在を事前に提示してから話を進めるのが原作の内容だった。

 

 

しかし映画版の壁男は何もかもが違った。

小野真弓扮する北海道ローカルニュース番組のリポーター金沢響子が、番組のコーナーに届いた「『壁男』がいる」という手紙をもとにロケ番組を撮る。そのロケ番組は好評を博し、番組には壁男に関する数多くの情報が寄せられるが、壁男など自分たちが作り上げたデマカセなので響子たちは日に日に熱を帯びる壁男現象を尻目に淡々と視聴者から寄せられた情報を流し続ける。だが響子の恋人の仁科が壁男に異様なまでにのめり込んでしまったことにより、彼女の中で壁男という存在が重荷になってくる。そして遂に彼女は視聴者に、仁科に、そしてみんながいると信じている壁男に「壁男はなんなのだ?」と尋ねるに至る。

 

つまり映画版は壁男の存在を信じてしまった人間が壁男と交流を持とうとする原作の二話目から始まり、結局壁男は噂という範囲にとどまり遂に壁から出てこない。

 

原作では『壁男』は都市伝説ではなく(作中では壁男は都市伝説ではなく噂とされている)が実際に存在する様子が我々読者に向けられて描かれているのに、映画版では単なる都市伝説が人々の口から口に広まっていってついに誕生するという普通の都市伝説ものになりさがっている。

 

自分が流した噂が現実になるという作品は多い。中島らもの『こどもの一生』朱川湊人の『フクロウ男』乙一の『はじめ』などだ。だが、実在するものが噂になる物語はあまりないだろう。

 

では、そのような原作の持ち味を殺してまでこの映画は何を訴えたかったかというと、マスコミ社会への批判や風刺なのだ。

 

視聴率のためなら嘘を平然と吐くマスコミや、壁男という実体のない噂に盲目的に熱くなりすぐに放り出す視聴者、そして壁の中から人々の生活を覗き見するという設定の壁男はテレビ越しの安全な場所から他人の不幸やスキャンダルを眺めるのが好きな我々一般人の比喩に過ぎない。

 

正直今さら扱うネタじゃないし、わざわざ壁男でやるものでもない。

 

しかし堺雅人扮する仁科が高層ビルから見下ろした札幌の町並みを「箱庭みたいだな」とつぶやくシーンは、札幌が京都のような碁盤状に造られていることを知っている人間にとってとても印象的に聞こえた。あと立て籠もり犯が警察に取り押さえられたときに「やめれって」と言うシーンも道産子には嬉しい演出だ。

 

それぐらいしか褒めるところがない。

 

 

ホラー映画という観点で見れば、多少気の狂った若者が愉快犯的に罪を犯したり、小野真弓が頭の悪い女リポーターだったり、死体を発見して大声のあげる女がいたり、ホラー映画にありがちな若者像に弱い女と典型的すぎる演出には泣けてくる。

 

また、響子と舌っ足らずに喋っていた少女が急にトーンを下げて壁男なんて死ねばいいと言い放つシーンは理解不能だった。これは少女が壁際に隠してある自分の大切な宝物が壁男に取られないか心配しているということを表しているのだけど、無邪気な子供が残酷な言葉を吐くというギャップで驚かそうとしているあたりが二流だ。

 

ホラーとしてもライトだし、諸星大二郎テイストも存在しない。映画版壁男は散々な出来だった。

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