ラヴウラフト全集や中国の女装文化の本や筒井康隆の『虚人たち』や中国のミステリ雑誌『推理』や中国文学やら何やらを読んでいるともう頭が痛くなっちゃって脳に負担のかからない小説が読みたいと飢えていたら、友人の部屋でこれを見つけたので借りてきました。
ただいまアニメ絶賛放映中の『狼と香辛料』は日本にいたときに既に有名になっていたので、本屋で二三度手に取ったことがあるのですがホロのあからさまな格好と喋り方に商業的な臭いを感じて結局買わなかったんですよ。それが読まず嫌いだったということが中国でわかりました。
ホロの格好と喋り方はこの世界に適当なんですよ。この違和感で更に物語を楽しめるんです。
いや、誤解していました。確かに岩井志麻子の『ぼっけえ、きょうてえ』の方言に文句を言わず、ラノベに文句を言うのはおかしいですね。
舞台はファンタジー的西洋世界ですけど主人公が戦士でも魔法使いでもなく『商人』、テーマが剣でも魔法でもなく『金』。こういう前例の少ないテーマで作品を書くといちいち説明にページを割かなくてはいけないんですが、それをキャラクター同士のテンポの良い会話で済ましていて作者の声が鼻につきません。でもたまに数回読み返さないとわからない経済のカラクリなんかもありましたが、そういう立ち止まり方がまた物語を面白くさせています。
いつの時代のどんな人間にも価値のある『金』を扱っているからこそ主人公ロレンスたちの商売のスリルがひしひしと感じられます。また、裏の裏まである商人同士の駆け引きを描いているあたりに商売は一か八かの博打ではないとし、一般のファンタジー作品に見られる軽いノリを省いています。
そして商売を行う上でのリスクについても作中では言及されていますが、金の駆け引きは命の駆け引きよりも残酷な面があります。命を賭けるだけだったら死んで終わりですけど、商売の失敗は破産を免れても商人としてのプライドや評判を貶されますが、命だけみすぼらしく残されているあたりに全てを奪われるよりもよっぽど残虐な部分があるからです。だからこそ、ロレンスが頭脳を駆使して敵を出し抜き儲けてやろうという商人の狡猾さと勝負強さに息を呑む興奮を覚えるのです。
さて、これから二巻目です。友達が返してくれと言ったら代わりにラヴクラフト全集を渡しておきます。