中国にはチャンスがゴロゴロ転がっている・・・13億もの人口と広大な土地を持つこの国に可能性を見出し、胸に野望を抱いて留学に来ている人も少なくありません。
留学生仲間Wさんもその一人です。
とは言ってもWさんは金を稼ぎに来たわけではありません。学生時代に読んだ本に感銘を受けて、いつかこれを日本語に翻訳して日本で出版したいという夢を持ち、とうとう著者である教授が在籍しているこの大学に来たのです。
そして先日ついに出版決定という運びになったのです。
ここにも野望に燃える男がいたか・・・
みんなが集まる夕飯時に本出版の話になったので、詳しく聞いてみますと限られた部数を自費出版するらしいです。
自費出版ですから費用は全てこっち持ちです。印税は一般出版よりも多く取れるのですが、少数だと例え全て売れても赤字。だから出来るだけ高額な値段にすれば少しでも元が取れるんじゃないだろうか。どうせ学術書なのだから研究者なら買うだろうし、興味がなければ千円でも買わない。
そういう話になったら、出来るだけ儲けようぜと考えるのが酒の席。
帯に有名人の推薦文を書いてもらうのは?
増刷すれば売れるんじゃないですかね。
そういやリアル鬼ごっこって本は自費出版なのにベストセラーになったじゃねぇか。
どさくさに紛れて誰かがとんでもない発言をしやがった。
「いやいやいや、それを真似してはいけませんよ」
リアル鬼ごっこなんて格好いい表紙と期待を含む煽り文、壊滅的な日本語能力と稚拙な表現内容でネットで評判になり、怖い物見たさで爆発的に買われた本だ。(ボクもブックオフで第六刷あたりを100円で買った)
ボクが柄にもなく懸命に説得すると、あちこちから「知らなかった」の声。
驚きを通り越して寒気すら覚えました。
そう言えば以前、こっちに来ている現役日本人大学生たちと喋っていると「リアル鬼ごっこという面白い映画がある」っていう話題になったとき、もうKYと言われようが断固として否定しようとしたら「面白そう」の大連呼に口を閉ざさざるをえなくなったことがあります。
100万冊突破とか映画化とかの謳い文句を先に聞いてしまえば素晴らしい傑作だと考えるのも仕方ありません。しかもリア鬼は漫画化もしていますね。
原作以上の凄まじい出来でしたけど。
しかしボクはリア鬼大ヒットで名を捨てて実を取るスタイルをとった出版業界に絶望しました。話題性があればクオリティは二の次にしても売れるという風潮はどうだろうかと。
自費出版で売れる作品が文芸作品として成立しないものであるというのが、これから自費出版をしようとしている人を前にするとなおさら虚しく感じます。
ボクは大学時代に、今では不在管理人になっている栖鄭 椎と一緒にやってたミス研で、まともなリアル鬼ごっこを書こうという活動をしようとしたことがあります。結局それは叶わず、しかも文庫本になったリアル鬼ごっこで誤字や文法のミスがほとんど訂正されていたという裏切りをされて、余計馬鹿馬鹿しくなりました。
友人の自費出版の話から今更山田悠介の話題になっちゃいました、自費出版でベストセラーを起こすためにはまともな体裁を取ったらダメだという本末転倒な出版業界に呆れた学生時代を思い出してこれを書いた次第です。
で、山田悠介は最近どうなの?まだ書いてるの?
ボクはリア鬼以降も自ら進んで彼の著作を読み続けてきましたが(そのたびに栖鄭 椎から命を粗末にするなと怒られましたが)、山田語(氏の滅茶苦茶な日本語)がなくなった作品からは何の面白味も感じられなかったです。
どうも彼の作品にはホラーなのに盛り上がる場所がなかった。
でもこういう作者でも一度売れればあとはヒットメーカーとして重宝され、読者も増えるという現実が出版業界の勝利、そして文芸業界の敗北を語っていて、本当に寂しくなります。
友人Wさんも、翻訳したは良いけど合ってるかどうか不安だと仰っていましたが、とんでもないミスがあってネットで評判になることだけは避けて欲しいです。
まぁ祭りになるほどメジャーな本じゃないんですけどね。