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プロフィール
HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
41
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      
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 先日レビューした『H.A.虚擬戦争』と同じく第4KAVALAN島田荘司推理小説賞の最終候補作の一つ。アメリカ、ロシア、日本など様々な国籍の人間が混じる宇宙ステーションを舞台にした密室殺人事件の謎を宇宙と地球の二つの場面で追うという星野之宣の漫画のようなミステリだ。




 2010年の宇宙ステーションにてロシア人のイゴールは天使のように光り輝く宇宙人のような何かを目撃する。しかし更に驚くべきことに船内では行方不明になっていたアメリカ人のブライアンの他殺体が見つかり、イゴールは死体とともに地球へ帰ろうとするがその船は爆発し、宇宙人も殺人事件の謎も有耶無耶になる。
 それから7年後の2017年にイゴールの息子ビクターは父親が死の間際に遺した暗号を解明するために当時の搭乗者などの関係者から情報を集めていた。そして翌年の2018年、新たに宇宙ステーションに向かった宇宙船の中には当時の事件の謎も興味を持つカナダのファーストネーションズであり『微笑薬師』のあだ名を持つアハヌが乗っていた。だが船内では8年前の密室事件が再現されてしまう。




 地球ではビクターが足を使った情報集めに励み、宇宙ではアハヌが事件を解決する役割を担う。船内では8年前と同一の事件が発生するものの、現場(宇宙)にいる面々は2010年のときとは異なるので犯人の正体には非常に興味が惹かれ、宇宙といういわば究極の密室を前にした読者は犯人はまさか船内に隠れていたのか?とか宇宙人の仕業か?という期待すら抱いてしまう。


 どうやって殺したのか?が最大の焦点である本作は宇宙開発にはつきものである宇宙競争と国家の陰謀が原因となっていて、そのあたりも含めてだいぶ読みやすい作品なのですが、作品の最大の盛り上がりがトリックが明らかになるところでも犯人が明らかになるところでもなく、事件の背後に陰謀が隠されていたことなのはエンターテインメントとしては申し分ないが本格ミステリとしては力の入れるところが違うかもしれない。



 先日1019日に有人宇宙船『神舟11号』が打ち上げられ、宇宙実験室『天宮2号』とのドッキングに成功したというニュースが流れたが、今作には中国の影が全く見当たらない。登場する国もアメリカ、ロシア、日本、そしてカナダ(作者の提子墨はカナダの華僑である)などで中国も中国人も物語に加わらない。本書が発表された2015年は言うに及ばず中国の宇宙進出は10年以上前から有名であるのに中国を登場させず、アメリカとロシアという典型的な登場人物を中心として物語を進め、ファーストネーションズであり宇宙飛行士ではない単なる富豪の観光客にすぎないカナダ人が探偵役として陰謀を暴くという展開にはカナダ国籍の華僑である作者の中国から一歩引いた冷静な態度が見える。


 これは私の100%の妄想なのだがもし探偵役のアハヌが富豪の中国人だとしたら犯人に対する探偵の言説がアメリカの宇宙進出に対する中国の警告を描き、せっかくの作品に不純物が混じることになるから中国要素を排除したのかと思ってしまった。こんな見当ハズレの邪推は作者にとって迷惑以外の何物でもないだろう。
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 島田荘司推理小説賞常連入選作家・王稼駿による『第4KAVALAN 島田荘司推理小説賞』の入選作。ようするに今回も駄目だったよということだが、4回やって一度も最終候補作に選ばれていないの原因は単なる実力不足なのだろうか。


 


 他人の大脳の中に侵入して、現実と変わらない大脳の中の世界を動き、被験者から情報を得ることができる『阿爾法的世界(アルファの世界)』というバーチャル空間がある近未来(?)で、科学者である童平は連続少年失踪事件の重要参考人・莫多の大脳に潜入する。
 莫多の大脳の中で少年の姿となり犯人に近づきピンチを迎える童平。アルファの世界で致命傷を負うことは現実世界での死を意味するが、実験は正規の手続きを経ずに中断される。命の危険に晒された童平は実験に協力している同僚に疑惑の目を向けるが、その同僚からは童平の妻こそ怪しい点があると言われて揉めている帰り道に人を跳ねる。そして口封じに同僚を殺した彼は同僚の大脳の中に潜入し、ついにアルファの世界の中でも殺人に手を染めることになる





 岡嶋二人の『クラインの壺』のように現実と仮想の境目が徐々にわからなくなってくるという定番の話ではあるが、本作の物語は展開が急で交通事故で人を跳ねたと思ったら今度は同僚を殺し、ついに妻に手をかけたら部屋に全くの新キャラである泥棒が侵入してくるというメチャクチャぶりである。

 王稼駿は腹に一物隠している人間同士の関係を描くことが多いが、ひとつの物語の中に一見全く関係のなさそうな話を挿入してくるのも作風のひとつである。作品によっては小さな話と本筋の繋ぎ方が牽強付会に見えるものもあるが、本作ではその驚かされこそすれ、意味不明な繋げ方という印象は受けなかった。




 さて、『第4KAVALAN 島田荘司推理小説賞』の受賞作品が発表されて、中国大陸では第1回以来となる受賞作品及び入賞作品の出版が決行された。先日レビューした『H.A.虚擬戦争』と同じく最終候補作の『熱層之密室』が百花文芸出版社から出ており、2冊とも後書きには島田荘司によるコメント及び落選の理由が書かれている。
 島田荘司が目を通すのは最終候補3作のみであるので本作が何故落ちたのか、その理由は多分どこにも出ていない。まぁ作者の元には審査員のコメントが届いているのかもしれないが

 ここらへんが明らかになれば中国大陸における本格ミステリ研究が進みそうなのだが

 帯に「『島田荘司推理小説大賞』3回連続入選」って書いているので勘違いしそうになるが本作は入選作品ではない。第4回KAVALAN 島田荘司推理小説大賞に入選したのは『阿爾法的迷宮(アルファの迷宮)』であり、本書はそもそも短編集だ。



 
ゴキブリや蚊など取るに足らない生物から犯罪が露見してしまう犯罪者の絶体絶命の瞬間を描いた表題作の『黒暗中的4虐者』、壊れてしまった家庭であがく少女の絶望を描いた『破砕的家』、出来心で罪を犯した人間たちが交錯する犯罪劇を描いた『π的交集』など犯罪者に堕ちてしまった心の弱い人間が登場する。また王稼駿作品では馴染み深い名探偵の左庶が本書でも度々出てきて、『百密千疏』や『謀殺攻略』などでは犯人側にどんな事情があろうとも容赦なく事件を解決する姿に読者は殺人が必ず裁かれるべき大罪であると思い知ることになるだろう。



 最初の3作を読んでなんか作風変わった?と気になった。上手く言えないが中国の人気サスペンス作家・蔡駿と似たライトサスペンス小説的というか、こういうの書けば読者も喜ぶんじゃない?というニーズに合わせたかのような雰囲気がある。王稼駿の小説が掲載されている雑誌『懸疑世界』の編集長が蔡駿だから作風とかが似通ってしまうのだろうか。


 しかし、後半のラジオ局を舞台にした『午夜101殺人電台』から息を吹き返したように面白くなる。やはり王稼駿の作品は魂胆を持った多人数が各々の予想を超越した行動を取って勝ち誇った犯人を一気に突き落とすストーリー展開が面白い。


 王稼駿は短編より長編の方が実力を発揮する作家だと思う。今手元に『阿爾法的迷宮(アルファの迷宮)』があるので近いうちに読んでみよう。






 第4回KAVALAN・島田荘司推理小説賞の入選作品。作者の薛西斯はこれの他にも2013角川軽小説小説大賞で銅賞を取り既に作家デビューを果たしている模様。



 作者の名前を検索したら『クセルクセス王』の中国語名と同名らしく作者本人の情報がなかなか見つからなかった。もし本作を日本語訳した場合、作家名は『クセルクセス』になるのだろうか。



 人工知能を使用したオンラインファンタジーゲーム『H.A.』は人間とほぼ変わりないNPCとリアルなグラフィック、なんでもできる自由度の高いゲーム性が売りだが現在運営方法を巡り新しくやってきたプロデューサーの朱成璧と以前からのプロデューサーでありこのゲーム開発の中心人物である李詩庄との間で意見の食い違いが起きていた。PvE(Player vs Enemy プレイヤーと敵との戦闘)エリアを抹消してゲーム内全てのエリアをPvP(Player vs Player プレイヤー同士の戦い)にしたいという李詩庄の主張は村や城までの全エリアがプレイヤーの戦場になるという意味であり、現在のゲーム世界を守りたい朱成璧には絶対に受け入れられない提案だった。
 この案が通らなければ会社を辞めるという李詩庄に対し朱成璧はある勝負を持ちかける。それは『H.A.』のPvEエリアでプレイヤーキルをしてみせるという内容だった。朱の『犯人チーム』は通常ならばプレイヤー同士傷付けられないPvEエリアで李のチームを殺し、その方法がバレなければ勝ちとなり、李の『探偵チーム』として自分たちがどうやって殺されたのかを突き止められたら勝ちとなる。
 ファンタジーゲームの世界を舞台にした推理ゲームが始まる。



 仮想空間を舞台にした中国ミステリとなると嫌でも思い出してしまうのが第1回島田荘司推理小説賞大賞作品の『虚擬街頭漂流記』だろう。その作品では仮想空間となった台湾の一部でプレイヤーが何者かに殺され、それに伴い現実でも被害者が出るという仮想と現実が連動していた世界だった。
 だから私は今作が携帯電話やネットからは逃れられない現実を舞台にするのを諦め、仮想空間に陸の孤島や雪山の山荘などを作ってそこでプレイヤー同士が完全犯罪を成し遂げる『バーチャルリアルかまいたちの夜』を展開する作品かと思った。しかし作者のスケールは私の想像を遥かに超えていた。


 本作は現実世界とほぼ同じことができる驚異的な自由度を背景にした現実さながらのファンタジーゲームの世界を舞台にしている。そして各人が魔法使いや妖精、モンスターなどのプレイヤーキャラクターとなり、それぞれの特性や魔法がトリックの要となるわけだが、これは単に事件の舞台がファンタジー世界に移ったというわけではない。
 朱ら『犯人チーム』は本来ならプレイヤーを殺すどころか傷付けるのも困難なPvEエリアの中で殺人を実行するためにいわばバグに近いゲームの盲点を見つけ出さなければならず、一方李ら『探偵チーム』も『H.A.』のシステムや法則を熟知している必要がある。つまりここで描かれる事件とは現実世界でもファンタジー世界でも実現できない、ただ『H.A.』の中でのみ成立する完全犯罪なのである。



 本作では『虚擬街頭漂流記』のように現実と仮想双方で事件が発生して両者が関係し合うということもなければ、岡嶋二人の『クラインの壺』のように両者の境目が徐々になくなるということもない。

 朱も李もゲーム世界では敵味方の関係で現実でもとりわけ仲が良いという間柄ではないが、それでもゲームが終われば一緒に御飯を食べたり、今後の展望などを話す関係であり、ゲーム内の殺し殺される関係は純粋たる勝負に過ぎず現実世界に波及することはない。だが勝負が真剣であるがゆえに登場人物たちの異常性は突出する。朱は一つの犯罪を実現させるために何十回もテストランをする人間であり、つまりリアリティの高いゲームにおいてほぼ実際の人間と等しい存在感を持つキャラクターを何十人も殺してのける冷酷な女性という印象を読者に与え、一般ミステリ小説の殺人犯と立場は変わらない。



 本書の後書きに掲載されているレビューで島田荘司は綾辻行人の『十角館の殺人』と本作を比較して新本格ミステリについて触れているが、未來の科学技術を使用して犯罪があくまでゲーム内でのみ完結している本作は島田荘司の言う21世紀本格推理にふさわしいのだろう。


 第4回KAVALAN・島田荘司推理小説賞の入選作はみな粒ぞろいという話を聞いたが偽りはなかった。では大賞受賞作の『黄』はいったいどれほど面白いのか。本当に楽しみである。


 以降雑記

 本書と同じ入選作である『熱層之密室』は2016年10月末に百花文芸出版社から発売予定であるが大賞作『黄』は現在もまだ発売日未定の状態である。また『黄』は南海出版公司から出る予定であり、一次予選突破作品である王稼駿の『阿爾法的迷宮』が新星出版社から出ているのが非常にチグハグな印象を受ける。

 調べると第1回の大賞及び入選作『虚擬街頭漂流記』、『快逓幸福不是我的工作』、『氷鏡荘殺人事件』は共に当代世界出版社から出ているが、以降の第2回の三作品と第3回の三作品はどれも大陸で出版されていない(?)ようだ。その中でも賞の常連である王稼駿の作品はあちこちの出版社からコンスタントに出ているが、第4回になり入選作がまた大陸でも出るようになったらしい。

 中国語で書いている作品を対象にしている以上、やはり入選作品以上は台湾のみならず大陸でも出版してほしいものである。
 『聊斎志異』ファン必見?のミステリの登場です。中国の清代に活躍した文人・蒲松齢が探偵として怪異を論理的に解決します。




 怪談蒐集家で狐鬼居士の異名を持つ蒲松齢はある日弟子?の厳飛から狐女『紅玉』の伝説を聞かされて二人で広平(河北省邯鄲)へと向かう。同行する役人である王御史と会った彼は怪異とは噂話が高じてなるものだと忠告し以前遭遇した『尸変』事件を語る。そして広平で出会った捕吏の魏槐から県令である李如松まるで祟られたかのような奇妙な死を遂げていたことを告げられ調査を進めると、それは呪いではなく何者かによる他殺であることがわかり、以前この地で起きた凄惨な事件の被害者であり件の『紅玉』の夫である馮挙人が関与していると見る。



 本書は主に『聊斎志異』に収録されている『尸変』と『紅玉』を主軸として一編の長編推理小説に改編されています。この2作品は日本でも有名かもしれませんが簡単に紹介するとこういう話です。
 前者の『尸変』とはある宿に泊まった四人組が女の死体に襲われそのうち三人が死にもう一人は宿から出るも走る死体に追いかけられて寺まで逃げたが、死体は木にしがみついて諦めず朝を迎えてようやく動かなくなったがその死体の指が木の幹にがっちり食い込んでいたという怪異です。
 『紅玉』とは文人の馮相如が紅玉という美しい女性と相思相愛になるも別れて別の女性と結婚するが宋氏という役人に無理やり妻を奪われ父を殺されるという不幸に遭ったばかりか、その後に宋氏殺害の冤罪まで着せられてようやく釈放されたところにあの紅玉が現れて実は自分は狐だと告白され最後は一緒に暮らすというちょっと長めの話です。



 本書で蒲松齢は手始めに『尸変』の事件を怪異ではなく人間が細工した殺人事件であると看破します。彼は怪異に否定的というわけではありませんが、起きた出来事を怪異で終わらせず真相を究明しようとする極めて探偵的な人物として描かれます。超常現象の皮を被った人工的な犯罪が登場する点で本書は京極夏彦の巷説百物語シリーズを思い起こさせます。



 蒲松齢が解決すべき難事件にはいくつもの殺人事件が絡み合い、更には清の時代であるにも関わらず密室殺人やら首なし殺人やら極めて『現代ミステリ』的な難問に直面することになり、きちんと一般的なミステリ小説に着地させている点は評価したいです。また本家の『聊斎志異』ではたかたが数ページしかない『紅玉』をここまで脚色させて膨らませた作者の小説家としての手腕も大したものであります。



 ただ、私にとってこの本は読むのに非常に時間がかかり何度も投げ出したくなりました。それは決して読むに堪えないというものではなく、作者の手の込んだ工夫というべきなのですが、清代を舞台にしているということで文章もまた古めかしく書かれているのです。当然、本家『聊斎志異』の文言と比べれば遥かに読みやすいのですが、要するに日本で言うところの時代小説のような時代考証が多少なりとも施されているので普通の中国ミステリではまず出てこない単語、言い方、表現ばかりで読むのに疲れました。既に本シリーズの2作目、3作目が決まっているようですが、次作以降はどうにか現代語で書いてくれないかなぁと願っています。

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