8月13日から19日まで開催された上海書展(上海ブックフェア)で8月16日(土)に日本から招かれた島田荘司・麻耶雄嵩両先生によるサイン会が新星出版社と上海新華伝媒の共催で行われました。
19時スタートにも関わらず、18時過ぎに会場の外には既に長蛇の列が出来ておりました。上海ブックフェアは同時刻に他の作家のサイン会も行われるし、特に案内もないのでこのぐらいの長さになると果たしてこれが両先生のサイン会の列なのかわかりません。
私も、列の中に麻耶雄嵩の『鴉』を持っている女の子を見つけていなければ並ぶのを躊躇っていたでしょう。
19時過ぎにようやく建物の中に入れましたが、その頃には両先生のトークは終わっており早速サイン会がスタートしました。
最初このサイン会のシステムがよくわからず戸惑ったのですが、壁際に並ぶ列とは別にもう一つ短い列がありました。
部屋の周りを並んでいる人たちはサインを書いてもらう本を現場で購入するために並んでいます。
現場には島田先生の『アルカトラズ幻想』、『Pの密室』、『最後の一球』、『星籠の海』などや、麻耶先生の『隻眼の少女』や『翼ある闇』(2冊とも2014年8月発売)などおよそ1,000冊の新刊本が用意されておりました。聞くところによると完売したらしいです。
そして席に座っている人たちは自分で本を持ち込んでおり短い列に並ぶことができるため余裕があり、またはサインがいらないから座っております。
ちょっと見づらいかもしれませんが書籍購入組の列は部屋を一周し更に外にまでズラッと並んでいるのに対し、持参組の列はせいぜい数十名しか並んでおりません。
私は北京から本を一冊も持ってきていないので、購入列に並ぶのが妥当なのですが19時から21時の2時間しかないサイン会では絶対に私の番が来ないと思い、列から抜けて持参組の列に並び直し、両先生から握手だけしてもらい会場の椅子に座りました。
そこでのんびりとサイン会の様子を眺めていたのですが、参加者の多さに一番戸惑っていたのは主催者側のようで会場には「サインは1人1冊までです」というアナウンスが流れ、その後に「サインを貰った人は出て行ってください」と指示が出され、サインを貰い自分の席に戻ろうとした女性がスタッフに強引に追い出されそうになっていました。
何故こういうことが起こってしまうのかと言うと、問題は持参組の列にありました。彼らは一人で数冊の本を持ってきている人が多く、私が見たところでは麻耶先生の『翼ある闇』の日本語版文庫本まで持っている人もおりました。ただしスタッフにその本へのサインを断られておりましたが。
そして彼ら持参組の列は短いために本を持って何度も並ぶ直すことが可能となっているわけです。これが中国のサイン会で見る通常の光景か定かではありませんが、以前北京交通大学で行われた島田荘司先生のサイン会でもやはり彼らのような人がいました。
その所持してきた数冊の本が彼一人のものかそれともサイン会に行けない友人に頼まれて持ってきたものかわかりませんが、彼らは仲間と手分けして何とか全ての本にサインを貰おうとしておりました。
その結果事件が起こります。全く進まない購入組の列の後ろの方に並んでいた女性がスタッフに対して突然「アイツもアイツもアイツももうサインを貰ったのにまた並んでいるぞ!ルールを守れ!ルールを!!」と現場を静まらせるほどの絶叫を上げ、会場から出て行きました。
私も既に並び終えた人間なのでこれ以上居続けたら流れ弾を食らう恐れがあったので会場を後にしました。このとき既に20時を回っておりました。そして会場の外の光景がこちらです。
まだ外にこれだけの人数が並んでいました。
結果としてこの日は500人以上が集まり、数百人がサインを貰えなかったとのこと。このことに対し新星出版社の褚盟氏はマイクロブログで「空前の成功だが上海の読者には申し訳ない」とコメントを出しました。
上海に限らず、私のように北京などの他都市から来た読者もたくさんいたでしょう。怒鳴った女性もしかり、恐らく島田先生宛の手紙を日本語で書いていた女性も会場にはおり、中国人読者が如何に先生方に会いたかったのかをうかがい知れます。
褚盟氏は今回の失敗を反省し、上海に『日本推理文化盛会』(日本推理文化大会)を組織すると宣言しました。具体的にどんなことをする組織なのかは不明ですが、上海にいる日本推理小説の読者の受け皿となるでしょう。
また5月3日に島田荘司先生がマイクロブログで話していた『新星島田賞』短編賞設立についても今回の来中で進展があったに違いありません。
今回のブックフェアの大盛況ぶりを肌で感じた島田荘司先生はマイクロブログで「中国に住んで、中国の作家になりたいと、本気で思いましたよ」と中国に対し大変好意的なコメントを出しました。
『新星島田賞』もあることですし、なんか今年辺りにもう一回中国に来てくれそうですね。またサイン会があったら今度は必ずサインを貰おうと思います。
『北京高校推理聯盟 第1回ミステリー作品募集大会』では北京の各大学合計12のミス研が参加し、12の作品がエントリーされました。当日に全ての作品を読む時間などは当然無かったため、執筆者による作品のあらすじと特徴の紹介に留まりましたが、中国色を強く出した作品や、同人誌的なパロディ、実験的な内容、有名作品のオマージュなど、聞く限りでは面白そうでした。
本当は前作品きちんと紹介したいのですが、何せもう二週間以上前のことで、しかもメモも十分に取っていなかったので、入賞作品のみ紹介しようと思います。
とりあえず参加団体の一覧をば。
北京大学推理協会
北交推理社
北航推理愛好者協会
北京体育大学夏鎮SHARP-SOUL推理
北京電影学院
北京第二外国語大学
華北電力大学風庄推理社
首都経済貿易大学灰斑馬推理社
清華大学学生推理協会
中央民族大学夜之瞳協会
中国人民大学推理協会
中国法政大学推理第13研究会
これら12団体の中から以下の作品が選出された。
清華大学から
寝室驚魂
(停電になった部屋に突如何者かが出現し、水浸しの靴跡を残して去っていった。そいつの目的とは一体?)
人民大学から
怪館風:五角館殺人密報
(カー、エラリー、アガサという名の男女が五角形の館に宿泊する。あの作品のオマージュだということは一目瞭然だ。)
華北電力大学から
戯子人生
(清の時代を舞台にした作品だったと思う)
3名の受賞者には『歳月推理』で『罪悪天使』シリーズを連載している推理小説家午曄氏から賞品が送られた。氏は北京の大学で教鞭を取っているので適任だろう。
華北電力大学から
三分之三復讐
(3人がそれぞれ相手の殺人を依頼する。誰か1人は残るはずだが全員死んでしまうという話。タイトルは『北の夕鶴2/3の殺人』から取っている。)
清華大学から
五幕劇
(全然覚えてない。タイトルから推察するに演劇関係の話だろうか)
これら2名の受賞者には李清?とかいう先生から賞が送られた。この人の素性は最後までよくわからなかった
人民大学から
関于心理健康的一個故事
(これも覚えていない。タイトルをネットで検索すると該当作品が出てきたので読んでみたところ、大学内で起きた過去の事件を告白する形式らしい)
1位の受賞者には新星出版社午夜文庫副編集長褚盟氏から賞品が送られた。
誰かが後日まとめてくれるだろうと期待していたからあんまりメモを取っていなかったんだけど、まさか今になるまで誰も書かないとは思わなかった。せめて司会を担当した北京交通大学のミス研ぐらいはレポート書いてほしかったが、写真をアップするだけで文章は何も書いていないようだ。
審査員の判断基準がいまいちわからなかったが、イロモノはあまり選ばれず手堅い結果になった顔触れだ。
私としては名前の響きだけで北京大学推理協会が書いた『十二生肖館殺人事件』が受賞すればと思っていたのだが、名前と内容が釣り合っていなかったのかあえなく落選。8,000字という文字制限の中でこのタイトルはあまりに仰々しかった。
そしてこれもネットを検索すると2011年にウェブに掲載した作品を読むことができる。大学のイベントとはいえ出版のチャンスもゼロではないのだから削除したほうがいいと思うんだけどなぁ。
受賞作が果たして内輪のみで発表されるに留まるのか、それとも世に出ることになるのかわからないまま授賞式典は終わり、進行はいよいよメインの島田荘司講演会へと移る。
長いので次回に。