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副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

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山田悠介の名を聞き眉を顰める人は少なくない。

 

2001年に自費出版では異例のベストセラーを叩き出した『リアル鬼ごっこ』を皮切りに、氏はこれまで20冊以上の小説を世に出してきた。にもかかわらず彼はこれまで一度たりとて真っ当な評価を受けておらず、小説業界から黙殺されている。その理由は後述するとして、処女作が100万部を突破し、原作をいくつも映像化した小説家についてどの同業者や批評家も触れていないのは不自然である。

 

出版不況と言われている現代でこれだけ本を売っている山田悠介の作品をそろそろ真面目に評価するときが来たんじゃないだろうか。ここで山田の作品の特徴や作品に見える作者自身の思想などを前後編に分けて解説し、なぜ今の時代に山田作品が受けるのかを考察してみたい。


・山田悠介とは?

 

山田(以下敬称略)は高校を卒業しフリーターとしていくつかアルバイトをこなす傍ら、いつか創作活動で身を立てたいと考えていた。そして幻冬舎から自費出版という形で『リアル鬼ごっこ』という怪作を世に送り出し、おそらく本人も予期しない形で一躍若者を中心層に据えたベストセラー作家となる。

 

 

・山田語とは?

 

山田の初期小説には俗に山田語と言われるおかしな文章が散見しています。

例を出すと

「二人が向かった先は地元で有名なスーパーに足を踏み入れた」

「ランニング状態で足を止めた」

などが処女作リアル鬼ごっこで見られます。上記のような奇妙な日本語がリアル鬼ごっこヒットの一因であり、これがない山田本はつまらない、というような声もあるのですが、しかし今ではもう改善されているようなのでここではこれ以上触れません。

 

 

・山田ワールド

 

山田本の骨子となるのは氏の独特な世界観です。処女作を例に出すまでもなく、作中に描かれる世界は確かに日本なのですが我々が住む日本とはどこか違います。言わば仮想現実です。

 

何故舞台をわざわざ仮想現実にするのか、その理由は至極簡単でSF小説を書く以上仮想現実になるのは仕方がないし、その方が書きやすいからです。西暦3000年と仮定しなければ日本に王様など立てないし(出典リアル鬼ごっこ)、日本は他国と戦争なんかしません(出典パラシュート他)

つまり、

 

「何故こんな奇天烈な事態になっているんだ」という問いに対して

 

「仮想現実だから」という答えを成り立たせるための設定なわけです。反対に『親指さがし』や『あそこの席』のようなホラー小説には現実との差異はあまり見当たりません。

 

 

 

また、氏の独特な世界観は作中の小道具に補強されています。ここで言う小道具とは『リアル鬼ごっこ』では“佐藤探知機ゴーグル”、『スイッチを押すとき』なら“自殺スイッチ”、『親指さがし』なら“親指を隠し合ったらワープする”などの山田ワールドの中核をなす設定です。氏はこれらの設定を深く掘り下げずに使う傾向がありますが、これは作中で矛盾を生じさせないための仕方のない処置なのでしょう。

 

 

     反権力の山田

 

氏の小説に出て来る強者、即ち主人公に敵対する存在は、強大な権力を有し国家そのものであることが多いです(出典リアル鬼ごっこ・ブレーキ・ジェットコースター・パラシュートなど)。そして主人公は持たざる者として権力者から命にかかわる無理難題を押しつけられます。

 

短編ジェットコースターは、普通の遊園地に来ていた主人公が乗っているジェットコースターが突然空中で静止し、乗員全てが宙吊り状態になります。そして唐突に、最後の一人になるまで直らないとアナウンスされ、主人公を含めた乗員たちは落ちろ助けろと罵り合い必死にしがみつきます。

 

実はこれは政府官僚を楽しませる人間競馬で、その様子をモニター画面で見ていた政治家たちは愉悦と興奮の笑みをこぼします。

 

 

氏初の連載小説パラシュートは、国民の生命を顧みない総理大臣がテロリストによって無人島に落とされた主人公の息の根を止めるために秘密部隊所属の殺し屋を送り出します。この総理大臣は自分の保身しか考えていない血も涙もない男で、周りから「総理」「総理」と呼び止められても聞く耳を持ちません。

 

このように山田は弱者と強者支配者と被支配者の構図を使って物語に厚みを持たせようとしています。

 

彼が権力に虐げられながらも立ち向かう弱者を主人公にする理由、それは彼自身の経歴と深く関わっているでしょう。

 

山田は高校を卒業してから定職に就かずバイトで生計を立てておりました。そんな彼が世間に対する不満を募らせ、特に金持ちと権力者層に対するやるせない怒りを溜め込んでいたのは想像に難くありません。そのような歪んだ思いが山田の目を濁らせて、金持ちはみんな悪者で人殺しをやっても罪に問われないほど力を持っていると勘違いさせたのでしょう。

 

 

金持ちというものを勘違いしている作家に私は『カイジ』や『零』の作者福本伸行を思い出さずにはいられませんが、両者の共通点はここでは言及しません。しかし前述の『ジェットコースター』はカイジの鉄骨渡り編と同じく醜い金持ちが登場しており、愚かな成金が描写されています。

 

これを読んだ山田本読者はきっと、金持ちなら人を殺してもいいのかよという疑問に満ちた山田氏の怨嗟の声を聞くことができるでしょう。

 

・奔走する山田

 

 

佐藤翼が走る。

山田悠介も走る。

つられて私たちも走り出す。

もっと速く。

もっともっと。

走れ、走れ、走れ。

走りつづけて、この息苦しい時代の空気を突き抜け、生きつづけろ。

 

 

上は文庫本リアル鬼ごっこの解説を寄せたダ・ヴィンチ編集長横里隆氏の言葉です。

 

山田本の主人公はよく走ります。それは実際に走ることもありますし、事態打開のために比喩的に走り回るということもあります。主人公は常に何者かに追い立てられていて、行動を起こさなければ死んでしまうことになります。

 

命の危険が迫っているときに主人公が考えて行動するということは滅多にありません。何か障害が立ち塞がったとき、何者かに狙われているとき、主人公が取る行動は決まっています。とにかく動くことです。

 

彼らが頭を使って問題を解決することは少ないです。よく考えればモット良い方法が浮かぶかもしれないかもしれません。しかし死を目前に待っている彼らにそんな余裕なんかないんです。

 

考える前に身体を動かせ、それしか道はないんだ。

 それ以外の解決方法が見当たらないんだ。という嘆きの声が山田本には充満しています。

 

 

さて、角川文庫では月ごとに人気作家を編集長にして、本に挟まっている新刊案内チラシでお薦めの角川文庫を紹介するというイベントをやっていたことがありまして、ベストセラー作家山田悠介も登場しています。

その中で氏はお薦めの本に『走れメロス』を挙げ、「自分の書く作品に通じるものが」と推薦文を書いています。『何も考えず、動けばなんとかなる』という氏の創作スタンスの原点が垣間見える文章です。

 


 グダグダと後半に続きます。

 

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無題
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『リアル鬼ごっこ』はハヤカワや東京創元社の翻訳SF読んでる人間からすると、失笑を通り越して「こんなのが世間にSFと認知されたらかなわんな」と眉を顰めるレベルでした。

西暦3000年と看板を掲げてるだけで実際に作中で登場する風俗は20世紀のものだし、途方もなく医学が進歩したはずなのに主人公の父親アッサリ死ぬし。
考えないで動き出したから、こんなんなっちゃたんだろうな、と。
無題
阿井 URL
デビューが自費出版なのが文芸界の不幸の始まりなんですよね。誰かまともな人間の目が通っていれば、僕らもこんな本を読むことがなかったのに・・・


ケータイ小説はもうなりを潜めたのに山田本は相変わらず売れている現状を考えると、もう固定客が付いてしまって安泰なんじゃないでしょうか。

ファン掲示板を見たら、むかし2chにあった矢吹健太郎(パクリ漫画と呼ばれていたブラックキャットの作者)のスレッドを思い出しましたよ。コメント全部が皮肉で出来ているというあのスレを。でも山田のはマジなんですよねぇ・・・

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