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プロフィール
HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
40
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。      
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4つの短編からなっている本書に通底しているテーマは表題どおり『愛情』。そして、明らかになる事実の終わらない転倒だ。

 2011040167355601.jpg

 

1         考試計画

2         復讐計画

3         鴦歌

4         我的愛情与死亡

 
 

1話目の《考試計画》のテーマは親子愛。

 

受験戦争の最前線で奮闘する中学生の主人公は近頃成績が急落し、このままでは希望通りの進路を進めないと教師からは詰られ母親からは叱られます。追い詰められた主人公は昔は仲が良く現在は目の上のタンコブであるライバルの同級生を殺せば順位が繰り上がって自分が一位になれると考え、完全犯罪の計画を練ります。作戦当日、母親に悟られないようアリバイを作りいざライバルの自宅に乗り込みますが、事件は単純な倒叙物では終わりません。なんとライバルは既に殺されていました。

もしや犯人は自分の母親なんじゃないかと主人公は疑い始めますが、母親は母親で息子が殺人を犯したと誤解し彼の罪を被ろうとします。

 

学生らしい稚気と試験のプレッシャーから生まれた本気の殺意が混ざった殺人事件は真犯人の手により一筋縄にはいかなくなり、一つ一つの幼稚な事象の積み重ねが完全犯罪めいた事件へと変貌します。

殺す側と殺される側の共同作業的な悪趣味な面白みを感じる短編です。

 

以降の3作は『呉雨浄』という女性を中心に据えたシリーズです。ただし時系列は収録とは逆順になっています。

 


2話の《復讐計画》では物語のキーパーソン『呉雨浄』が既に他界しており、その彼氏が恋人の敵討ちをする復讐譚です。

 

これまた完全犯罪を企む主人公。無事実行できて復讐を果たせましたが警察サイドの発表が主人公サイドと食い違いを見せます。しかし実際に手を下したのは主人公で間違いはないので、どこにイレギュラーの入る余地があったのかと悩むのはすべてを知る読者だけです。

物語の表舞台には決して現れず善意の協力者として殺人を手助けする真犯人の愛情が主人公に向けられた同情か、それとも亡き呉雨浄に捧げた祈祷かは読者の判断に委ねられます。

 

3話の《鴦歌》で書かれる物語は復讐計画の発端となった事件です。ここでは何故呉雨浄が殺されなくてはいけなかったのか、そして誰に殺されたのか等の事件の動機や真相が明かされます。しかしその真実の声は読者のみに向けられる告白です。

大学構内で発生した呉雨浄死亡事件は学内で起きてしまったがために、そして彼女が持っていた『とある性癖』が災いして殺人事件とは処理し難くなります。彼女の性癖こそがこの話と4話目の《我的愛情与死亡》に関連するメインテーマなのですが、それがために証人は嘘を吐き、刑事は解明することを諦め、大学側は事件の揉み消しを謀ります。

 

その結果、2の復讐殺人の種が植え付けられることになります。愛情という歯車が推理小説を舞台にすると、いかに噛み合わなくなるのかを短編に綺麗にまとめられています。

 

最終話の《我的愛情与死亡》は呉雨浄といういち少女がシリーズの柱となりえるカルマを描いた探偵小説です。

高校生の主人公はあることから同じ学校の呉雨浄と仲良くなり、彼女に振り回されながらも彼女を愛し始めます。

しかし以前高校で起きた飛び降り自殺と呉雨浄の関係に疑惑を持った主人公は自らが探偵になり調査を進めます。そして証拠を揃えた主人公は彼女と恋人同士ではなく探偵と犯人という構図で相対しますが、その一方で呉雨浄に心底惹かれてしまっている自分に対し非情な決断を取らざるを得なくなります。

 

《鴦歌》で中核となっていた呉雨浄の『とある性癖』すらも、実は真実を覆い隠す偽りの姿でした。このような、作品と作品を股にかけた《事実の否定の連続》のコンボは、読者を楽しませようとするこの本のスタイルを最後まで崩しません。

  

台湾人推理小説家の妥協のなさを思い知らされた一冊です。

 

さて、実はこの本はとっくの昔の2006年に台湾で出版されています。しかも収録されている作品は1990年代が初出です。

既晴 日本語wikihttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A2%E6%99%B4



大陸向けに簡体字訳されただけの小説を、新作だ新作だと喜んだのはなにも今回が初めてではありません。

 

台湾発の傑作ミステリばかり読むと、愛読書である《歳月・推理》が読めなくなるので自重したくなります。改めて台湾と本土のレベルの違いに嘆息するばかりです。

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