別人家的校服/漫友文化
中国を含む世界各国の実在する制服のイラストや制服をテーマにした漫画などを載せた画集です。出版元の漫友文化は以前にも『料理美男図鑑』、『理科美男図鑑』、『文科美男図鑑』と言った料理や学校の教科を擬人化した画集を出していましたが、今回はちゃんとモデルがあります。
料理美男図鑑 料理擬人化画集
理科美男図鑑及び文科美男図鑑 漫友文化編(黒龍江美術出版社)
見どころはやはり中国の学校の制服が載っている点ですね。中国の学生は一般的にジャージを着用しているのですが、本書に紹介されるように一部の学校では『制服』が指定されています。上海や広州には制服指定の学校が多いとは聞いていましたが、まさか北京にも制服の学校(しかも女子校)があったとは思いませんでした。
(北京・華夏女中)
中国以外には台湾・香港、韓国、イギリス、ベトナムなどの制服が紹介されており、日本からは大阪市立梅南中学校、東海大付属相模高等学校・中等部、岡山県岡山市就実高校、千葉萌楊高校の制服が掲載されていますが、これらの学校はどんな基準があって選ばれたのでしょうか。
(広州・広雅中学)
(岡山県岡山市就実高校)
こう比較するとスカート丈が中国と日本でだいぶ違うのに気付かされます。
本書には他に学校が開催した『制服デザイングランプリ』に自身が考えたデザイン案を投稿する女の子を描いた漫画や、実際のモデルを起用し青春を感じさせる高校生活の1シーンを写した写真などが掲載されていてけっこう読み応えがあります。漫友文化には擬人化シリーズよりも実在する文化をもっとイラスト化して欲しいですね。
時差党とは国外で生活しているため時差の問題があり母国の友人と交流する機会が得難い人々を指す中国語で、国外留学をしている学生を意味する場合もあります。(ちなみに日本と中国の時差は1時間しかありません。時差を感じる経験はあまりありません。)
本書で言う時差党は後者の意味合いです。あと、『党』とは言っていますが別に彼らが海外で徒党を組んで何か活動をしているというわけではありません。
この本はSNSサイト『豆瓣』で多くの中国人留学生の知人を持つ作者曽良君が各人の留学生活の思い出などを書いて投稿してもらい、それをインタビュー形式にしてまとめたものです。
帯には『留学生のリアルな成長を書いた10篇のストーリー』と書いてあり、アメリカ、ヨーロッパそして日本を含む海外各国で苦学する若者たちも苦労話や成功譚、そして留学希望者に向けたアドバイスが書かれています。
確かに『リアル』と銘打っているだけあって、友達だと思っていた他の留学生に騙されたり、下宿先の華僑に部屋を追い出されたりなどの留学苦労話はなかなか面白いのですが、それでも素人の海外体験記に過ぎません。海外生活で頼りになるのが人間関係ならば、自分を苦しめるのも人間関係である、程度の感想しか抱けず、ネットニュースならともかくお金を出してまで読むものではないなと思いました。
ちなみに作者の曽良君というペンネームは『ギャグマンガ日和』の奥の細道シリーズに登場するキャラクター『曽良』から取ったのだと思います。おそらくこの作者(女性)はオタクでしょう。
以前紹介した『料理美男図鑑』と同様の美男図鑑シリーズの第2、3弾です。『料理美男図鑑』は小籠包、寿司、おでんなどを美男子に擬人化させたイラスト集でしたが、今回のは若干趣向が異なっていて、数学教師や生物学者、エンジニアや弁護士などと言った各教科や分野に従事する美男子を描いたイメージキャラクターイラスト集になっています。
各キャラクターは彼らが所属するジャンルと関連性のあるダジャレのような名前になっています。例えばパイロットなら『斐翔』(飛翔)、数学教師なら魏季分(微積分)、企業家なら董士長(董事長)、配達員なら『宋惑』(送貨)などと言った具合に、各自の名前の発音が彼らの職業と関係のある単語と同じです。
探偵の夏羅刻(シャーロック・ホームズの中国語表記である夏洛克から)
検察官の鄭義(正義)
生物医学研究職員の柯隆(クローンを意味する克隆と同じ発音)
その他にエンリコ・フェルミやガリレオ・ガリレイ、アダム・スミスやマルコポーロなどといった歴史上の人物を美男子化させていますが、何故ここに孔子や諸葛亮孔明がいないのかがわかりません。あと中国独特の授業である中共党史のイメキャラとかも見たかったのですが、やはり中国関連のネタは弄りづらいのでしょうか。
(マルコポーロ)
続刊に『体育美男図鑑』の出版が予定されていますがこれは各スポーツをイメージするキャラクターのイラスト集になるのでしょう。キャラの名前とスポーツをどのように組み合わせるのか、作家たちの命名センスに期待しています。
叫魂 1768年中国妖術大恐慌
Soulstealers:
The Chinese Sorcery Scare of 1768
著:孔飛力/訳:陳兼 劉昶
上海ブックフェアで購入した一冊。著者名が漢字だが著者は中国名を持っているアメリカ人であり、本書ももともとは英語で書かれた本である。また原書は1990年に既に出版されており初めて中国語訳が出たのは1999年のことだ。本書は2014年に改めて出た中国語版である。(ただ、旧訳本とどこが違うのかはわからない)
購入した当初はてっきりジェヴォーダンの怪物のように中国で実際にあった怪事件を元にしたホラー小説かと思っていたのだが中身は大量の文献を参考にした論文だった。
内容こそは面白いのだが気分が乗れず半分程度で挫折してしまった。
1768年、清国は乾隆帝の時代に多数の『妖術師』が捕まった。だがこれは迷信を信じる単なる無知無教養から成る事件ではなく、当時の中国社会が招いた集団ヒステリーだった。何故民間人ばかりか政府までも『叫魂』という妖術に踊らされてしまったのか。筆者孔は当時の時代、文化、環境、経済などの各種背景から1768年にヒステリーがピークになった
原因を探る。
『叫魂』という言葉には死にかけている人の魂を喚び戻す民間信仰の意味合いがあるがここで述べられているそれは英訳でソウルスティールといい、目標の髪の毛や衣服、または名前さえあれば他人の魂を奪い使役することができるという妖術である。
だが200年以上前の中国とは言えこんな妖術が実在するはずはない。ないというのに『叫魂』の被害者や捕まえられた他称『妖術師』が次々と現れるのである。
『妖術師』の疑惑をかけられた者のほとんどは托鉢坊主か物乞いであり、皆が妖術とは無関係であったが、住所が不明、髪がない(清朝時代は辮髪だったが坊主は剃髪していた)、変わった物を所持している等の理由で冤罪をかけられたのだった。
社会不安により民衆の間に部外者に対する恐怖感と差別、自分たちと異なる外見の者への不信感がこの時代に醸造されたわけだが、この不安が『叫魂』恐慌という形となって現れた時に当時の乾隆帝を含めた清国全体が泡を食ったというのは面白い。
読んでいると坊主たちが冤罪で捕まる過程が魔女狩りめいていて可哀想になる。
行李に剃り落とした自分の辮髪を入れていたら、『叫魂』のために誰かの髪の毛を切ったのだろうと言われボコボコに、賢い子供に名前を尋ねたら「名前を知ってどうするつもりだコノヤロウ」と詰め寄られボコボコに、「そういえばさっき誰もいないのに誰かに呼び止められる不思議な感じに襲われた」という『自称霊感少女』のような子供の証言が信じられてボコボコに、お守り持っていたら妖術で使うんだろうとボコボコに…などなど一度疑われた坊主たちはその場にいた民衆に必ずボコボコにされる。
そして役人による尋問が待っているのだが、こんな事件に駆り出される役人なんて下っ端もいいところだから金でなかったことにしてやると賄賂を持ちかけられる。しかし坊主や物乞いが金なんか持っていないから払えるわけがない。そして最後に拷問が待っており、両足の腱が切断されてようやく解放される。
迷信に基づく集団ヒステリーの発生から終息までのメカニズムが豊富な出典とともに載っているので、今度気が向いたら後半部分も読んでみようと思う。
・トンデモ本のローカル化
ネットでその存在を知ってからずっと読みたかった本が日本から届いた。原田実氏の『江戸しぐさの正体-教育をむしばむ偽りの伝統』である。
江戸っ子たちの行動哲学とも言われ現代では教育現場にも取り入れられている『江戸しぐさ』がそもそも一人の老人の与太話だと喝破したのが本書である。
私はこの本をネットで見かけるまで『江戸しぐさ』など聞いたこともなく、またそれがどれだけ胡散臭い代物なのかも知らなかったが、要するに史料が現存していないことを口実にありもしない江戸時代の礼儀作法を広めている運動だと知ってふと思った。『江戸しぐさ』関連の書籍を中国で売ったらそこそこ売れるんじゃないか、と。
中国には日本でニセ科学やニセ健康本(以下、トンデモ本と統一する)というレッテルを貼られた本が翻訳されて正式に売られているのである。
例えばトンデモ本としては酷く有名で本書『江戸しぐさの正体』でも取り上げられている江本勝氏の著書『水からの伝言』は『水知道答案』という名前で、また牛乳有害論を展開した新谷弘実氏の著書『病気にならない生き方』は『不生病的活法』の名前で今でもアマゾンに売られている。そしてレビュー数が多く、また評価も高いのである。
(まぁ中国のアマゾンは「配達が早かったので星5つ」とか「本の紙質が悪かったので星1つ」とか、ひいては「配達人の態度が悪かったから星1つ」とか全く内容に言及していないレビューが多いのであまり信用できないが……)
もちろん日本と同様に本の内容に反対する意見はあるし、既に日本の評判を知っている読者や識者はこれらを『偽科学』と否定した。
(ちなみに『ニセ科学』は中国でも『偽科学』の名称で通じる)
しかし『水からの伝言』のように普通なら見えない『心』が科学の形を借りて見られるという事象は中国人も好きなようで、2011年広州のとある小学校ではご飯に綺麗な言葉と汚い言葉を浴びせて腐敗の経過を観察するいわゆる『ご飯実験』も行われたらしい。
2011年11月5日 広州日報(中国語)
(どうでもいいけど江本勝氏とその共鳴者が琵琶湖を清浄化させたという実験について日本語より中国語のHPが多く引っかかるのは何故なんだろう)