いつもの歳月・推理なら物語性のある抽象的な絵を表紙にしていたのに、アガサ・クリスティ特集号の今月に限ってやたらミステリ雑誌らしく、全然歳月・推理らしくない。
掲載陣には林斯諺、Spring、徐俊敏、午曄、御手洗熊猫という人気作家を揃え、そして表題にもある通りアガサ・クリスティを置いており盤石の体制である。
林斯諺は第一回島田荘司小説賞に入選しており、徐俊敏は去年12月に長編推理小説《無尽之休止符》を出している。アガサの作品は名探偵ポアロ初登場の《“西洋の星”盗難事件》だ。
どの作家の作品もレビューのしがいがあるが、やはり今回も御手洗熊猫の作品を取り上げたいと思う。購入したばかりなので彼のしかまだ読んでいないだけだが…
「来れ汝、奈落の、地上の、そして天上のボンボー、街道、四辻の女神よ。光をもたらし、夜にさまよい……
と、島田荘司の傑作《占星術殺人事件》の有名な一説で始まる今作《新占星術殺人事件》は、まさにその名作に登場したトリックを使った模倣殺人事件がテーマだ。
島田荘司の作品を模倣した連続殺人事件という難解な案件を抱えた御手洗濁は旧友の石岡次郎のところに行き、事の経緯を彼に伝える。御手洗が1982年の惑星直列の年に起きた島田荘司研究会殺人事件に言い及んだとき、石岡の顔から血の気が引いた。何故なら彼は事件当日その場にいた生き残りの会員だったからだ。思わぬところで事件の真相を掴んだ御手洗が興奮するのを他所に、石岡は重たい口を開き22年前にアゾート塔で起きた惨劇を語った。
《疾走する死者》の登場人物の名前をつけた島田荘司研究会員たちに石岡が招かれた先は《占星術殺人事件》の設定を模したアゾート塔。本名のため会員にもてはやされる石岡は会員たちも《占星術》で殺害される6姉妹同様の星座に属していることを知る。
しかし惑星直列を迎えた夜アゾート塔は原因不明の火災に見舞われ、石岡は会員の久保とともに脱出を図る。そこで彼らが見たものは、体の各部位を奪われた会員たちの死体だった。死体がある各部屋のドアにはガムテープが貼られて更に家具で入り口を封鎖されており、当然鍵も施錠されている所謂『三重の密室』。
そして命からがら逃げ延びた二人は後ろ向きに歩く鎧甲を目撃する。非現実的な光景は事件と関係があるのか。更にアゾート塔の近くにあり、夜な夜な鳴き声を上げる夜鳴き石も関与しているのだろうか。
大長編《島田流殺人事件》の切っ掛けとなるストーリー。
これを読むまで御手洗濁がいる世界と島田荘司の関連性が今ひとつ理解できていなかったんだけど、やはり濁は御手洗潔のモデルみたいだ。しかし親友である石岡次郎は自分が石岡和己のモデルになっていることは知らなかったようだ。そうとは知らずに石岡は島田荘司の本を読んで「ああボクと御手洗君の名前があるなぁ、いま彼は何やってんだろう」と、22年前は感慨に耽っていたのだろう。
あと御手洗と石岡、そして前作《聖誕夜之詛呪》に出た北条圭吾らは大学では『竹林七狂』と西尾維新が命名したみたいなあだ名で呼ばれていたらしい。あと4人も出す予定があるのだろうか。
今回も前後編なので次号を待たなければ真相はわからない。《占星術殺人事件》を模倣しているものの、トリックまでは似せていないと作中の『読者への挑戦』で断言しているので、ガムテと家具の日用品で構成している『三重の密室』とホラー色の濃い夜鳴き石伝説や後ろ向きの鎧甲がどんな線で結ばれているのか解明が楽しみだ。
御手洗熊猫に関してもう一つ言っておくことが。
去年の暮れから近日発売と言われていた《島田流殺人事件》が昨日3月2日から淘宝で予約を受け付けています。
受け付け開始を知らせる豆瓣
数量が限られており、市場には出ず淘宝上でしか販売しない予定ですので売り切れになる前に予約しないといけません。
しかし淘宝の登録までは簡単なのですが、買い物をするために必須のネット銀行口座を開くのが難しく、現時点でボクはまだ買えていません。踏む手順が多すぎて七面倒くさいです。
日本から購入できるかどうかまったく知りませんが、一応淘宝のページのURLを貼っておきます。
そしてもし《島田流殺人事件》に興味を持たれた方がいたら、アジアミステリリーグに管理人とボクが翻訳したあらすじと登場人物リスト等が掲載されていますので、こちらも是非目を通していただきたく願います。