叫魂 1768年中国妖術大恐慌
Soulstealers:
The Chinese Sorcery Scare of 1768
著:孔飛力/訳:陳兼 劉昶
上海ブックフェアで購入した一冊。著者名が漢字だが著者は中国名を持っているアメリカ人であり、本書ももともとは英語で書かれた本である。また原書は1990年に既に出版されており初めて中国語訳が出たのは1999年のことだ。本書は2014年に改めて出た中国語版である。(ただ、旧訳本とどこが違うのかはわからない)
購入した当初はてっきりジェヴォーダンの怪物のように中国で実際にあった怪事件を元にしたホラー小説かと思っていたのだが中身は大量の文献を参考にした論文だった。
内容こそは面白いのだが気分が乗れず半分程度で挫折してしまった。
1768年、清国は乾隆帝の時代に多数の『妖術師』が捕まった。だがこれは迷信を信じる単なる無知無教養から成る事件ではなく、当時の中国社会が招いた集団ヒステリーだった。何故民間人ばかりか政府までも『叫魂』という妖術に踊らされてしまったのか。筆者孔は当時の時代、文化、環境、経済などの各種背景から1768年にヒステリーがピークになった
原因を探る。
『叫魂』という言葉には死にかけている人の魂を喚び戻す民間信仰の意味合いがあるがここで述べられているそれは英訳でソウルスティールといい、目標の髪の毛や衣服、または名前さえあれば他人の魂を奪い使役することができるという妖術である。
だが200年以上前の中国とは言えこんな妖術が実在するはずはない。ないというのに『叫魂』の被害者や捕まえられた他称『妖術師』が次々と現れるのである。
『妖術師』の疑惑をかけられた者のほとんどは托鉢坊主か物乞いであり、皆が妖術とは無関係であったが、住所が不明、髪がない(清朝時代は辮髪だったが坊主は剃髪していた)、変わった物を所持している等の理由で冤罪をかけられたのだった。
社会不安により民衆の間に部外者に対する恐怖感と差別、自分たちと異なる外見の者への不信感がこの時代に醸造されたわけだが、この不安が『叫魂』恐慌という形となって現れた時に当時の乾隆帝を含めた清国全体が泡を食ったというのは面白い。
読んでいると坊主たちが冤罪で捕まる過程が魔女狩りめいていて可哀想になる。
行李に剃り落とした自分の辮髪を入れていたら、『叫魂』のために誰かの髪の毛を切ったのだろうと言われボコボコに、賢い子供に名前を尋ねたら「名前を知ってどうするつもりだコノヤロウ」と詰め寄られボコボコに、「そういえばさっき誰もいないのに誰かに呼び止められる不思議な感じに襲われた」という『自称霊感少女』のような子供の証言が信じられてボコボコに、お守り持っていたら妖術で使うんだろうとボコボコに…などなど一度疑われた坊主たちはその場にいた民衆に必ずボコボコにされる。
そして役人による尋問が待っているのだが、こんな事件に駆り出される役人なんて下っ端もいいところだから金でなかったことにしてやると賄賂を持ちかけられる。しかし坊主や物乞いが金なんか持っていないから払えるわけがない。そして最後に拷問が待っており、両足の腱が切断されてようやく解放される。
迷信に基づく集団ヒステリーの発生から終息までのメカニズムが豊富な出典とともに載っているので、今度気が向いたら後半部分も読んでみようと思う。