作者は中国でここ最近流行ってきたネット小説出身だ。社会怪谈惊悚文学典藏之作【社会派ホラー小説傑作品】と銘打ってはいる。確かに伝奇物ではないがかといって社会派でもない。社会怪談=社会派ホラーという翻訳は間違いなのかも。
精神病患者同士に互いの妄想話をずっと語らせ合っていると、お互いに影響し合って彼らの妄想話が変化する。そんな仮説を立てた精神科医が自分の患者9人を使って、自分の仮説を実証しようとしていたら、自分もその妄想話に飲み込まれて……
患者の話の七割は真実だ。しかし自分にとってイヤなこと、思い出したくない記憶は幽霊や化物、超常現象のせいにして現実から逃げ妄想話を作り上げている。
自分に起きた怖かったことがホラーだと規定するならば、患者の妄想話も十分ホラー小説だ。ただしこの作品はホラーが妄想話という前提があり、各短編の終わりに医者が『話のこっからここまで真実であとはウソ』と注意を入れているので、一般的なホラー小説とは言えない。むしろ読者を非常に安心させるホラー小説だと言える。
だけど結局は医者も妄想話を聞いているうちに、自分も取り憑かれてしまって彼らの仲間入りしてしまう。精神病患者と医者って設定に『ドグラ・マグラ』を彷彿せずにはいられない。主人公が医者なので狂ってしまうのは聞き手の医者の方だったが、ベタなオチに安心した。
現実でも患者の話を聞き過ぎて精神科医の方がやられてしまったという話はよく聞く。そうならないために医者はある程度距離を置いて、『医者』という職業に基づいて彼らに接するのだろう。だが、もしその患者たちが医者を狂わせようと悪意を持って診療に来たらどうなるだろう。
現実社会で故意に医者を困らせて頭をおかしくしてしまう患者の話はありそうだがまだ聞いたことはない。だがモンスター○○というものが流行っているこのご時世、近い将来医者を病気にさせることを目的に診察に来る患者が社会問題になるかもしれない。(実際モンスター患者という言葉はあるが、ここでの意味合いが違う。しかも中国で流行ってるかはわからない)