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プロフィール
HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
40
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      
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 xuanxian.jpg
 
 作者プロフィールのはじめに書かれている『80後小説家』に思わず閉口してしまった。それというのも『80後』、つまり1980年代生まれとは今まで若手作家の代名詞として使われてきたが、2012年の時点で32歳まで当てはまるこのカテゴリをいつまでも『若手』と表現して良いのか、ずっと疑問に思ってきたからだ。

 しかし本書に収録されている12の短編はどれもみな小奇麗にまとまっていて、作者には若さどころか熟練さすら感じさせられた。百度百科で作者『軒弦』を調べると既に100を超す作品を執筆していることがわかり、これでは作品に粗さが見えないのも当然だろう。
 

 『80後』というキャッチコピーは既に中堅作家を代表する言葉となっているかもしれない。
 

 12作品すべての感想を書くのもしんどいので、本書の概要をざっとまとめて、気になった短編のみ取り上げたい。

 
 本短編集に収録されている12作品のいずれにも登場し、主に密室殺人事件などの不可能犯罪を警察に替りあっという間に解決するのが探偵慕容思炫である。

 1話目の『密室中的女屍』と2話目の『潘多拉魔盒』(パンドラの匣)では慕容思炫が住むアパートが舞台になっているので、てっきり12話の事件全てアパートで起こるかと思ったらそんな安楽椅子探偵の理想像のようになることもなかった。
 

 会社、映画館、ホテル、無人島など慕容思炫はあらゆる場所で事件に遭遇し、事件とあればどこへでも足を運ぶ。ただ、ホテルが舞台になっている7話目の『錯位的懐疑』では作中でも言及されている通り、監視カメラを調べたら解決する事件にわざわざ探偵が赴く必要はあるのだろうかと彼の出演を疑問に思う作品もあった。しかし、慕容思炫の推理により監視カメラではカバーできない部屋の内部にまで見通すことができたので、カメラよりも確実に過去を描写できる名探偵の存在価値が顕になった作品でもあった。
 


 
 本書で取り上げなければいけない一番の作品は計200ページ余りで12話もの短編を収録している本書で、30ページ以上を使用している11話目の『《亡霊》的殺戮傀儡』だろう。この作品はこれまでの短編の集大成というか応用問題と言える作品で、殺人犯が殺戮を予告した孤島で慕容思炫らがまんまと手玉に取られる話だ。過去の事件で用いられたトリックの再利用を臭わせるが、実際に犯行に使われたのは双子の入れ替えという極めてベタなトリックであった。

 しかし簡単に予想がつくトリックを捨て駒することで作品に仕掛けられたもうひとつのトリックの気配を見事に消し、短編である利点をも生かした本作は非常に高い完成度を誇る叙述ミステリを作り上げている。
 

 だが一番話題性があるのは8話目の『完美密室』だろう。慕容思炫らが老人から50年前の密室殺人事件の真相を求められるというストーリーには読み進めていくうちに別の意味でハラハラさせられた。


 たった一人の女を閉じ込めるために扉に何重にも鍵をかけ、窓に鉄格子をはめた屋敷から女の気配が急に消えた。不審に思った主が20年ぶりに鍵を開けて中に入ると、女がいた部屋にはバラバラ死体と何かの燃えカスが残っていた。しかし屋敷は20年間誰も出入りしていない完全な密室だったはずである。一体犯人はどうやって女を殺し、屋敷から姿を消したのだろうか。


 
 勘の良い人はこのあらすじで察しが付くだろう。この密室殺人を成立させるトリックは森博嗣の『すべてがFになる』と一緒なのだ。

 『すべてがFになる』は『全部成為F』というタイトルで中国大陸と台湾で出版されている有名作である。SNSサイト豆瓣でもあるレビュアーが「まさか『すべてがFになる』のパクリじゃないだろうな」とコメントを載せているように、読んでいる最中に同じく『まさか』と危惧した読者は少なくないだろう。
 
 パクリか偶然かはさておき、この一致に誰も気付かず刊行にまで無事に至ったのが不思議だ。
 

 100作以上執筆しているのは伊達ではなく収録作品のレベルはいずれも安定している。トリック暴いたら急に体力がなくなったかのように外の風景を眺める探偵を最後に出して物語を終わらせることもせず、物語に対するオチもきっちり用意しているので、シリーズでありながらも飽きが来ない。
 
 探偵慕容思炫が天才すぎるのが気になるものの、短編シリーズを続けていくためには限られたページで事件を解決する万能キャラが存在するのは仕方ないだろう。むしろ短編で惜しげも無く本格推理を披露してくれる作者には頭が下がる思いだ。
 
 玉石混交の中国ミステリで長編のハズレを引くとダメージが一層でかい。だからこそ本書のように小粒ぞろいの短篇集の存在は本当にありがたい。

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