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栖鄭 椎(すてい しい)
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非公開
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1983/06/25
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契約社員
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ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

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久々に中国語ではない書籍のレビュー。


 


色んな縁が重なり、台湾の作家・九把刀の代表作『あの頃、君を追いかけた』を泉京鹿さんと共訳という形で講談社から出し、駆け出しではあるが翻訳家と名乗っていい立場になった。すると他の翻訳家のことが気になる。個性、訳し方、苦労、境遇、稼ぎなどなど、中国語の翻訳家の数が少ないので他言語の翻訳家を参考にすることがほとんどだが、外国語が分からなくてもそれについて書いた日本語のエッセイは分かる。そのような気持ちで書店で偶然手に取った、ドイツ語翻訳家が書いた本書を購入した。


 


著者はこれまでアリーナ・ブロンスキーというドイツ人作家の小説『タタールで一番辛い料理』『僕をスーパーヒーローと呼んでくれ』を翻訳、出版した経歴を持つ元サラリーマンだ。長年会社勤めをしており、すでに基本的なドイツ語能力を持っていたが、本格的にドイツ語と翻訳を勉強し始めたのは早期退職後だという。本書は著者が会社を辞め、翻訳家の道を進み、本書と同じ幻冬舎から上記の本を自費出版した経緯が書かれている。だが、本書を翻訳家のエッセイという括りで入れていいのか迷う。


 


これまでも英語翻訳家の越前敏弥さんや柴田元幸さんらのエッセイを読んだが、翻訳家のタメになったり、読者が感心したりするような翻訳エピソードやコツなどを披露してくれた。本書を読んでみると、確かに翻訳エピソードも書いてくれているのだが、それ以上に気になるのが翻訳家としてではない、著者個人の「我」の強さだ。全5章の本の第1章と2章を使って、翻訳とほとんど関係ない著者の経歴を述べ、本全体のそこかしこで会社や社会や教育などに一言物申す。


 


本半分を使ってやったことは「私はこんなに面倒くさい人間ですよ」という自己紹介だ。そして翻訳のエピソードはどうかと言うと、ドイツ語特有の男性名詞、女性名詞、中性名詞を日本語に訳す難しさ、ドイツ語文章のくどさ、とかを書いていて、ドイツ語を全く知らない自分には新鮮だったが、勉強にはならなかったし、ドイツ語学習者には今更感のある話題だろう。


 


不可解なのが、著者はアリーナ・ブロンスキーの作品を翻訳しているのに、その文章を取り上げて訳し方を読者に教授しないことだ。ドイツ語翻訳の絶好の参考資料だと思うのだがそれをしない。にもかかわらず自分の文章がアリーナ・ブロンスキーに影響を受けていると告白し、「この書き方がアリーナ・ブロンスキーっぽい」と自分でツッコミを入れる。だが、日本では全く無名で著者しか作品を翻訳したことがないドイツ人作家の名前を出されても読者は全然ピンと来ない。


アリーナ・ブロンスキーの特徴に言及する文章を読んでいたら、ふいに『どこでもいっしょ』というゲームの、しょっちゅう外国語を披露し「今のは○○語で☓☓っていう意味よとのたまう外国かぶれの犬キャラ・ピエールを思い出した。


 


他にも著者紹介で「KSGG会員」と書いているが、初めて見る略称からはその実体を全く想像できない。神奈川善意通訳者の会が正式名称のようなのだが、いきなり略称を書いて許されるのはWTOとかNASAぐらいだろう。


 


著者は本書を含め、これまで全て幻冬舎から自費出版で本を出している。退職金を手にし、マンションを購入し、貯金がある人間の道楽として翻訳家の道を選んだ。出版費用は莫大なものになったらしいが、本書ではその金額を明らかにしていない。痒いところに手が届かない内容で、


 


 


中年(?)を過ぎても翻訳家になれるというケース紹介の本として成り立っていたのかもしれないが、エピソードがどれも駆け出しの人間の初歩的な思考によるもので、推敲が全然足りていない。もしかしたら著者が自分を卑下して、自分のレベルではドイツ語翻訳を教える立場にはないと思っているのかもしれないが、もう本を2冊も出しているプロなのだからもっと具体的な翻訳の話を披露して、読者に知識を分け与えてほしかった。


 


今後著者の翻訳した本を読むのかは分からないが陰ながら応援したい。その一方で、道楽で翻訳した本を自費出版している人間には席をどいてもらい、出版社から委託される翻訳力を持っていてもっと若い翻訳家に任せたほうが将来的には良いのでは、とも思ってしまう。著者が自費出版のくびきから解放され、景気のいい話をしてくれる日が来ることを祈るばかりだ。

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