僕は子供の時はよく夢を見ていて、朝に目が覚めるとそれを忘れないように日記をつけるのが日課だった。
しかし年を経るとどんどん夢を見なくなり、たまに見た夢も記録を付ける時間を惜しみ次々忘れていった。
夢日記をつけていると言うことが夢に拍車をかけるのだろう。子供の頃に見た夢はどれも当事者でもわけがわからず荒唐無稽なもので、混乱した面白さと説得力のある奇妙な筋が一本通っていた。夢っていうのは変なもので、たとえ僕が夢の中で兵士になっていようが鳥になっていようが、それを当然のものだと信じて疑問に思わないんだ。
僕は大学生の時、本当に真っ青な『青い』リンゴを食べるという夢を見ましたが、起きたあとリンゴの色が『あか』だったか『あお』だったか全然わからなくなり、冷蔵庫に入っていたリンゴを見て色を確認するまでどっちが本物なのかとにかく不安だったことがある。
そして今日、僕はおそらく今までで初めてだろう不可思議な夢を見た。
僕は明るい陽が差し込む公園で一緒に中国語を学んでいるクラスメイトのドイツ人と二人で、涼宮ハルヒについて話し合ってた。
会話が盛り上がる中、ふと僕はあることに気付き、彼に訊ねた。
なんで君は俺が話している日本語がわかるんだ?と
すると、僕は確かに君の言ってることはわからないよ、でも君の眼を見ていれば君が何を言ってるのかなんて簡単にわかるのさ。と彼は答えた。
場面は急転し、すっかり真っ暗になった公園を一人歩いていた僕は自分より小さな人影を見つけると、持っていた棒で力いっぱいそいつを殴った。
そして目が覚めた。
ここで不思議なのは、そんなに親密ではないドイツ人と話していることでも、その彼が涼宮ハルヒを知っていることでも、最後に変な人をわけもなくブン殴ったことでもない。
夢の中で僕は彼にこう言ったんだ。
你为什么能听懂我说的日语?
(君は何で僕が言ってる日本語がわかるんだ?)
その場の会話が日本語で進められていたのかは思い出せない。こういう風に訊ねたから日本語で会話してたと覚えているだけだし、彼の返事もドイツ語だったか何語だったかはわからない。でも、上記の中国語だけはきちんと口に出して言ったことだけは今も記憶に残っている。
今まで数々の夢を見てきたし、夢の中ではスティーブンセガールやロシアンマフィアとも交流したことがあるが、外国語を意識した夢はこれが初めてだ。
じゃあ寝言はどうなのだろうか。こればかりは確認できない。
昔のルームメイトはマレーシア人の華僑だったので、彼はマレー語の他に英語や広東語、そして中国の標準語である北京語に精通していた。だから彼の寝言はいつも北京語だった。
そして、今のルームメイトである韓国人はもう中国に四年間滞在しているが、寝言は韓国語だ。これを書いている今も彼が何か寝言をついたが、韓国語なので疑問系なのかそれとも普通の会話の一部分なのかもわからない。
だから僕の寝言もルームメイトが聞いてもわからない日本語なんだろう。
しかし、何でもできるはずの夢の中で情況に疑問を持つっていうことは果たして良いことなんだろうか。夢が持つ自由さを制限することになりかねないか。
今度セガールに会った際、『あっセガールはアメリカ人だから英語使わなきゃ、でも畜生僕は英語なんて挨拶程度しかできない』と悩んでしまい何も話せず夢が終わっちゃうだろう。
でもセガールが『いや、オレ大阪弁喋れるぜ』と返事したら、それはもう台本がどっかにあるコント夢だ。だけど僕はセガールの肉声なんて二、三回しか聴いたことがないから、彼の声は全て『大塚明夫』の声で再生されるんだろうなぁ。PR