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栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
40
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      
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20169月の北京は中国SFのイベントが集中する月でした。98日は第27回科幻銀河賞授賞式が北京航天大学で執り行われ何夕の『天年』が最優秀長編小説賞が選ばれ、そして99日から12日までは全球華語科幻星雲賞に関するイベントが主に北京市海淀区の各地で開催されました。


今回はその全球華語科幻星雲賞に関するイベントの報告をまずは99日分から行います。




99日は北京師範大学にて『中日科幻小説と影視動画漫談』(日中SF小説と映像作品に関するトークショー)が開かれ、日本側からは藤井太洋とたちはらとうや、中国側からは日本の『SFマガジン』に『鼠年』が訳載された陳楸帆、『文学少女偵探』の作者であり過去2回全球華語科幻星雲賞に入賞している梁清散、そしてSF小説家でもあり日中翻訳者でもある丁丁虫が日中SFトークを展開。


(写真は左から陳楸帆、たちはらとうや、通訳、藤井太洋、梁清散、丁丁虫。スクリーンには中国SFの代表的人物であり北京師範大学出身の呉岩が映っているが当日急に来られなくなり、代役で梁清散が話すことになったらしい。)



トークショーでは主に日本SF業界の現状に興味が集中。その中で、たちはらとうやさんが語った中国SFを日本へ輸入する際の問題点は、中国文学の中でも比較的メジャーなSFならでは起こる問題に思えました。日本の出版社側に中国語のわかる人がほぼいないということは仕方ないとしても、中国SFを知るためには英訳された作品を見なければいけず、更にその作品を日本で発表する段で中日翻訳するのではなく、中日という手順を踏みたがることは日本における中国SFの発展をだいぶ阻害するのではと感じました。この点には陳楸帆も「原作の意味がどれだけ残るかわからない」という作家としての不安を上げていました。



また、藤井太洋さんはトークショーの来場者を見て「年齢層が日本と比べてだいぶ若い」と指摘。当日は各大学のSF小説研究会のメンバーも来場者として参加していましたが、作者も読者も若いというジャンルは成長の余地が十分残っていていいですね。



質疑応答では「日本ではSFとは何を指すのか?」という極めて単純で難しい質問が寄せられ、藤井太洋さんが「その作品を指してこれはSFではない否定してはいけない」真剣に忠告する場面も。




トークショーのあとは『未來全連接』というSFショートショート作品大賞の授賞式が始まりました。


まさか中国にこれほど多くのSF小説研究会があったとは驚きました。





このトークショー兼授賞式は決して大きな規模ではなかったですが、それでも中国SFの長老格である王晋康(写真左から2番目)や董仁威(写真右端)が顔を出しており、やはりこの期間は中国SF界にとって貴重な日々なのだなと感慨深くなりました。




まぁただ個人的に一番ドキドキしたのが私の隣に座っていた男性がSF小説家で『外星人在中国』(宇宙人は中国にいる)というノンフィクション書籍の作者だったということです。「中国にも矢追純一やたま出版の韮澤さんみたいな人っているんだなぁ」と感心しつつ「あなたの本絶対買います!」と約束したのですが、アマゾンでも京東でも見つからなくて困っています。本人に連絡を取るしかないのかな…

 

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久々に中国ミステリ以外の本のレビューをば。

 

本書は2004年に出版され中国科幻銀河賞特別賞を受賞した古代中国を舞台にしたSF小説です。実はこの本にクトゥルフ神話要素があると教えられて期待して読んだわけなのですが、単なる歴史小説として十分楽しめた一冊でした。

 

 


楚の若者韓信が師匠から習った剣術も自身が持つ天賦の才も胸に秘める野心も発揮できず悶々としていたところ神の使者を名乗る黒衣の怪人・滄海客が現れ、十二年後に自分では乗り越えられない局面に遭遇したとききっと私の主を頼ることになるだろうという予告を受ける。それから始皇帝が死に秦国が滅び、項羽の下で働いていた韓信は漢王劉邦の下に移ったがそこでも不遇をかこち、劉邦の下では到底出世できないと絶望していた。だがそこへ十二年前に出会った黒衣の男が現れ、自分の主ならば韓信の今の状況を好転できるがその代わりにお前は天下を支配して主のために働けと契約を迫る。彼との誓いを交わしてから、劉邦に重用されて戦場で功績を上げついには斉王にまで上り詰めた韓信のもとにまたもや滄海客が現れて約束を果たすように迫るが


 

 

私は横山光輝の『項羽と劉邦』も読んだことがなく韓信についても全然知らなかったのですが卓越した能力を持ちながらそれを発揮できる舞台を用意してもらえなかった武将の出世の裏には人智が及ばぬ力が働いていたという設定には感心しましたし、史実通りに不幸な死に方をするのも仕方ないなぁと納得できました。だから劉邦から大将軍に抜擢されてから破竹の勝利を重ねて斉王にまでなるところなんて史実通りなのでしょうが展開はホラー小説そのもので、一体どんな代価を支払わなければならないのかとドキドキさせられました。

 

本書で描かれる中国史は神話の時代から韓信の時代に至るまで神によって統治された歴史で、過去に中国の覇権を握った始皇帝などの歴代の王すらもその神のために働く傀儡であったという絶望的な古代神話です。傑出した人物であるがゆえに神に選ばれた韓信は天意を受けて王の道を歩むことができますが、神の正体と真の目的に気付いてしまったため天意に背くことになります。

 

中国人から本書にはクトゥルフ神話要素があると教えられましたが作中には一度もクトゥルフ神話関係の用語は出てきません。ただ黒衣の死者・滄海客の主が遠い昔に空から降ってきた地球外生命体であり、海を拠点としていて中国神話の龍とも伏羲とも形容しがたい醜い姿をし、善神とは言えない存在であることが述べられていてクトゥルフ神話らしいといえばらしいです。ですが本家の邪神に比べて本書の邪神はだいぶ優しくて精神的な攻撃もしてこないし、クトゥルフ神話にありがちな発狂死という結末は誰も迎えません。作者がクトゥルフ神話を意識して書いたのかわかりませんが、歴史ファンタジーとして読んでも面白かったですし、何より『天意』というタイトルがとっても皮肉的でセンスを感じました。続編の『天命』にも期待できます。

 

本書は香港人SF作家 譚剣が送るSFミステリで、2012年に香港で出版された本の簡体字版です(簡体字版の出版年月日は201411月)。後ろの推薦コメントには島田荘司推理小説賞の第一回受賞者 寵物先生(Mr.ペッツ)と第二回受賞者 陳浩基が寄稿しています。

譚剣と言えば『人形軟件』シリーズが有名で特に一作目の出来には私も感動させられました。 

 未来形小説 人形軟件 著:譚剣

 


孤島で光子ゲート転送の実験をする科学チームを率いる張学然は物体の転送、動物実験を経て最後である人体実験の段階に来ていた。その実験体になることを志願した売れない小説家の陳志偉が機械に入り最終実験が始まる。何も問題なく成功すると思われた実験だったが結果は失敗し、転送された陳志偉は首と体が分離された死体となった。張学然は古い知り合いである名探偵・巫真とその助手の林菁菁を島に呼び、この失敗が単なる事故なのかそれとも誰かに仕組まれた事件なのかの調査を頼む。事件の可能性が色濃くなる中、孤島では日本刀による密室殺人事件が発生し実験は更に暗礁に乗り上げる。


 

 

本作で出てくる光子ゲートとは例えば『ハイペリオン』にも登場した星から星へ物質やら人間やらを一瞬で移動させることが物質転送装置のことです。

 

本当なら生きた状態のまま転移先に送られるはずだった被験体の陳志偉が首と胴体が真っ二つになって「出現」したものだから、リーダーの張学然は実験妨害と見て旧友であり有名な探偵巫真に捜査を依頼します。しかし、ただの探偵の巫真に専門的な科学知識などあるはずありません。ですが張学然は彼にそんなこと知らなくても捜査はできると言い光子ゲートについて詳しい説明はしません。この辺りはちゃんとミステリ畑の読者を対象にしていて、本書にはSF小説によくある長々とした技術の説明もありませんし、もちろん読者に専門的なSF知識は必要としません。

 

犯人の目星もつかないし動機もわからない、システムも誰かに侵入されたかどうかすらわからない中で推理は徐々に光子ゲートの存在を認めるという話になります。光子ゲート自体は完成していて物質転送ができるのですが、じゃあ光子を利用したゲートがあれば転送以外に何ができるのだろうと考えて、名探偵巫真はSF小説さながら、しかし極めて現実的な推理を披露します。結局SF小説的展開はなかったのですが、作者の譚剣にはそれを否定して物語をミステリ小説に寄せるのではなく、その結果を受け入れたSF小説を書いて欲しかったです。

突飛な推理が披露された時には「アレ?これバカミスじゃない?と興味を引きつけられましたが、ミステリとしてはともかく物語として非常によくできたオチになってしまった結果、この本にSFミステリとしての魅力がなくなってしまいました。

 

あと、本書には被害者の陳志偉の他にその妻の陳子慧、第二の被害者の陳好道、そして警察官の陳永仁という4名の『陳』さんが登場するのですが特に意味はなさそうなので何故読者が間違えやすい命名をしたのかが気になります。

SF、サスペンス、武侠、ホラー、ミステリなど各ジャンルを網羅する複合的雑誌『超好看』が去年2014年に主催した第1『這篇小説超好看』(この小説が超面白い)の新人賞を受賞したのが本作である。

 

http://www.motie.com/huodong/chaohaokan

選考委員に何故か日本人の今村友紀氏がいる。しかも授賞式では対談まで行ったらしい。

 

作者林戈声はSFや武侠小説、サスペンスまで何でもこなすまさに『超好看』にふさわしい作家である。本作のタイトルが水滸伝から取られていることからもわかるように、本書は作家自身の専門知識を複合的に組み合わさった逸品である。

 

だが私には本書の魅力というか面白さというものが理解できず、ちょっと今回は紹介するかどうか迷った。

 

本書には2人の主人公がいる。新人刑事の趙銭孫と大学院生の柳公子である。趙銭孫側を表の世界とするならば、柳公子側は裏の世界であるが、2人がいったいどのような関係性にあるのか、そして2人の物語がどのように結びつくのかという謎は一向にわからず、読んでいて始終不安感に付きまとわれた。何故なら趙銭孫がいるのは確かに現実世界であるが、柳公子は外界から隔絶されたお廟で、本名や性別すらも分からない人間と不思議な空間を命がけで探検しているからだ。

注目すべきは本作の舞台が2030年の近未来に設定されているにも関わらず、未来的要素が全く見えないことだ。だが、西暦3000年の日本を舞台にした『リアル鬼ごっこ』ではあるまいし、何も考えなしに年代を未来に設定するわけがない。その期待は中盤辺りから叶い、物語には徐々にSF要素が顕著になっていく。更に柳公子がいる世界のおかしさも目立ち始めて、話が現実離れするほどに表と裏の世界の繋がりが明らかになるという構造には唸らされる。

世界観が掴めてからの中盤から、2つの世界がまさに表裏一体だったのだと明らかになる終盤までの流れは見事ではあるが、序盤の冗長な展開には全く辟易させられた。どうもこの作家は推理小説のメソッドには疎いんじゃないだろうか。

 

物語の冒頭で紹介される柳公子が迷い込んだお廟が外界と隔絶されていて、内部の人間としか連絡できない微信(ウィーチャット。中国のLINE)を使って顔の見えない他の生存者と情報をやりとりするという手段にクローズドサークルもの新たな可能性を感じたのだが、実はそれは全くの誤解で、やはり本作はミステリではなかったのではないかと思う。


はじめからSFとして読んでいれば、いったいこの本の何が面白いところなのだろうと悩みながら読み進めることもなかったんじゃないかと後悔している。

深夜将至,別喫罐頭 著:不帯剣

 

タイトルを直訳すると「夜更けに缶詰を食べるな」になるだろうか。たかが缶詰とは言え開ける際には封を解く高揚感とそこにできた空間を覗きこむ期待感が伴うが、この開けるという行為が今まで目に触れられなかったものを外に出すことだと思えば、その中身を見るという行為には「深淵を覗く者は…」という有名な一節が頭をよぎることだろう。

 

本書は16のショートショートで構成されており、裏表紙に『都市伝説』と書かれているように、まるで洒落怖(死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?)の中でも質の良い作品が収録されているようだった。

 

しかし、ほとんど表紙に惹かれて買っただけなので、作者が台湾人だとは中身を読むまで気が付かなかった。

道理で「マーガリン」に「人工バター」という注釈が付いていたり、建物面積を表す「坪」という単位にも注釈が付いていたりと、本筋とは関係のないものに注釈が付けられていたわけだ。確かに「マーガリン」を北京で見たことはないな。

 

本書の中で特に面白かった作品をいくつか紹介する。

 

 

『飢餓』は食べ物が消えた世界で奔走するタクシー運転手の話。飢えに耐えかね怪しい男から高額で古びた缶詰を買うと警察が家にやってきて捕まり、そこで彼は食事が法律で禁止されたという事実を知る。拷問を受けても彼の飢えは収まらず、釈放されて飢えと痛みでフラフラになった彼の目に映ったのは車に轢かれたばかりの犬の死体だった。

 

食事が何故犯罪になったのか、他の人間はどうやって生きているのか、古びた缶詰があるということは昔は食事が許されていたのか、それとも麻薬と同じ扱われ方なのか、などなど一切の掘り下げも説明もなく、ただこの現実を受け止めよとばかりに理不尽に展開する。

 

 

『生魚片』(刺身)は都市伝説的な話からきっちりとホラー小説に昇華させているが、それが逆に本作を凡作にさせてしまった。

旅行先の居酒屋で旨い刺身をおかわりすると店長に本当まだ食べるのかと聞かれる。不思議に思い厨房を覗くと、店長が自身の腹を切って肉片をお皿に載せているところだった。驚いて店を出た男の体に後日異変が起きる…

 

平山夢明の『東京伝説』にこんな話あったなぁと思い出しながら読んだ。

 

 

『租屋』(借家)は借りた部屋に次々と怪異が起きるという王道パターンを踏襲しているが後半から粘液質の化物が出て、最後は都市伝説的な終わり方で締める。家自体が化物で家と一体化するという話は小林泰三の『肉食屋敷』にも似ている。

 

 

『狗』は飼い犬の視点で展開する話で、そのあまりの人間的な独白に人間の魂が入った犬が主人公なのかと思わせられたが最後でまさかの正体が判明する叙述ホラー(こんな言葉あるのだろうか)。

 

 

表紙には『軽恐怖』(ライトホラー)と書いているけど、各作品にはどれもしっかりしたオチが用意されているので読み応えはある。中国ホラーとしてはちょっと洗練されすぎているのがやや不満なところではあるが…


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