《歳月・推理4月号》
目次(ページ順)
①彼岸・越人歌 /暗布焼
②凶犯、記者和偵探 /王小妞
③誤入弄堂深処 /蔡棟
④新占星術殺人魔法(下) /御手洗熊猫
⑤青い回転木馬 /エドワード・D・ホック
⑥庄助の夜着 /宮部みゆき
⑦失踪した男 /E・S・ガードナー
① 知人の警官から50数年前にとある小村で起きた少女の死亡事件の調査を頼まれた心理療法士が当事者たちの証言を基に真相を解明する。
依頼者の老婆は亡くなった少女の親友であり、末期ガンに罹っているために自分が死ぬ前に謎の解明を急いだ。彼女のほかにも事件と関係のある村人たちが既に病死しているので、事件の背後に政府の陰謀が潜んでいるのかとミスリードしてしまいかけた。
それと越人歌とはその小村に古くから伝わる民謡で、『升で量って漏斗で飲んで』とは異なり事件の真相とはまったく関係がない。
② 1976年のカナダが舞台でアメリカ人が主役のハードボイルドっぽいミステリ。ブルズビル(原文では公牛比尔)と呼ばれる連続殺人犯を記事にするべくカナダにやってきた女性記者のマリーナ。彼女は調査の途中で警察署元署長やセールスマン、他新聞社の記者と会い彼らに不信感を持つ。果たしてこの中にブルズビルはいるのだろうか。
見方を変えればマリーナも容疑者の一人と読めるので、四人が一堂に会した猜疑に満ちた話し合いは読者をも緊張感溢れるラストに巻き込む。
③ タイトルの『弄堂』とは上海の伝統的な小路、横町という意味。
恋人を奪われた女Aが恨みを晴らしに恋敵の格好に扮して女Bの住む弄堂に向かうが、女Aが見たのは女Bが既に誰かに殺されてたことを書いた公安の貼り紙だった。その一方で弄堂に迷い込んだ男は偶然女Bの家に着き、女Bの死体を発見する。女Aと男は互いに疑心暗鬼になりながら女Bが誰に殺されたのか検証し合う。
女Bが何故殺されたのか、殺人事件の貼り紙があるなら現時点で家の中に女Bの死体があるのは何故なのか、などなど魅力的な謎を散々提示しておきながらどんな伏線もすべて回収できる稚拙な手段をとったオチには感心できません。あと以下の見え透いたリップサービスにも納得できません。
「私が愛読している《歳月・推理》の名誉にかけて誓うから、私は人なんか殺してないって」
「アンタが《推理世界》(歳月・推理の姉妹誌)の名誉にかけて誓おうがダメだ。読んでいるのがA版だろうがB版だろうが(推理世界はA版B版と分かれている)関係ない、アンタが殺したんだろう」
なんだよこの宣伝は(;´Д`)
④ 3月号の続きの解答編。22年前に石岡君が遭遇した奇妙な密室事件を探偵御手洗濁が石岡君の供述だけを頼りに事件を解決する。
鍵と家具とガムテープで閉じられた三重の密室に存在した抜け道、すなわち『ユダの窓』を見破った御手洗濁。島田荘司に敬意を表して、バラバラ死体を使ってオリジナルの『占星術殺人事件』とは異なるトリックを生み出した犯人。どちらのオツムもすでに人間の領域からかけ離れている。
御手洗熊猫の作品に登場する人物はみな独自のミステリに対する美学を持っている。しかし各人いつも演説をぶつので最近食傷気味になってきた。
とりあえず中国人作家のオリジナルミステリだけ紹介。
もともと《歳月・推理》は読み切り作品ばかりを掲載しているので、2ヶ月に分けて本格推理ものを書いている御手洗熊猫がラインナップだけ見ても肩身が狭そうだ。
しかしミステリならばどのジャンルも許容する自由さ(節操のなさ?)を持っているのがこの雑誌なので、③の誤入弄堂深処のような喜劇風ミステリはもっと増えて欲しい。オチを抜かせば4月号で一番吸引力のあった作品だし。